[完結]乙女ゲームのヒロインなのに、悪役令嬢が婚約破棄されないので、吸血鬼と恋をすることにします

朝日みらい

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最終回  風の噂 

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 それから、シシリーはフロイドとともに、研究室で仲睦まじく研究をした。

 地下室は防音も優れれば、天井からは柔らかな日差しと、心地よい森からの風が吹き込んでくる、見事な構造をしている。

 材料となるオークの血液は、新鮮なものをローランと姉妹が絶えず補給してくれる。毎日のように、ミリアとクリスタは、ローランの気持ちはさておき、彼にゾッコンだった。

 周囲の山々の森に入っては野生のオークや、他の怪物まで退治に誘い、彼も冒険者として経験になるからと、嬉々として出かけていく。

 そんなこんなで、ローランはシシリーと共にいたいと思いながら、なかなか忙しくて、朝と夜くらいしか、話す機会がない。

 それでも、シシリーはフロイドと、ローランは森の冒険の楽しさで充実した日々を過ごしたのだった。


 一年ほど経った頃、王国からの風の噂が届いた。

 王太子とジョセフィーヌが結婚したものの、やはり彼女の気性の荒さに王子との不仲が露呈したらしい。

 ある夜に夫婦喧嘩で王宮を飛び出したジョセフィーヌは街の路地裏でオークに襲われて、命を落としたとのことだ。

 それから半年後に、王太子の使者がルヴァニアの古城にいるシシリーを訪れた。

 しかし、出迎えたのはフロイドの妻になったシシリーだった。

 使者は、シシリーの膨らんだお腹を見た途端、何も言わずに王都に舞い戻り、王子には結婚はできないと報告したとのことである。

 使者が去って翌日の夕刻、シシリーは一人、城の塔からルヴァニアの山々を見渡しながら、じき生まれてくる、新しい命に思いをはせながら、これまでの不思議な運命を思い返していた。

 思い返せば、自分はそもそも、こんな生活をするなんて思ってもみなかった。だって、最初は王太子と結婚すると思っていたのだから。

 冷たい風がすり抜けて、僅かに肩が震えたら、背中に温かいマントをかぶせて、
「体に障るよ、シシリー」
と、愛する夫の声がする。

 振り向きざまに、額にフロイドがキスをして、額と額を擦り付ける。

「わたしを、吸血鬼にしないの?」

 シシリーは尋ねる。

「しないよ。君が年を取るのをみたいんだ。だめかな?」

「嫌……。わたしの額の皺が見たいの?」

「ああ。どんなにしわくちゃになろうが、わたしの気持ちは変わらないよ。愛してる、シシリー」

 そう耳もとで甘く囁く。

「もう、そんなの分かってるって」

 シシリーは、フロイドの首に飛びつくと、彼は彼女の両足を抱えながら、ベッドまで導かれる。

 仰向けに横になり、覆い被さった彼の肌に身を委ねる。

 シシリーは今、よく分かることがある。

 そう、生きるって何があるが分からない。

 ゲーム展開のようにはいかないし、この先はどうなるかさえ……。

 けれど、今はやるべき事があり、何より愛する人がそばにいてくれる。

 永遠なんてわがままは言わない。今の幸福なひととき。その瞬間があれば、それだけで充分なのだ。
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