【完結】転生したら婚約破棄されたけれど、第二の人生、幸せになりますから!

朝日みらい

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第3章 初恋も知らずに

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 まったく───貴族というものは、なぜこうも舞踏会が好きなのでしょうか。

 流れる音楽に乗って、金糸を織り込んだドレスがふわりと舞い、煌びやかなシャンデリアの下では、誰もが“理想の自分”を演じているようでした。

 ───もちろん、わたしもその一人ですけれど。

 十五歳のわたしは、今夜も例に漏れず、魔法学院から呼ばれて王宮の舞踏会に出席しておりました。

 それもこれも、「フィオナ・エルステッド嬢は才色兼備」とか「魔法学院の至宝」だとか、誰かが勝手に持ち上げてくださったせい。おかげで今夜も舞踏会が始まる前から、十件近い縁談の話が舞い込んでいました。

 ……ええ、すべてお断りさせていただきましたけれども。

「婚約者として、我が家の後継ぎと共に未来を───」

「大変光栄なお話ですが、お気持ちだけありがたく……!」

「フィオナ嬢、わが家の文官の家系に魔法の才が加われば───」

「ですが、わたし、いまだ魔法の研究を極めておりまして……あら、お飲み物をこぼしてしまいましたわ! 失礼!」

 ……ええ。気づけば、断る言い訳のレパートリーだけは、王宮一と噂されているようです。

 政略、体裁、血筋。どれも立派で、間違ってはいないのかもしれません。

でも、わたしが前世で知らなかった「恋」は、そんな打算の向こう側にあるのだと思っているのです。

 心が通う恋───そう、目が合っただけで頬が熱くなるような、手が触れただけで胸が跳ねるような……そんな、恋。

(……まあ、妄想ばかりがふくらんで、現実は何も起きてないんですけどね)

「フィオナ嬢、素敵なお方からお申し出が来ておりますのよ!」

 にっこりと微笑んで、王宮付きの侍女長マーガレットさまがわたしに手紙を差し出しました。わたしは、思わず首を傾げます。

「また縁談……? あの、わたくし、今夜は焼き菓子を持ち帰って研究の続きを──」

「ふふ、お相手は、第三王子アルバート殿下ですわ」

「…………」

 思わず手を止めて、手紙を見つめました。

 第三王子アルバート殿下。

美しく整った金髪と深い青の瞳、柔らかな笑みをたたえる物腰は、王国中の乙女の憧れ。

知性、教養、剣術、政治センス、どれも申し分なく、なにより───完璧すぎるほどの「礼儀」と「優雅さ」で知られる理想の貴公子。

(……あら、もしかして……これは……?)

 少しだけ、心が揺れました。

だって、王子様からの求婚なんて、物語の中だけだと思っていたから。

 でも。

 わたしは、手紙をそっと読み返して───ふと、ため息をこぼしました。

「……目が、笑っていない」

「え?」

「いえ、なんでもありませんわ」

 丁寧に綴られた文字。優雅で完璧な文体。

その中には確かに、申し分のない言葉が並んでいました。

ですが、わたしの目には映ったのです。

あの美しい青い瞳の奥に、まるで磨かれた宝石のような───冷たい“計算”が。
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