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2 フロイド・ベッテル
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(それ……もしかしたら、ジョセフィーヌの悲劇がわたしに入れ替わってるんじゃ……?)
「お、お金から全部あげるわ……」
「金だけじゃねえ。体ごと、根こそぎいただきたいのさ」
歯をむき出しにニヤニヤしながら、男たちは帽子を脱ぎ、カツラと顔の皮を剥ぎ取る。
そこから現れたのは、頭に角を生やし、目は黄色に発光し、青い肌に口に無数の獣の牙を生やした鬼の怪物、オークだったのだ。
近づいてきて、あっという間に、建物のレンガの壁に、肩を豪腕で押さえつけられる。ナイフは喉元に押し当てられて、声が出せない。それから、薄桃色のドレスの胸元に、薄汚い手が伸びていく。
(わたし、怪物に食われてバッドエンド……なの?)
シシリーの眼前は涙で滲んで前が見えなくなってきた。
「彼女から手を離せ。さもないと、痛い目にあうぞ」
暗闇から声がした。
オークたちが振り向くより先に、二人のオークたちが殴られて地面に吹っ飛ぶ。
オークの手首を蹴り上げてナイフを蹴飛ばすと、さらにオークの腹部に拳の一撃を食らわせる。
「さあ、こちらへ」
シシリーは、外套の長身男性に手を取られて、狭い路地から目抜き通りに出た。
そこは行き交う人も馬車も多く、安全だ。
彼はすらりと痩せていて、見あげた横顔は青白い。灰色の長髪に面長の尖った鼻、皿のような蒼い目をしている。年は二十後半といったところだろう。
彼は近くの二階のカフェに連れて行くと、温かいコーヒーを二つ注文した。
「ありがとうございました」
シシリーは、テーブル越しに改めて、向かいの青年を見あげた。
それから、「あっ」と小さい叫び声を上げた。
「まさか、フロイド先生?」
フロイド・ベッテル公爵は、六歳の落下事故で頭部を負傷した時に治療してくれた恩人だ。でも、あれから十一年も経過したはずのに、まったく年を取っていないように見えるのが不思議。
「シシリー・タール嬢。ずいぶん大きくなりましたね。しかも、見違えるほど美しくなって」
「先生こそ、あの頃からまったく変わっていません」
フロイドは口元に笑みを浮かべると、コーヒーカップを傾けた。
シシリーは、恥ずかしそうに肩をすぼめ、
「わたし、また、命を救われました」
「どうして、あんな危ない真似をしたのかな?」
フロイドは微笑んではいたが、少し語気は強かった。
シシリーは、好きだった王太子に振られて気が動転したこと、下宿先とは違う所に降ろされたのを素直に告白した。
「わたし、将来が見えないんです。この先の道が真っ暗闇になりました」
「そもそもきみは、何のために学園に入ったんですか? 花婿捜しのためにご両親に多額の通学費を支払ってもらっているお嬢さんもたくさんいると聞くけど……」
「違います! わたし、転落して大怪我をした経験から、輸血用の血液を人間からでなく、他の方法で作れないか、研究したかったんです。だから、誰よりも勉強だってがんばって……」
言いかけて、シシリーはハッとなって、フロイドを直視した。
「お、お金から全部あげるわ……」
「金だけじゃねえ。体ごと、根こそぎいただきたいのさ」
歯をむき出しにニヤニヤしながら、男たちは帽子を脱ぎ、カツラと顔の皮を剥ぎ取る。
そこから現れたのは、頭に角を生やし、目は黄色に発光し、青い肌に口に無数の獣の牙を生やした鬼の怪物、オークだったのだ。
近づいてきて、あっという間に、建物のレンガの壁に、肩を豪腕で押さえつけられる。ナイフは喉元に押し当てられて、声が出せない。それから、薄桃色のドレスの胸元に、薄汚い手が伸びていく。
(わたし、怪物に食われてバッドエンド……なの?)
シシリーの眼前は涙で滲んで前が見えなくなってきた。
「彼女から手を離せ。さもないと、痛い目にあうぞ」
暗闇から声がした。
オークたちが振り向くより先に、二人のオークたちが殴られて地面に吹っ飛ぶ。
オークの手首を蹴り上げてナイフを蹴飛ばすと、さらにオークの腹部に拳の一撃を食らわせる。
「さあ、こちらへ」
シシリーは、外套の長身男性に手を取られて、狭い路地から目抜き通りに出た。
そこは行き交う人も馬車も多く、安全だ。
彼はすらりと痩せていて、見あげた横顔は青白い。灰色の長髪に面長の尖った鼻、皿のような蒼い目をしている。年は二十後半といったところだろう。
彼は近くの二階のカフェに連れて行くと、温かいコーヒーを二つ注文した。
「ありがとうございました」
シシリーは、テーブル越しに改めて、向かいの青年を見あげた。
それから、「あっ」と小さい叫び声を上げた。
「まさか、フロイド先生?」
フロイド・ベッテル公爵は、六歳の落下事故で頭部を負傷した時に治療してくれた恩人だ。でも、あれから十一年も経過したはずのに、まったく年を取っていないように見えるのが不思議。
「シシリー・タール嬢。ずいぶん大きくなりましたね。しかも、見違えるほど美しくなって」
「先生こそ、あの頃からまったく変わっていません」
フロイドは口元に笑みを浮かべると、コーヒーカップを傾けた。
シシリーは、恥ずかしそうに肩をすぼめ、
「わたし、また、命を救われました」
「どうして、あんな危ない真似をしたのかな?」
フロイドは微笑んではいたが、少し語気は強かった。
シシリーは、好きだった王太子に振られて気が動転したこと、下宿先とは違う所に降ろされたのを素直に告白した。
「わたし、将来が見えないんです。この先の道が真っ暗闇になりました」
「そもそもきみは、何のために学園に入ったんですか? 花婿捜しのためにご両親に多額の通学費を支払ってもらっているお嬢さんもたくさんいると聞くけど……」
「違います! わたし、転落して大怪我をした経験から、輸血用の血液を人間からでなく、他の方法で作れないか、研究したかったんです。だから、誰よりも勉強だってがんばって……」
言いかけて、シシリーはハッとなって、フロイドを直視した。
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