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第6章:誘拐と救出、そして抱擁
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それは、ほんの些細な視察のはずでした。
街の状況を知るため、侍女たちと共に辺境の集落を訪れたわたくしは、突然現れた蛮族に囚われ、馬車ごと連れ去られてしまったのです。
目隠しをされたまま、どれほど揺られていたでしょうか。次に視界が開けた時には、粗末な小屋の中で手足を拘束されておりました。
周囲に聞こえるのは荒々しい笑い声、汚れた武器の音、そして、わたくしの名を罵倒するような言葉ばかり。
心は冷静でした。慌てても、叫んでも、どうにもならないことをわたくしは知っています。
それでも、ふと彼の顔を思い浮かべてしまったのです。
───ダリウス様なら、どうされるかしら。
わたくしのような“毒令嬢”がいなくなって、少しは清々するとでも思われるのでしょうか。
そう、勝手なことばかり考えていたのです。救いを望むなんて、弱い女のすることですもの。
けれど。
その夜。
雷のような轟音とともに、小屋の扉が吹き飛ばされました。
赤黒く染まった剣を持ち、血まみれの外套を羽織った男が、無言で踏み込んできたのです。
「……旦那様」
わたくしは、息を飲みました。
ダリウス様の瞳は、荒れ狂う戦場の只中にありながら、わたくしだけを捉えていました。
誰の声にも耳を貸さず、増援を待てという部下の言葉も無視して、彼は“たった一人”で敵陣へ突撃して来られたのです。
無言のままわたくしを抱き上げ、震える肩にそっと腕を回してくださいました。
「……お前だけは、絶対に守る」
その声は、低く、かすれ、でも確かにわたくしの胸へ深く刻まれていきました。
───わたくし、もう駄目ですわ。
強くて、冷たくて、どこか孤独な彼が、こんなふうに自分を守ってくれたなんて。
あの瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなりました。
帰路につく馬車の中、傷だらけの彼の腕にすがりながら、わたくしはようやく自分の想いを理解したのです。
「旦那様……私、あなたが好きなのです」
誰にも聞かれぬよう、でも確かに届くように、震える声で言いました。
彼は、ほんの少しだけ目を見開いたあと───わたくしの頭をそっと抱き寄せてくださいました。
夜が更け、静かになった城の中で、わたくしたちは唇を重ねました。
甘くも、切なくも、優しくもあったその一瞬。
それは、初めて“夫婦”として触れ合った夜でした。
───毒令嬢と冷血公。
不器用なふたりの愛が、ようやく始まったのです。
街の状況を知るため、侍女たちと共に辺境の集落を訪れたわたくしは、突然現れた蛮族に囚われ、馬車ごと連れ去られてしまったのです。
目隠しをされたまま、どれほど揺られていたでしょうか。次に視界が開けた時には、粗末な小屋の中で手足を拘束されておりました。
周囲に聞こえるのは荒々しい笑い声、汚れた武器の音、そして、わたくしの名を罵倒するような言葉ばかり。
心は冷静でした。慌てても、叫んでも、どうにもならないことをわたくしは知っています。
それでも、ふと彼の顔を思い浮かべてしまったのです。
───ダリウス様なら、どうされるかしら。
わたくしのような“毒令嬢”がいなくなって、少しは清々するとでも思われるのでしょうか。
そう、勝手なことばかり考えていたのです。救いを望むなんて、弱い女のすることですもの。
けれど。
その夜。
雷のような轟音とともに、小屋の扉が吹き飛ばされました。
赤黒く染まった剣を持ち、血まみれの外套を羽織った男が、無言で踏み込んできたのです。
「……旦那様」
わたくしは、息を飲みました。
ダリウス様の瞳は、荒れ狂う戦場の只中にありながら、わたくしだけを捉えていました。
誰の声にも耳を貸さず、増援を待てという部下の言葉も無視して、彼は“たった一人”で敵陣へ突撃して来られたのです。
無言のままわたくしを抱き上げ、震える肩にそっと腕を回してくださいました。
「……お前だけは、絶対に守る」
その声は、低く、かすれ、でも確かにわたくしの胸へ深く刻まれていきました。
───わたくし、もう駄目ですわ。
強くて、冷たくて、どこか孤独な彼が、こんなふうに自分を守ってくれたなんて。
あの瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなりました。
帰路につく馬車の中、傷だらけの彼の腕にすがりながら、わたくしはようやく自分の想いを理解したのです。
「旦那様……私、あなたが好きなのです」
誰にも聞かれぬよう、でも確かに届くように、震える声で言いました。
彼は、ほんの少しだけ目を見開いたあと───わたくしの頭をそっと抱き寄せてくださいました。
夜が更け、静かになった城の中で、わたくしたちは唇を重ねました。
甘くも、切なくも、優しくもあったその一瞬。
それは、初めて“夫婦”として触れ合った夜でした。
───毒令嬢と冷血公。
不器用なふたりの愛が、ようやく始まったのです。
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