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1 シシリー・タール
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「アレク第一王太子と、ジョセフィーヌ・セーリン公爵令嬢が、卒業後、晴れて結婚いたします」
王立学園の卒業を二週間前のパーティーの席で発表があったとき、会場の端に控えていたシシリー・タール男爵令嬢は、目の前が真っ暗になった。
(それ、ゲームと違う展開じゃないの!)
アレク王子とジョセフィーヌは、政略的に六歳から婚約していた間柄である。十八歳で晴れて結婚するのは、なんら、おかしなことはない。
しかし、転生者であるシシリーには全く理解出来ない展開である。
本来のゲーム展開であればこうだ。
地方の田舎出身の平民上がりの少女が、縁を得て男爵家に養子になり、さらには王都の学園に入学。
そこで婚約していたあくどい公爵令嬢からのいじめに遭いながらも健気に逃れ、最後は王太子を略奪してハッピーエンドになる。
失意の悪役令嬢はパーティー会場から一人飛びだして、夜の街で怪物に襲われ亡くなる、いわゆる『ざまあ』展開。
それがそもそもの『乙女ゲーム』の筋立てだったはずでは?
話の例に漏れず、シシリーも男爵家の住み込みの使用人の娘だった。が、六歳の時に盛大なパーティーをのぞき見しようと木によじ登った際に転落して意識を失った。
その際、シシリーの脳裏に前世の記憶が蘇る。
生前は通信会社の総合職として仕事に明け暮れ、三十才の時にトラックに跳ねられて死亡したことや、『乙女ゲーム』で恋愛ゲームに熱中していたことを思い出したのだ。
パーティーにいた著名な医師、フロイド先生の治療で、大怪我から目を覚まし、自分が今はこのゲームの世界に暮らしていること、ヒロインであることを自覚したシシリーは、この転落事故で看病してくれた男爵夫妻に見初められて養子に迎えられた。
少々頑固でそそっかしい面もあるが、美人で聡明、控えめな彼女は、貴族にはもちろん、使用人にも大切にされ、さらに田舎から都会の王立学園への入学試験にも、地位によるハンデもものともせず、トップで入学。
きらめく栗色の髪に整った目鼻立ち、垂れ目で少し内気そうな緑色の瞳。
目立ちたがりで、鼻っ柱の高いジョセフィーヌとは正反対な魅力に、あっという間に王太子は一目惚れする。一目を避け、二人で逢い引きしながら愛を育む二人だが、それを良く思わないのは、もちろん悪役令嬢ジョセフィーヌ。
シシリーを罠にはめて倉庫に閉じ込めたり、教科書を盗んだり、悪い噂を垂れ流して彼女を何度も困らせてきた。それでも我慢できたのは、最後には王子と結婚して、王妃として幸せに暮らすというハッピーエンドがあると信じていたから。
(それなのに、なぜ……?)
前日の夜に、二人で森の中の秘密のコテージで、アレク王太子ははっきり、
「近いうちに、ジョセフィーヌとは婚約を破棄するから」と言ってくれたのだ。
それは、嘘だったと言うの?
シシリーはたまらず、会場から飛びだして、迎えの馬車に乗り込み、高台にある学園の敷地外を逃げ出した。
学園の周りは、高い塀で囲まれて安全だが、一旦外に出たら、所々に設置され始めたガス灯はあるものの、狭い石畳の通路はうす暗く、路上には飲み屋の露店が建ち並んでいる。昼間は別にして、夜は決して治安が良いとはいえない。
しかも、人間の皮を被った鬼のオークが潜んでいて、若い女性を食い殺す事件が多発していた。
下宿先のベイリー地区まで行くよう、御者には伝えておいたのに、突然、むりやり降ろされたのは、大通りを離れた、いかにも寂れた路地裏の一角だった。
「おい、そこのお嬢さんよお」
あっという間に、細い路地で、シシリーは三人の男に取り囲まれていた。
一人の青髭の男が、上着の胸ポケットからナイフを取り出す。
シシリーの顔が一気に血の気が引いていく。肩が震えだし、こめかみから汗が噴き出してきた。
王立学園の卒業を二週間前のパーティーの席で発表があったとき、会場の端に控えていたシシリー・タール男爵令嬢は、目の前が真っ暗になった。
(それ、ゲームと違う展開じゃないの!)
アレク王子とジョセフィーヌは、政略的に六歳から婚約していた間柄である。十八歳で晴れて結婚するのは、なんら、おかしなことはない。
しかし、転生者であるシシリーには全く理解出来ない展開である。
本来のゲーム展開であればこうだ。
地方の田舎出身の平民上がりの少女が、縁を得て男爵家に養子になり、さらには王都の学園に入学。
そこで婚約していたあくどい公爵令嬢からのいじめに遭いながらも健気に逃れ、最後は王太子を略奪してハッピーエンドになる。
失意の悪役令嬢はパーティー会場から一人飛びだして、夜の街で怪物に襲われ亡くなる、いわゆる『ざまあ』展開。
それがそもそもの『乙女ゲーム』の筋立てだったはずでは?
話の例に漏れず、シシリーも男爵家の住み込みの使用人の娘だった。が、六歳の時に盛大なパーティーをのぞき見しようと木によじ登った際に転落して意識を失った。
その際、シシリーの脳裏に前世の記憶が蘇る。
生前は通信会社の総合職として仕事に明け暮れ、三十才の時にトラックに跳ねられて死亡したことや、『乙女ゲーム』で恋愛ゲームに熱中していたことを思い出したのだ。
パーティーにいた著名な医師、フロイド先生の治療で、大怪我から目を覚まし、自分が今はこのゲームの世界に暮らしていること、ヒロインであることを自覚したシシリーは、この転落事故で看病してくれた男爵夫妻に見初められて養子に迎えられた。
少々頑固でそそっかしい面もあるが、美人で聡明、控えめな彼女は、貴族にはもちろん、使用人にも大切にされ、さらに田舎から都会の王立学園への入学試験にも、地位によるハンデもものともせず、トップで入学。
きらめく栗色の髪に整った目鼻立ち、垂れ目で少し内気そうな緑色の瞳。
目立ちたがりで、鼻っ柱の高いジョセフィーヌとは正反対な魅力に、あっという間に王太子は一目惚れする。一目を避け、二人で逢い引きしながら愛を育む二人だが、それを良く思わないのは、もちろん悪役令嬢ジョセフィーヌ。
シシリーを罠にはめて倉庫に閉じ込めたり、教科書を盗んだり、悪い噂を垂れ流して彼女を何度も困らせてきた。それでも我慢できたのは、最後には王子と結婚して、王妃として幸せに暮らすというハッピーエンドがあると信じていたから。
(それなのに、なぜ……?)
前日の夜に、二人で森の中の秘密のコテージで、アレク王太子ははっきり、
「近いうちに、ジョセフィーヌとは婚約を破棄するから」と言ってくれたのだ。
それは、嘘だったと言うの?
シシリーはたまらず、会場から飛びだして、迎えの馬車に乗り込み、高台にある学園の敷地外を逃げ出した。
学園の周りは、高い塀で囲まれて安全だが、一旦外に出たら、所々に設置され始めたガス灯はあるものの、狭い石畳の通路はうす暗く、路上には飲み屋の露店が建ち並んでいる。昼間は別にして、夜は決して治安が良いとはいえない。
しかも、人間の皮を被った鬼のオークが潜んでいて、若い女性を食い殺す事件が多発していた。
下宿先のベイリー地区まで行くよう、御者には伝えておいたのに、突然、むりやり降ろされたのは、大通りを離れた、いかにも寂れた路地裏の一角だった。
「おい、そこのお嬢さんよお」
あっという間に、細い路地で、シシリーは三人の男に取り囲まれていた。
一人の青髭の男が、上着の胸ポケットからナイフを取り出す。
シシリーの顔が一気に血の気が引いていく。肩が震えだし、こめかみから汗が噴き出してきた。
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