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第2章:屋根裏部屋と、毒令嬢の微笑み
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再びこの場所に戻ってくることになるとは、さすがに予想しておりませんでしたわ。
屋根裏部屋。それは、幼い頃わたくしが「邪魔な存在」として父に疎まれた末に押し込められた、小さな閉鎖空間。
けれど、皮肉なことに、こここそがわたくしにとって“本当の意味で息ができる場所”なのです。
物置きとして扱われていたはずの部屋を、わたくしは少しずつ整えていきました。
分厚いカーテンをかけて日差しを遮り、机の上には毒草の標本。棚には拷問器具のミニチュアと呪物コレクション。異端と蔑まれるような品々が、わたくしの安らぎを形作っていました。
ドアの前で母は眉をひそめ、「いいかげんそんな趣味はやめなさい」と言いましたが……あら、止めてくださるのは結構。これこそが、わたくしの本音なのですもの。
「こんなにも息苦しい世界に、愛なんてあるのかしら」
誰にも聞かれないような小さな声で、ぽつりと呟いた言葉は、虚空に吸い込まれていきました。
“仮面”の令嬢を演じ続けて、見返そうと努力しても、結局は婚約破棄。父母には理解されず、貴族社会には染まりきれないわたくし。
あぁ、なんて滑稽なのでしょう。
その夜、母が持ってきたのはとんでもない再婚話でした。
「セリーヌ、次の婚約者が決まったわ。相手は辺境のヴァルクレア公爵よ。冷血と呼ばれている方らしいけれど、逆らわないようにね」
冷血公。
なんて魅惑的な響きですこと。
人を切り捨て、誰にも笑顔を見せず、血も涙もないと噂される公爵――それが、次の相手ですって?
……まるで、童話に登場する“悪役令嬢”が出会う、氷の王子のようではありませんか。
普通の令嬢であれば「恐ろしい方と結婚なんて!」と嘆くところでしょうけれど……ええ、わたくしは違います。
「面白そうですわね」
わたくしは、呪物に囲まれた部屋でにやりと笑い、毒草の香りを深く吸い込みました。
毒令嬢と冷血公――ふふ、意外と相性がよろしいかもしれませんわね。
政略結婚だなんて、結構なことですわ。わたくし、感情よりも戦略で結婚を捉えることには慣れておりますし。
ただ、ほんの少しだけ心の奥が、ざわりと揺れました。
……わたくしの“仮面”を、彼は見抜けるかしら。
そしてその冷たい顔の裏に、ほんの僅かでも“血”が通っているのか――それを確かめるのも、きっと楽しいことでしょう。
そんな期待が胸に芽生えているとは、自分でも思いもよらぬことでした。
わたくし、セリーヌ・エルバージュ。
演技と毒の仮面を纏いながら、次なる舞台へと歩み始めます。
さぁ、お待ちになってくださいな。
冷血公爵ダリウス・ヴァルクレア様――あなたの心に、毒の棘が刺さる瞬間を。
屋根裏部屋。それは、幼い頃わたくしが「邪魔な存在」として父に疎まれた末に押し込められた、小さな閉鎖空間。
けれど、皮肉なことに、こここそがわたくしにとって“本当の意味で息ができる場所”なのです。
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分厚いカーテンをかけて日差しを遮り、机の上には毒草の標本。棚には拷問器具のミニチュアと呪物コレクション。異端と蔑まれるような品々が、わたくしの安らぎを形作っていました。
ドアの前で母は眉をひそめ、「いいかげんそんな趣味はやめなさい」と言いましたが……あら、止めてくださるのは結構。これこそが、わたくしの本音なのですもの。
「こんなにも息苦しい世界に、愛なんてあるのかしら」
誰にも聞かれないような小さな声で、ぽつりと呟いた言葉は、虚空に吸い込まれていきました。
“仮面”の令嬢を演じ続けて、見返そうと努力しても、結局は婚約破棄。父母には理解されず、貴族社会には染まりきれないわたくし。
あぁ、なんて滑稽なのでしょう。
その夜、母が持ってきたのはとんでもない再婚話でした。
「セリーヌ、次の婚約者が決まったわ。相手は辺境のヴァルクレア公爵よ。冷血と呼ばれている方らしいけれど、逆らわないようにね」
冷血公。
なんて魅惑的な響きですこと。
人を切り捨て、誰にも笑顔を見せず、血も涙もないと噂される公爵――それが、次の相手ですって?
……まるで、童話に登場する“悪役令嬢”が出会う、氷の王子のようではありませんか。
普通の令嬢であれば「恐ろしい方と結婚なんて!」と嘆くところでしょうけれど……ええ、わたくしは違います。
「面白そうですわね」
わたくしは、呪物に囲まれた部屋でにやりと笑い、毒草の香りを深く吸い込みました。
毒令嬢と冷血公――ふふ、意外と相性がよろしいかもしれませんわね。
政略結婚だなんて、結構なことですわ。わたくし、感情よりも戦略で結婚を捉えることには慣れておりますし。
ただ、ほんの少しだけ心の奥が、ざわりと揺れました。
……わたくしの“仮面”を、彼は見抜けるかしら。
そしてその冷たい顔の裏に、ほんの僅かでも“血”が通っているのか――それを確かめるのも、きっと楽しいことでしょう。
そんな期待が胸に芽生えているとは、自分でも思いもよらぬことでした。
わたくし、セリーヌ・エルバージュ。
演技と毒の仮面を纏いながら、次なる舞台へと歩み始めます。
さぁ、お待ちになってくださいな。
冷血公爵ダリウス・ヴァルクレア様――あなたの心に、毒の棘が刺さる瞬間を。
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