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9 ふたりの未来
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地下の階段を降りていくフロイドの背中を、シシリーは、一抹の不安を抱えながら歩いていく。
けれど、部屋のドアを開けた瞬間、その心配は杞憂で、嘘のようにして消え失せてしまった。
広々とした研究室には、長いテーブルがあり、巨大な最新型の顕微鏡、フラスコやビーカーなどのガラス容器、アルコールランプや比重計といった器具類一式がそろえられている。
学園で使用していた頃よりもはるかに充実していて、シシリーは夢見心地になって、何も言えずに立ちすくんでいた。
「シシリー?」
フロイドに声を掛けられ、はっと現実に引き戻され、シシリーは、彼を見あげて眉を寄せ、
「フロイド先生は、意地悪ですね……」
「それはなぜ?」
フロイドがとぼけて訊くので、
「だって、わたしの心臓のドキドキなんて、手に取るように分かってるくせに」
と、胸元に両手をあててみせる。
「そうだね。分かっていた。そして、君がわたしを見るたびに胸を高鳴らせていることも知ってたよ」
シシリーは、頬を赤らめ、恥ずかしさのあまり、顔を背け、
「本当にズルい方……大嫌い」
「なら、嫌われついでに、もっとズルいことをしてもいいよね?」
と、彼女の顎先を自身の口元に引き寄せ、そっと口吻をした。
シシリーは力強い腕に肩を引き寄せられ、きつく抱き寄せられ、まるで自身の体と、フロイドの体が溶け合い、一体になったような気持ちになる。
そっとつながった唇が離れて、二人は無言で互いの瞳で見つめ合う。
しばらくの沈黙の後に、
「フロイド先生、最高に幸せな時って、何も言えないものなんですね。研究室、素適です」
と、しみじみ言う。
フロイドは晴れやかな笑顔になって、
「そう言ってもらえるとうれしいよ。この研究室はね。何しろ、世界中から最新のものをできるかぎり、かき集めたんだ」
と、嬉しそうに眉をゆるめる。
「……ありがとう、フロイド」
シシリーは、もう先生というそんな呼びかけは、やめた。
口吻を交わした者同士では、距離があり過ぎるから。
けれど、部屋のドアを開けた瞬間、その心配は杞憂で、嘘のようにして消え失せてしまった。
広々とした研究室には、長いテーブルがあり、巨大な最新型の顕微鏡、フラスコやビーカーなどのガラス容器、アルコールランプや比重計といった器具類一式がそろえられている。
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「シシリー?」
フロイドに声を掛けられ、はっと現実に引き戻され、シシリーは、彼を見あげて眉を寄せ、
「フロイド先生は、意地悪ですね……」
「それはなぜ?」
フロイドがとぼけて訊くので、
「だって、わたしの心臓のドキドキなんて、手に取るように分かってるくせに」
と、胸元に両手をあててみせる。
「そうだね。分かっていた。そして、君がわたしを見るたびに胸を高鳴らせていることも知ってたよ」
シシリーは、頬を赤らめ、恥ずかしさのあまり、顔を背け、
「本当にズルい方……大嫌い」
「なら、嫌われついでに、もっとズルいことをしてもいいよね?」
と、彼女の顎先を自身の口元に引き寄せ、そっと口吻をした。
シシリーは力強い腕に肩を引き寄せられ、きつく抱き寄せられ、まるで自身の体と、フロイドの体が溶け合い、一体になったような気持ちになる。
そっとつながった唇が離れて、二人は無言で互いの瞳で見つめ合う。
しばらくの沈黙の後に、
「フロイド先生、最高に幸せな時って、何も言えないものなんですね。研究室、素適です」
と、しみじみ言う。
フロイドは晴れやかな笑顔になって、
「そう言ってもらえるとうれしいよ。この研究室はね。何しろ、世界中から最新のものをできるかぎり、かき集めたんだ」
と、嬉しそうに眉をゆるめる。
「……ありがとう、フロイド」
シシリーは、もう先生というそんな呼びかけは、やめた。
口吻を交わした者同士では、距離があり過ぎるから。
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