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商店街を抜けると、円形の広い広場があって、翼のついたキューピットの石像と噴水があった。
その周りにはおしゃれなレストランやカフェが立ち並び、高価な服装の人々が楽しそうに食事やおしゃべりの時間を楽しんでいた。
そんな空間にゴミ袋を抱えたロミが歩いてくると、レストランの家族連れはピタリと食事をやめ不快そうに少年を睨み、カフェの恋人たちは不機嫌そうに傾けていたカップを置いた。
キューピットの石像でさえ、日差しの力を借りて少年に顔に暗い影を作って顔を隠したのである。
この孤独な少年は、くたびれた足を広場のベンチで休めたかったのだが、口を結んで我慢した。怒りで、ロミの胸は今にも張り裂けそうだった。世界全体が、少年を嫌っているようにしか思えなかった。
(こんな世界なんて、壊れてしまえばいい。もう、どこにも帰りたくない!)
やり場のない思いのロミは、小走りで町の真ん中から抜け出た。
深い緑の森を抜けると、すっかり人気はなくなっていた。少年の足は家とは反対の方向を突き進んでいた。人が来ない場所に行きたかったのである。
しだいに陽が傾き、山ぎわが赤く染まり始めた頃、ロミはふと立ち止まった。
ザワザワと静かに川の流れる音がしたからだ。
少年は薮の小道からそれて、音のする方へ向かって進んだ。
木々のすき間から、河原が見えた。吸い寄せられるように土手を下り、茫々に生い茂った草花をわけいって進んだ。
甘酸っぱい花の匂いがした。どこまでも穏やかに風がそよぎ、少年の頬を撫でながら吹いた。
サワサワと空に拳をつきあげるように、真っすぐに伸びた草の穂がゆれている。ピピピピと、小鳥が歌を歌うように、軽やかにさえずっている。
その周りにはおしゃれなレストランやカフェが立ち並び、高価な服装の人々が楽しそうに食事やおしゃべりの時間を楽しんでいた。
そんな空間にゴミ袋を抱えたロミが歩いてくると、レストランの家族連れはピタリと食事をやめ不快そうに少年を睨み、カフェの恋人たちは不機嫌そうに傾けていたカップを置いた。
キューピットの石像でさえ、日差しの力を借りて少年に顔に暗い影を作って顔を隠したのである。
この孤独な少年は、くたびれた足を広場のベンチで休めたかったのだが、口を結んで我慢した。怒りで、ロミの胸は今にも張り裂けそうだった。世界全体が、少年を嫌っているようにしか思えなかった。
(こんな世界なんて、壊れてしまえばいい。もう、どこにも帰りたくない!)
やり場のない思いのロミは、小走りで町の真ん中から抜け出た。
深い緑の森を抜けると、すっかり人気はなくなっていた。少年の足は家とは反対の方向を突き進んでいた。人が来ない場所に行きたかったのである。
しだいに陽が傾き、山ぎわが赤く染まり始めた頃、ロミはふと立ち止まった。
ザワザワと静かに川の流れる音がしたからだ。
少年は薮の小道からそれて、音のする方へ向かって進んだ。
木々のすき間から、河原が見えた。吸い寄せられるように土手を下り、茫々に生い茂った草花をわけいって進んだ。
甘酸っぱい花の匂いがした。どこまでも穏やかに風がそよぎ、少年の頬を撫でながら吹いた。
サワサワと空に拳をつきあげるように、真っすぐに伸びた草の穂がゆれている。ピピピピと、小鳥が歌を歌うように、軽やかにさえずっている。
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