【完結】公爵様に恋したら、なぜか弟の文官に監視されている件について ~一目惚れしたのは兄なのに、邪魔してくるのは弟でした~

朝日みらい

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第4章:それでも公爵様が好きだから

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 負けてたまるもんですか!

 もう一度だけ賭けてみたいのです。


 分かってます。私は貧乏男爵家の令嬢。

誰かにとっては、ただの社交界の脇役かもしれません。


 でも――

だからこそ、この恋だけは、諦めたくないんです。

 私の心が本当に望むものは、きっとそこにある気がして。



「今日こそは……絶対に、会ってみせるぞ……!」

 空を仰いだその日、王都は晴天でした。

まるで私の決意に応えるかのように。



 * * *

 公爵様が午後の散歩をされる。  

 そんな噂を入手した私は、時間を逆算して、王宮庭園へ向かいました。

 いつもは遠目にしか見られなかった、あの薔薇のアーチ。

そこに立てば、公爵様が通るかもしれない――まさに、渾身の一手。

 ドレスの裾を整え、ブローチの位置を確認して、私は花のアーチに身を潜めました。


(落ち着いて……たった一言でも話せたら、それでいいの。運命を繋ぐ最初の一歩なんだから!)


 ――そして、その瞬間は来ました。


「……やっと、見つけた……!」

 薔薇のアーチの向こうに、佇む金髪の麗人。

 光に包まれる横顔。長身に映える優雅な立ち姿。  

 この景色を、私は一生忘れない――と、思ったのです。  


 ですが。

「また、ですね……!」

 視線を向けた先。

出ました、妨害文官。


「もはや恒例行事じゃないですか、ジーク様!?」

「兄上の散歩時間における付き添い業務です」

「どうして毎回あなたがいるの!? 多すぎません!?」

「兄上の予定管理、健康管理、政務補佐、歩行補助、そして警備も私の管轄です」

「もはや一人で王宮回してますから!」

 心の叫びが思わず口に出てしまった私に、ジーク様は一つため息を漏らして。

「……確かに、少々多すぎました。健康管理は侍医に任せます」

「いやそういう問題じゃないって……!」

「でも、あなたに会えたからよかったです」

「……はあ」


 今日こそは――そう意気込んだ私の決意は、再び“万能文官”の壁に阻まれてしまいました。

 でも、こんなことで諦められるほど、私は弱くない。

(それでも、公爵様が好きだから。好きだから、退かない!)



 * * *

 庭園のベンチに一人腰掛け、紅茶を冷ましていた時でした。

 ふと気配を感じて、顔を上げれば
――


ジーク様が、静かに立っていました。


「あの……ついてこなくていいですから」

「任務です」

「任務にしては、至近距離すぎません?」

「ベンチの構造上、距離が取りにくいのです」

「どこの建築責任者ですか!?」

 軽口を叩いてみたものの、やはり彼の目は冷静そのもの。


 でも……不思議と、以前ほど威圧的には感じないのです。


(……なんでだろう。冷たいはずなのに、少しだけ温度を感じる)


 それは、庭園の陽射しのせい?  

 それとも――私の気持ちが、変わりはじめているせい?

「近くで見ると、とても美しい方ですね」

「な、何?」



 * * *

 その日、私は公爵様に手紙を届けようとしました。  

 知り合いの侍女経由で手渡せば、さすがに直接渡すよりは安全なはず――そう思ったからです。


――ですが!

「文官を通さずに侍女に渡すとはルール違反。宛名と内容も確認済み。結果、提出は認められません」

「えぇー!? どうして!?」

「大好きという乙女心満載の感情の暴走が見受けられる内容でしたので」

「暴走!?」

 文字数調整して、敬語にしたのに!?


「貴族令嬢としての品位、格式に欠ける恐れあり、機密取り扱い基準から逸脱しています」

「……私の気持ちは、国家機密なの!? そんなに面倒くさい感情ですか!?」


 苛立ちと焦りが入り混じりながらも、私は彼の目に見えているものが気になってきました。


 感情を処理する。予定を管理する。感傷には惑わされない。

 そんな彼だからこそ、守れるものがある。  

 でも、その中に、私の想いは含まれていないのかな……?


「私の恋って、そんなに見守る価値ないですか?」

 問いかけた瞬間、彼が静かに、でも確かに立ち止まりました。

「……価値の問題ではありません。守るべきものは、騒がずに、静かに見守るものですから」

「じゃあ、見守ってくれてるってこと……?」

「はい。ずっと可愛いあなたを見守り続けます」

「か、可愛い……! ジーク様は本気で私をそう思っているんですか?」

「……」

 それ以上は、彼は何も言いませんでした。

 でも、表情の奥にある、ほんのわずかな揺れが。

 私にとって、それだけで十分だったのです。


(私、ちゃんとこの人に見られてる。見守られてる――)

(……好き、って言うのは、きっとその延長線上にある感情)


 公爵様への想いと、文官様とのやりとり。

そのどちらも、私の中で形を変えながら揺れ始めていました。
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