8 / 10
8 ルヴァニア
しおりを挟む
こうして和気あいあいと、馬車は宿に二泊した後、三日目に目的地である村、ルヴァニアに着いたのは昼過ぎだった。
白壁の家屋が坂道にポツポツと点在している中、一際高台にそびえる古城がある。
敷地は城壁に囲まれ、所々にツルや苔が生えているが、三階建ての白壁は明るいクリーム色で統一されて、不気味という印象を与えない。
到着を知った庭師が家内の使用人たちに、当主の帰りを知らせ、馬車が城内に入った時には、使用人たち、二十人程が一礼していた。
使用人一同を前にして、シシリーとローランは、凍りついたように佇んでいたが、意を決してローランが脇に控えた鞘に手をかけて、彼女を庇うように前に出た。
それは当然だった。皆が鬼オークだったし、都では殺されかけたのだから。
ミリアは睫毛を垂れて、二人に歩み寄り、
「安心して。この家にいるオークたちはみんな大人しいから」
「なぜ?」
不安いっぱいに訊くシシリーに、今度はフロイドが、
「毎日、一定量の血を抜いているから。抜かないと体内の血液濃度が上がって、本来の獰猛さが戻る。シシリー、君は研究しているから、落ち着けば分かるはずだ」
シシリーは、胸元を抑え息を整えると、ローランが不安そうに見守る中、ゆっくり使用人たちの前に歩み寄った。
そして、強ばった笑みを浮かべながら、スカートの裾を広げ、
「シシリー・タールです。これから皆さんにお世話になります」
と、丁寧にお辞儀をした。
オークの使用人たちも、怪物と見られてきた経験から、これほど丁寧な客人の礼節に驚きを隠せない。
それから、オークの執事がシシリーに近づくと、
「我ら一同、お越しを心から歓迎いたします」
と言うと、使用人たちは一礼した。
二階のそれぞれの客室に、シシリーとローランは案内された。
それから、一階の食堂で歓迎の食事会が開かれた。
新鮮な野菜を使ったスープや、鳥一匹を使った丸焼きが出てきた。
どれもおいしかったが、吸血鬼の三人はそういう食事には少し口にしただけで、赤いワインみたいな飲み物を飲んでいる。
シシリーは敢えて訊かないようにしていたが、ローランは違う。やはり、冒険者としての怪物について関心があるのだ。
「これは、血なんですか?」
ミリアは、眉を上げて、
「オークの血を、ブドウジュースで薄めたものよ。ワインで薄めたりもするけど、味は人間に比べたら、不味いけど……」
そして、ローランをなめ回すように見る。
「あの、何なんですか? この、ぼくを獲物みたいに
見てるけど……」
双子の姉妹は、顔を見合わせて、ニヤニヤしている。
それから、クリスタが、
「使用人たちから、留守中に野生のオークたちが、畑を荒らし回って困ってるらしいの。だから、オークを捕まえて血を抜きに行くんだけど。ローランくんも訓練がてら来ること!」
「ええっ! いきなり命令?」
ローランがうろたえていると、ミリアも、腕を組んでしきりに頷きながら、
「ローランくん、良かったわね。クリスタはなかなかの凄腕の魔物ハンターだから勉強になるわよ。もちろん、わたしもローランくんと一緒だから安心ね。ピチピチ坊や、だーいすき」
と、席を立って、ローランの背後から腕を回す。
「ううっ! やめてください。息が苦しいですって!」
すると、クリスタが少し眉をしかめて立ちあがり、
「姉さん、ずるい」と、今度はローランの匙を取り上げて、
「はーい、お口、あーんして」と、スープを飲ませようとする。
「ふたりとも近すぎるよ……」
ローランは、姉妹にがんじがらめにされて、身動きが取れない。
「シシリー、ちょっと来てくれるかな?」
姉妹に挟まれて揉みくちゃにされるローランを尻目に、フロイドは口元をナプキンで拭いて立ちあがると、シシリーに歩み寄る。
ローランを気にしているシシリーに、
「大丈夫。母と叔母は若い青年が大好きなだけで、血を吸ったりしないよ」
「……分かりました」
シシリーは差し出された手を握ると、食堂を後にした。
白壁の家屋が坂道にポツポツと点在している中、一際高台にそびえる古城がある。
敷地は城壁に囲まれ、所々にツルや苔が生えているが、三階建ての白壁は明るいクリーム色で統一されて、不気味という印象を与えない。
到着を知った庭師が家内の使用人たちに、当主の帰りを知らせ、馬車が城内に入った時には、使用人たち、二十人程が一礼していた。
使用人一同を前にして、シシリーとローランは、凍りついたように佇んでいたが、意を決してローランが脇に控えた鞘に手をかけて、彼女を庇うように前に出た。
それは当然だった。皆が鬼オークだったし、都では殺されかけたのだから。
ミリアは睫毛を垂れて、二人に歩み寄り、
「安心して。この家にいるオークたちはみんな大人しいから」
「なぜ?」
不安いっぱいに訊くシシリーに、今度はフロイドが、
「毎日、一定量の血を抜いているから。抜かないと体内の血液濃度が上がって、本来の獰猛さが戻る。シシリー、君は研究しているから、落ち着けば分かるはずだ」
シシリーは、胸元を抑え息を整えると、ローランが不安そうに見守る中、ゆっくり使用人たちの前に歩み寄った。
そして、強ばった笑みを浮かべながら、スカートの裾を広げ、
「シシリー・タールです。これから皆さんにお世話になります」
と、丁寧にお辞儀をした。
オークの使用人たちも、怪物と見られてきた経験から、これほど丁寧な客人の礼節に驚きを隠せない。
それから、オークの執事がシシリーに近づくと、
「我ら一同、お越しを心から歓迎いたします」
と言うと、使用人たちは一礼した。
二階のそれぞれの客室に、シシリーとローランは案内された。
それから、一階の食堂で歓迎の食事会が開かれた。
新鮮な野菜を使ったスープや、鳥一匹を使った丸焼きが出てきた。
どれもおいしかったが、吸血鬼の三人はそういう食事には少し口にしただけで、赤いワインみたいな飲み物を飲んでいる。
シシリーは敢えて訊かないようにしていたが、ローランは違う。やはり、冒険者としての怪物について関心があるのだ。
「これは、血なんですか?」
ミリアは、眉を上げて、
「オークの血を、ブドウジュースで薄めたものよ。ワインで薄めたりもするけど、味は人間に比べたら、不味いけど……」
そして、ローランをなめ回すように見る。
「あの、何なんですか? この、ぼくを獲物みたいに
見てるけど……」
双子の姉妹は、顔を見合わせて、ニヤニヤしている。
それから、クリスタが、
「使用人たちから、留守中に野生のオークたちが、畑を荒らし回って困ってるらしいの。だから、オークを捕まえて血を抜きに行くんだけど。ローランくんも訓練がてら来ること!」
「ええっ! いきなり命令?」
ローランがうろたえていると、ミリアも、腕を組んでしきりに頷きながら、
「ローランくん、良かったわね。クリスタはなかなかの凄腕の魔物ハンターだから勉強になるわよ。もちろん、わたしもローランくんと一緒だから安心ね。ピチピチ坊や、だーいすき」
と、席を立って、ローランの背後から腕を回す。
「ううっ! やめてください。息が苦しいですって!」
すると、クリスタが少し眉をしかめて立ちあがり、
「姉さん、ずるい」と、今度はローランの匙を取り上げて、
「はーい、お口、あーんして」と、スープを飲ませようとする。
「ふたりとも近すぎるよ……」
ローランは、姉妹にがんじがらめにされて、身動きが取れない。
「シシリー、ちょっと来てくれるかな?」
姉妹に挟まれて揉みくちゃにされるローランを尻目に、フロイドは口元をナプキンで拭いて立ちあがると、シシリーに歩み寄る。
ローランを気にしているシシリーに、
「大丈夫。母と叔母は若い青年が大好きなだけで、血を吸ったりしないよ」
「……分かりました」
シシリーは差し出された手を握ると、食堂を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです
星月りあ
恋愛
「契約結婚しませんか? 愛を求めたりいたしませんので」
そう告げられた王太子は面白そうに笑った。
目が覚めると公爵令嬢リリカ・エバルディに転生していた主人公。ファンタジー好きの彼女は喜んだが、この国には一つ大きな問題があった。それは紅茶しかないということ。日本茶好きの彼女からしたら大問題である。
そんな中、王宮で日本茶に似た茶葉を育てているらしいとの情報を得る。そして、リリカは美味しいお茶を求め、王太子に契約結婚を申し出た。王太子はこれまで数多くの婚約を断ってきたため女性嫌いとも言われる人物。
そう、これはそのためだけのただの契約結婚だった。
それなのに
「君は面白いね」「僕から逃げられるとでも?」
なぜか興味をもたれて、いつしか溺愛ムードに突入していく……。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。
Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。
歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。
気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。
私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。
しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。
いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね!
悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。
魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。
やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。
そして、鍵とはいったいーー。
※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む)
★小説家になろうでも掲載しています。
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
婚約破棄された伯爵令嬢は隣国の将軍に求婚され、前世の記憶を取り戻す
nacat
恋愛
婚約者である王太子に身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄された伯爵令嬢エリシア。
廷臣たちの嘲笑の中、隣国の若き将軍ライナルトが現れ、「ならば、俺が君を妻にしよう」と求婚する。
彼はただの救い手ではなかった。エリシアの“前世の記憶”と深く結びついた存在だったのだ——。
かつてすべてを失った令嬢が、今世では誰より強く、愛され、そしてざまぁを下す。
溺愛と逆転の物語、ここに開幕。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる