[完結]乙女ゲームのヒロインなのに、悪役令嬢が婚約破棄されないので、吸血鬼と恋をすることにします

朝日みらい

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3 ローラン・フォースター

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「何か先が見えたのですね?」

 フロイドは微笑むと、革の手提げ鞄から活版印刷された小冊子を取り出した。

 それは、昨年、卒業論文で王立医学学会でシシリーが発表した、オークの血液が人間のものに近く、さらに研究を重ねれば代用ができる可能性が高いことに触れた内容だった。

 フロイドは、冊子をめくりながら、
「君の研究がすばらしいと思って、三日ほど馬車でここまで来たんです。そして、もし、研究を続けたいなら援助をしたいと、伝えたかったものでね」 

 卒業を控え、研究はあきらめ、そのまま田舎の実家に戻ろうと考えていたシシリーにとって、またのない提案である。

「ありがとうございます。わたし、研究を続けたい。ぜひ、お願いします」

「なら、良かった。卒業までは、王宮近くのサンテス公爵が留守なので、屋敷を借りている。卒業までにはどこか研究場所を考えておくから」

「よろしくお願いします!」

 シシリーは頭を下げると、
「家まで送ろう」と、馬車でベイリー地区の下宿先まで送ってくれる。

 下宿の門前に、同じ組で同郷の幼なじみであるローランが、じれったそうに足踏みしながら待っていた。

「シシリー、一体、何やってるんだ」

 車内から降りて来るなり、金髪巻き毛の少年はシシリーに駈け寄り、両手を握った。

「心配して戻ってきたんだ。まあ、何より無事で良かった」

 それから、ローランは車内の窓から遠巻きに見ている、灰色の青年に気づいた。

「あの方って、まさか、転落した時の……?」

「フロイド・ベッテル先生。命の恩人よ」

 フロイドは車内の窓から遠慮がちに軽く帽子を脱いで会釈したのち、足早に馬車は走り去っていく。

 ローランは世界中の魔獣を退治して、報奨金を稼ぐ冒険者に憧れて、武術を学ぶために、同じ学園に通っている。  

 研究職を目指しているシシリーとは違う学部であっても、悪役令嬢ジョセフィーヌやそれに加担する国王の子爵や親衛隊出身の子息たちからいじめに遭うシシリーを何度も助けてきた。

 登校や下校も、できるだけ調整して共にし、同じ下宿で別室だが、食事もいっしょに食べる。

 むろん、シシリーと王太子との恋のこともよく知っているし、応援してきた。

 階段で三階の自室に戻りながら、
「さっきの王太子とジョセフィーヌの結婚話はジョークだったんだ」
と、ローランは気の毒そうに告げた。

「な、何それ……」

 シシリーは、信じられないと、しきりに首を横に振る。

「君がどう行動するか、笑いものにしようという、ジョセフィーヌ嬢や取り巻きたちのいたずらだ」

「なら、さっき、馬車に乗って、オークがいる路地裏まで連れて行かれたのも……」

 シシリーは言葉を失い、足を止めた。

「シシリー、どうしたの?」

「わたし、殺されかけたの。だまされて……」

「ちっ! 何てことしやがる。今すぐにでもジョセフィーヌの屋敷に乗り込んで、父親の公爵に言いつけて……!」

 シシリーは、薄く笑みを浮かべて、ローランの腕を掴み、「もう、いいの」と再び階段を上がり始める。

「何でだよ。抗議しないと、またやられるよ」

「平気よ。わたし、もう、ジョセフィーヌと同じ道は歩まない。だから、こんな罠にもはまらないわ」

 自室の廊下の前で、ローランに向き直る。

「わたし、フロイド先生に教えてもらったの。自分が進むべき道が何なのかをね。それじゃあ、おやすみなさい」

 シシリーが部屋に戻るのを確かめて、ローランも向かいの自室で、椅子にもたれる。

 王太子とジョセフィーヌが結婚すると聞いたとき、内心、ホッとしたのは本心だ。

 シシリーとは使用人の平民だった頃からの知り合いだし、ローランの公爵家とシシリーのタール男爵家とはお隣であるから、出入りも多かった。

 シシリーは見た目は大人しく見えるが、実は活発で心根がしっかりとした子どもだった。同じくやんちゃだったローランとは森や林で追いかけっこをしたり、虫や魚を捕まえたりしたものだ。

 冒険者になりたいと思ったのも、将来、もしシシリーが望むなら夫婦になって、世界中を旅しながら楽しく暮らしたいという淡い夢があったからでもある。

「フロイドか……」

 シシリーが彼の名前を出したときの瞳の一瞬の煌めきを、ローランは見逃さなかった。

 あの男は何者なんだろう。

 ローランは、据え付けのベッドに横になりながら、フロイドについて調べてみようと思った。
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