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第二章

第15話

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 テレス神官は、和やかな顔でふたりを見て、言った。

「戦わない理由は、ずばり、わたしはあのメディス一族が大嫌いだからです」

「大嫌い、ですって?」

 クララは呆気にとられて、従者のセリスと顔を見合わせた。

 テレス神官は、ニヤニヤしながら、自身の白髪頭を指さした。

「ちなみに私は、今、何才だと思います?」

 従者は、まじまじとテレス神官を見詰めた。

「60年才くらいなんですか?」と、セリスは訊いた。

「30才になります」

 また、ふたりは驚いた顔を見合わせることになった。

「クララさん、治癒魔法の代償はこれなんですよ。命を救うことは、自身の寿命を縮めることに繫がります」

 テレス神官は、おもむろに起ち上がり、窓から見える中庭を見下ろした。

 孤児の子どもたちが、花壇に咲き乱れる色とりどりの花や蝶と、無邪気に戯れている。

「2年前にトードで疫病が流行った時、真っ先に逃げたのは、あのメディス一族でした。
 本来であれば、苦しんでいる小作人や商人たちに施しをし、借金返済は免除すべきだったはずです。
 そして、治療薬があれば、できるだけたくさんの人たちに提供すべきでした。しかし、彼らは見て見ぬふりをした」

 テレス神官は、微笑しながら、ふたりに向き直った。

「トードの国中に、たくさんの貧しい人たちが病で苦しんでいました。何千という人々が、わたしの力をすがってきました。そして、今でも秘書官のクレイと共に貧困と戦っています。それと平行して、ヒドラ獣も出てきて、メディス一族を襲い始めています」

 テレス神官は和やかにそう言うと、向かいのソファに再び腰かけた。

「神官庁として、どんな嫌いな相手であろうと、門戸は常に開いています。ヒドラ退治の助けがあれば、兵士は送ります。神官が必要なら、神官庁から依頼して送ります。ですが、彼らが戦うかどうかの判断は、本人に任せます」

 クララは、ずっと微笑むばかりのテレス神官を、まじまじと見詰めた。

 セリスが、クララの肩をさすった。

「クララ様、もうこんな所、帰りましょう。何か言い訳をすれば、大丈夫ですって。魔獣、怖いから帰りましたでいいですって」

 クララは、しばらく考えた後で、きっぱりと言った。

「神官長様の微笑みの裏で、どれだけの哀しみを抱えてこられてきたか。私にはきっと分からないと思います。でも、貴族でも、悪人でも、頼まれたら戦うのが私の使命ですから」

「そうですか。でしたら、とっておきの策を教えましょう」
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