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第6章:絵描きの部屋と秘密のアトリエ
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元婚約者であるエリオット様が去っていった後、わたしはただ、呆然と公爵様を見つめていました。
わたしを侮辱し、絵を破り捨てた彼に、公爵様は「君が破ったものを、私は大切にしている」と、静かに、しかし力強く言い放ってくださった。
その言葉は、わたしの心を再び深くえぐり、そして、同時に温かく包み込んでくれる、不思議なものでした。
わたしという人間を、そしてわたしの絵を、公爵様は本当に大切に思ってくださっている。
その事実が、わたしを再び立ち直らせてくれたのです。
「セシリア嬢、あまり気に病む必要はありません。彼はただ、自分の価値観でしか物事を判断できない、哀れな男です」
公爵様は、そう言って、わたしの頭にそっと手を置いてくださいました。
わたしは、何も言葉を返すことができませんでした。
ただ、その温かい手のひらの感触が、この身に深く染み入るのを感じていました。
あの日以来、公爵邸での日々は、さらに穏やかで、そして、確かな温かさに満ちるようになっていきました。
リリィちゃんは、以前にも増してわたしに懐いてくれましたし、公爵様は、毎日少しずつ、わたしに話しかけてくださるようになりました。
そして、その日は突然やってきました。
わたしが庭でスケッチを終え、部屋に戻ろうとした時、公爵様がわたしの前に立ち、一本の鍵を差し出してくださったのです。
「セシリア嬢。君に、ここを差し上げよう」
その鍵の先に、一体何があるのだろうと、わたしは戸惑いながら、その鍵を受け取りました。
「これは……?」
「君のアトリエだ。好きなように使ってくれたまえ。君は、絵を描いている時が一番、穏やかな顔をしている。私は、その顔を見るのが好きなんだ」
わたしは、驚きと混乱で、何も言葉が出ませんでした。
まさか、わたしのために、アトリエを用意してくださるなんて。
そんなこと、夢にも思っていませんでしたから。
公爵様に案内されて、鍵を開けた部屋は、広く、静かで、そして、窓から差し込む陽の光で満ち溢れていました。
壁には、たくさんのキャンバスが立てかけられており、部屋の隅には、使い込まれたイーゼルと、色とりどりの絵の具が置かれています。
ここが、わたしだけのアトリエ。
わたしは、その部屋の真ん中に立ち、周囲を見渡しました。
ああ、なんて温かくて、優しい場所なのだろう。
初めて絵を描くことを心から許されたような気持ちになって、わたしは、その場に立ち尽くすことしかできませんでした。
恐る恐る、イーゼルに向かいます。
以前、自分の屋敷で絵を描こうとした時とは違い、わたしの指先は、もう震えていませんでした。
わたしは、新しいキャンバスに、絵筆を走らせ始めます。
絵を描くたびに、少しずつ、心が解けていくのを感じました。
まるで、硬く凍りついていた氷が、春の陽光を浴びて、ゆっくりと溶け出していくように。
絵を描くことが、こんなにも幸せだったなんて。
そう、わたしは絵を描くことが大好きだったのです。
その気持ちを、あの夜会で、エリオット様に奪われてしまった。
でも、今、わたしはまた、その大切な気持ちを、取り戻すことができたのです。
わたしが夢中になって絵を描いていると、扉がそっと開きました。
「おねえちゃーん、何してるの?」
リリィちゃんが、可愛らしい笑顔で顔を覗かせます。
「リリィちゃん、絵を描いているのですよ」
「わぁ! すごーい! それ、わたしー?」
わたしが描いていたのは、庭に咲く、ピンクのバラの花でした。
それなのに、リリィちゃんは、まるで自分の肖像画を描いてもらっているかのように、嬉しそうに笑ってくれました。
そんな娘の姿を、扉の外から、公爵様が穏やかな表情で見つめていらっしゃいました。
穏やかな生活、温かい人々、そして、再び絵を描くことができる喜び。
バラの花を描いていたはずなのに、いつの間にか、その絵は、リリィちゃんの屈託のない笑顔と、公爵様の優しい眼差しに変わっているような気がしました。
わたしの世界が、少しずつ色を取り戻していく――
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ああ、なんて温かくて、優しい場所なのだろう。
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わたしは、新しいキャンバスに、絵筆を走らせ始めます。
絵を描くたびに、少しずつ、心が解けていくのを感じました。
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絵を描くことが、こんなにも幸せだったなんて。
そう、わたしは絵を描くことが大好きだったのです。
その気持ちを、あの夜会で、エリオット様に奪われてしまった。
でも、今、わたしはまた、その大切な気持ちを、取り戻すことができたのです。
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「リリィちゃん、絵を描いているのですよ」
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それなのに、リリィちゃんは、まるで自分の肖像画を描いてもらっているかのように、嬉しそうに笑ってくれました。
そんな娘の姿を、扉の外から、公爵様が穏やかな表情で見つめていらっしゃいました。
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バラの花を描いていたはずなのに、いつの間にか、その絵は、リリィちゃんの屈託のない笑顔と、公爵様の優しい眼差しに変わっているような気がしました。
わたしの世界が、少しずつ色を取り戻していく――
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