[完結]乙女ゲームのヒロインなのに、悪役令嬢が婚約破棄されないので、吸血鬼と恋をすることにします

朝日みらい

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4 アレク王太子

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 卒業式前日の放課後、学年トップのシシリーは生徒代表として祝辞を読むことになったため、構内の聖堂で最後のリハーサルをしていた。

 練習を終えて、演壇から降りた時に、客席で待っていた銀髪の青年に声を掛けられた。

 アレク王太子は、シシリーと同じくらいの小柄の背丈で痩せているが、透き通るような水色の瞳は、王家の落ち着きと威厳を感じさせる。

「これから、ちょっとテリア湖畔に行かないか。二人だけで話したいことがあってね」

「ええ、もちろんです」

 シシリーは頷いた。

 テリアリス湖畔までは馬車で一時間ほどの、周囲が林に囲まれた美しい湖で、王都の市民からは憩いの場として親しまれている。

 その湖を見渡せる高台には国王専用の白亜の離宮があって、二人はバルコニーの丸テーブルで紅茶を飲みながら、輝く水面を眺めた。

「昨晩、お父上から正式にジョセフィーヌとの婚約を破棄していただくよう、申し入れたところだ。明日中には、父上がジョセフィーヌの父上に伝え、晴れて君と結婚を前提にお付き合いを発表しようと思う」

「そうですか……」

 シシリーは思案するように、下顎に手を当てている。

「シシリー? 何か不満でもあるのかい?」
「とんでもありません、アレク様。ご厚意に感謝しています。ただ……」

「ただ……?」

「正直申しますと、ずっとわたし、卒業後も研究を続けたいと思っていました」

 シシリーが心配そうにアレク王子の顔をのぞき込むと、彼はわずかに眉をひそめた。

「それは、王宮に入っても、仕事をしたいっていうこと? 公務や家庭を守りながら? 研究材料を採取したり、顕微鏡を覗いたりとか?」

 シシリーは、アレク王子の反応から、研究は難しいと直感した。

 本来なら宮中で、王族の一員として生活も保障され、幸せに安心して暮らせるはず。なのに、「はい」と即答できないのはなぜなのだろう?

 返事をためらっていると、アレク王子は、不機嫌そうに焼き菓子を頬ばり、席を立った。

「きみは一体どうしたんだ。パーティーでジョセフィーヌにイタズラされた時はあんなに取り乱して。てっきり、あんなに私を愛してくれているのだと思っていた」

 さっと立ち去ろうとする王太子に、慌ててシシリーは駆け寄る。

「あの、どちらに行かれるんです?」

「お父上に会って、やはり婚約破棄は取りやめてもらうんだ。ジョセフィーヌの方が、平民出の君と違って、王宮に入ることの常識を持ち合わせいると分かったから」

 冷たい一言。一人取り残されたシシリーは、椅子にへたり込ンで頭を抱える。

 何でこんなことになってしまったのだろう。
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