【完結】蒼月の魔女は二度と愛さないはずでした ―呪われた王太子と幽閉の塔―

朝日みらい

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最終章「契約から永遠へ」

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 長い戦いが終わり、ようやく訪れた静寂の夜。

 王城の大広間には、煌めくシャンデリアと無数の燭火が揺らめいていました。けれど、わたしの胸の中はまだ落ち着きませんでした。

 ――契約の一年が終わる。

 心のどこかで、その言葉を繰り返してしまうのです。

 わたしとユリウスの関係はあの時、「一年間だけ」と決められた形でした。戦乱も呪いも乗り越えてなお、時間だけは淡々と過ぎていく。

 彼は……どうするのでしょう。

「セリーヌ」

 ふいに名を呼ばれて、胸が大きく跳ねました。振り返れば、礼装に身を包んだユリウスが立っていました。戦の時とは違う、凛とした王太子の顔。けれどその瞳の奥には、変わらぬ熱が宿っていて。

「……どうかしましたか」

 わたしはわざと平静を装いますが、足先は小刻みに震えていました。

 彼はすっと歩み寄り、わたしの右手を取ります。温かな掌に包まれて、息が詰まりました。

「君に伝えたいことがある」

 その声に呼ばれ、大広間にいた廷臣や侍女たちがざわめきました。

 赤い絨毯の中央で、ユリウスは片膝をつきます。

「契約の花嫁ではなく――」

 静まり返る空気の中、ただ彼の声だけが響きました。

「本当の妻として、俺の隣にいてほしい」

 ざわっ、と人々が息を呑む音。わたしは呆然としてしまいました。

 なにを言われたのか、一瞬理解できないほどに。

「ユ、ユリウス……?」

「セリーヌ・アルディア。俺の……人生も、この国も、未来も。全部を共にしてほしい」

 胸が熱くなって、視界が滲みます。どうして。

 あんなに自分に自信がなくて、呪いの魔女であることを理由に引き下がろうとしていたのに。

 この人だけは、ずっと手を伸ばしてくれた。

「わたしは……」

 言葉が詰まります。喉の奥が震えて、何も言えない。

 ――でも。

 ユリウスが不安げにわたしを見上げた時、自然と笑みが零れました。

「……はい。ユリウス様」

「……!」

「これから先も、ずっと……わたしの居場所は、あなたの隣です」

 歓声が沸き起こりました。廷臣たちが口々に「王太子殿下万歳!」「蒼月の妃に祝福を!」と叫び、侍女や兵たちまで涙ぐんでいます。

 そんな喧騒の中で、わたしはただ彼の胸に飛び込みました。

「セリーヌ……!」

 強く抱きしめられて、耳元に聞こえる鼓動が心地よくて。百年、孤独に閉ざされてきた心がようやく解かれたのだと実感しました。

「君の髪、まだ月の光みたいに綺麗だ」

「な、なにを……人前でそういうことを……!」

 抗議しかけた途端、彼の大きな手がそっとわたしの髪を撫でました。くすぐったいのに、嬉しくて。

「……もう、責任取ってもらいますからね」

「もちろんだ。逃げない」

 彼はそう囁き、頬に優しく触れてきました。

 触れられた場所が熱くなって、息が止まりそう。でも、逃げ出したりなんてしませんでした。

 唇が重なる。

 ――あの夜の、月下の口づけよりもずっと深く、甘く。

 もう契約ではなく、本当の意味で結ばれた証として。

 歓声が鳴り止まぬ大広間で、わたしたちはただ互いを見つめ合いました。

「これで……終わりじゃない」

 ユリウスが耳元で囁きます。

「俺たちの物語は、これから始まるんだ」

 わたしは笑みを浮かべ、肩に頭を預けました。

「ええ……ずっと一緒に」




【完】
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