[完結]乙女ゲームのヒロインなのに、悪役令嬢が婚約破棄されないので、吸血鬼と恋をすることにします

朝日みらい

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7 双子の姉妹、ミリアとクリスタ

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 卒業式を終えた翌日、フロイドの馬車に乗り、一行はルヴァニアへ向けて進んでいる。
 昼間なのに、窓に暗幕を下げて、車内はランプの灯りでうす暗い。

 それでも、シシリーとローランは、ヴァンパイアが太陽の光に弱い体であることを知っているので、窓を開けてほしいなどとは言わなかった。

 卒業式でも、預けた祝辞の原本を白紙に差し替えられるといういじめ(ジョセフィーヌの仕業だろうけど……)に見舞われた。

 けれども、シシリーは取り乱すことなく冊子を卓上に伏せ、即興で想定以上の感動的な祝意を述べた。

 卒業式の来賓席の隅には、日焼け止めのクリームを塗りたくったフロイドもいて、シシリーの堂々とした立ち振る舞いに大きな拍手を送っていた。

 卒業式にいた養父母の伯爵夫妻や実の両親に、フロイドの元で研究を続けることを報告して、晴れて新天地へ向かうことができた。

 車内には三人にくわえて、双子の紫色の髪をした、双子の姉妹が、フロイドを中央にして、左右に乗っていた。

 あの夜の炊き出しで、フロイドと共に作業をしていた少女たちである。

 フロイド同様、青白い肌をしているものの、大きな丸い瞳は好奇心で泉のように輝き、穏やかな視線を向かいの若いふたりに向けている。

「わたしはミリアで、隣は妹のクリスタといいます。お見受けするところ、お二人は恋人同士かなにかでしょ?」

 すると、クリスタはとがめるように、
「お姉さま。そんな個人的なことを! だって訊かなくても、ぜったいあの青年は、隣の娘が好きに決まってます」

 ローランはかなり戸惑いながら、チラリと隣のシシリーの顔を伺うと、彼女は「クスッ」と笑って、
「まさか。わたしたち、幼馴染みなんです。彼は剣士で、私を守ってくれるんです」

「へえ? それは、心強いっ」

 シシリーは、向かいのフロイドと姉妹をのぞき込んで、微笑んだ。

「はい。ローラン・フォースターは、強くて、すごくやさしくて、頼りにしています」

 ローランは、目の下を薄桃色に染めながらも、けれどキリッと真面目な顔になって、向かいの三人を見た。

「大事なことなので、皆さんに単刀直入に訊きます。あなた方はヴァンパイアなんですよね?」

 車内にしばしの沈黙ののち、姉妹は「ハハハッ」と扇を取り出して笑い始める。

「ですよ! でも、あの炊き出しの夜に来てらしたから、てっきり、もう知っていたかと」

 ローランとシシリーが顔を見合わす中、フロイドはおだかやに向かいの若者に語りかける。

「ローランくんの言うとおり、私たちは血筋はヴァンパイア族で、ミリアはわたしの母で、クリスタは叔母なんだ」

 十五くらいにしかみえない少女が母親で、隣がおばさん? 

 シシリーとローランは信じられないといったふうに、互いに顔を見合わせる。

「わたしは医学の王立大学で医師になり、実務の経験をした。それから、望んで儀式を経て吸血鬼になったんだ」

 シシリーは、少し前屈みになって、
「なぜ、先生はヴァンパイアになったんですか?」

「それは、ヴァンパイアになった方が医療行為が容易だったからだよ。輸血が整わない現場では、自分の口から供給できるし、身体能力は人間の四倍だから、長い手術にも耐えられるし、暗闇でも視界はいいし、心臓の心拍まで良く聞こえるしね」

 ローランは、首をわずかに横に傾けながら、
「それでも、血は必要だから、輸血と称して、血を飲んでいるんでしょ? 喉が渇いて人を襲ったりしないんですか?」

 姉妹は、「ふふふっ」とまたしても扇を口元にあてて、ニヤニヤして、ローランをジロジロ見ている。

「な、何ですか? この獲物を見るような目は?」

 クリスタは紫色の長髪を指先でいじりながら、
「誰でも飲みたくなるわけないわ。でも、あなたみたいに、若くて可愛い男なら、話は別だけどねえ」

 あわてて、ミリアがクリスタをとがめるように、丸い目を皿にして、
「クリスタったら。ほら、ローランくんはシシリーさんにぞっこんなんだから、手を出さないでよね。さっき、シシリーさんの話になった途端、心拍数が急上昇してたの、忘れたの?」

「ええっ……シシリーをぼくが、な、なんですって?」

 ローランはシシリーをのぞき込みながら、カッと耳まで赤くしたので、車内には大きな笑いが起きた。
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