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第10章「戦火に燃える王国」
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遠くの空で、赤い光が瞬きました。
それは花火ではなく、燃え上がる砦と戦場を照らす炎――。
蒼月の塔の最上階から、わたくしはその光景を見下ろしていました。
胸の奥がざわつき、杖を握る手が震えます。
(……ユリウス。そこに、あなたがいるのですね)
彼が王太子として戦場に立つことは理解していました。ですが、実際に剣を手にして戦火の中へ赴いたと知った瞬間、理性よりも恐怖が勝ってしまったのです。
✴✴✴
「殿下! 敵の部隊が右翼から押し寄せております!」
兵の声が飛び、剣を構えたユリウスが冷徹に指示を飛ばします。
髪には血煙と灰がまとわりついているというのに、その背はまっすぐで揺るがない。
「怯むな! 俺が先陣に立つ!」
王剣「グロリア」が唸り、ひと振りで敵を吹き飛ばしました。
その姿に兵士たちは歓声を上げ、希望を取り戻します。
「殿下が……殿下がおられる限り!」
だが――。
背後に潜む呪いは、確実に彼の命を削っていました。
わたくしは塔の中で震えていました。
このままなら、呪いは彼を蝕んでしまう。
分かっているのに、足は床に縫いとめられたように動かせない。
「……行ってはなりません。再び愛する者を失うに違いないのです」
自分に言い聞かせても、心臓は耳鳴りのように彼の名を呼び続ける。
侍女のマリアンヌがそんなわたくしを見上げ、真剣な目で告げました。
「もしセリーヌ様が行かなくて、殿下が死んでしまったら――きっと、一生後悔しますよ?」
「……っ!」
突き刺さる言葉。
本当にそうでした。後悔するに決まっているのです。
✴✴✴
わたくしが蒼月の塔から空を駆け下りた時、戦場は混乱の渦中でした。
あちこちで火の手が上がり、兵士たちが必死に剣を振るっている。
そして――ユリウスの姿。
満身創痍でありながら、なお剣を掲げる彼。
「――ユリウス様!」
叫ぶなり、蒼白の月光がわたくしの身体を包みました。
塔と同じ魔力の波動が戦場に降り注ぎ、兵士たちが一斉に振り返ります。
「魔女だ……! 蒼月の魔女が現れた!」
「助かった……!」
「彼女が我らと共に戦ってくださる!」
蒼月の光が広がり、絶望しかなかった戦場に一筋の希望が差し込むのを、肌で感じました。
「来てくれたのか、セリーヌ!」
血塗れのユリウスが、それでも笑ってわたくしの名を呼びます。
「あなたを死なせたくは……ありませんから!」
呪文を唱えると、青白い氷の刃が奔流となって前線を薙ぎ払いました。
その隙を逃さず、ユリウスが王剣を振るいます。
「ぬかるな! 今ここで押し返す!」
剣と魔法が重なり合い、兵士たちは勢いを取り戻しました。
背中を預ける感覚。
わたくしたちの呼吸が合っていることに、戦場でさえ胸がときめいてしまう。
(ああ……恐怖より、共に戦う今が愛おしい――)
けれど、呪いは確実に彼を削っていました。
血に濡れた手が震え、口元には赤を滲ませて――。
「ユリウス!」
駆け寄って手を取り、わたくしは思わず涙声になります。
「無茶しないでください!」
「……大丈夫だ。君が隣にいてくれる。それだけで……」
そう言って彼の大きな手がわたくしの頬に触れる。
戦火の中、それはあまりにも優しく、胸を締めつけました。
「愚かよ……でも……そんなあなたを……」
声は炎にかき消されました。
けれど彼には届いていたはずです。
それは花火ではなく、燃え上がる砦と戦場を照らす炎――。
蒼月の塔の最上階から、わたくしはその光景を見下ろしていました。
胸の奥がざわつき、杖を握る手が震えます。
(……ユリウス。そこに、あなたがいるのですね)
彼が王太子として戦場に立つことは理解していました。ですが、実際に剣を手にして戦火の中へ赴いたと知った瞬間、理性よりも恐怖が勝ってしまったのです。
✴✴✴
「殿下! 敵の部隊が右翼から押し寄せております!」
兵の声が飛び、剣を構えたユリウスが冷徹に指示を飛ばします。
髪には血煙と灰がまとわりついているというのに、その背はまっすぐで揺るがない。
「怯むな! 俺が先陣に立つ!」
王剣「グロリア」が唸り、ひと振りで敵を吹き飛ばしました。
その姿に兵士たちは歓声を上げ、希望を取り戻します。
「殿下が……殿下がおられる限り!」
だが――。
背後に潜む呪いは、確実に彼の命を削っていました。
わたくしは塔の中で震えていました。
このままなら、呪いは彼を蝕んでしまう。
分かっているのに、足は床に縫いとめられたように動かせない。
「……行ってはなりません。再び愛する者を失うに違いないのです」
自分に言い聞かせても、心臓は耳鳴りのように彼の名を呼び続ける。
侍女のマリアンヌがそんなわたくしを見上げ、真剣な目で告げました。
「もしセリーヌ様が行かなくて、殿下が死んでしまったら――きっと、一生後悔しますよ?」
「……っ!」
突き刺さる言葉。
本当にそうでした。後悔するに決まっているのです。
✴✴✴
わたくしが蒼月の塔から空を駆け下りた時、戦場は混乱の渦中でした。
あちこちで火の手が上がり、兵士たちが必死に剣を振るっている。
そして――ユリウスの姿。
満身創痍でありながら、なお剣を掲げる彼。
「――ユリウス様!」
叫ぶなり、蒼白の月光がわたくしの身体を包みました。
塔と同じ魔力の波動が戦場に降り注ぎ、兵士たちが一斉に振り返ります。
「魔女だ……! 蒼月の魔女が現れた!」
「助かった……!」
「彼女が我らと共に戦ってくださる!」
蒼月の光が広がり、絶望しかなかった戦場に一筋の希望が差し込むのを、肌で感じました。
「来てくれたのか、セリーヌ!」
血塗れのユリウスが、それでも笑ってわたくしの名を呼びます。
「あなたを死なせたくは……ありませんから!」
呪文を唱えると、青白い氷の刃が奔流となって前線を薙ぎ払いました。
その隙を逃さず、ユリウスが王剣を振るいます。
「ぬかるな! 今ここで押し返す!」
剣と魔法が重なり合い、兵士たちは勢いを取り戻しました。
背中を預ける感覚。
わたくしたちの呼吸が合っていることに、戦場でさえ胸がときめいてしまう。
(ああ……恐怖より、共に戦う今が愛おしい――)
けれど、呪いは確実に彼を削っていました。
血に濡れた手が震え、口元には赤を滲ませて――。
「ユリウス!」
駆け寄って手を取り、わたくしは思わず涙声になります。
「無茶しないでください!」
「……大丈夫だ。君が隣にいてくれる。それだけで……」
そう言って彼の大きな手がわたくしの頬に触れる。
戦火の中、それはあまりにも優しく、胸を締めつけました。
「愚かよ……でも……そんなあなたを……」
声は炎にかき消されました。
けれど彼には届いていたはずです。
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