15 / 65
第二章
第15話
しおりを挟む
テレス神官は、和やかな顔でふたりを見て、言った。
「戦わない理由は、ずばり、わたしはあのメディス一族が大嫌いだからです」
「大嫌い、ですって?」
クララは呆気にとられて、従者のセリスと顔を見合わせた。
テレス神官は、ニヤニヤしながら、自身の白髪頭を指さした。
「ちなみに私は、今、何才だと思います?」
従者は、まじまじとテレス神官を見詰めた。
「60年才くらいなんですか?」と、セリスは訊いた。
「30才になります」
また、ふたりは驚いた顔を見合わせることになった。
「クララさん、治癒魔法の代償はこれなんですよ。命を救うことは、自身の寿命を縮めることに繫がります」
テレス神官は、おもむろに起ち上がり、窓から見える中庭を見下ろした。
孤児の子どもたちが、花壇に咲き乱れる色とりどりの花や蝶と、無邪気に戯れている。
「2年前にトードで疫病が流行った時、真っ先に逃げたのは、あのメディス一族でした。
本来であれば、苦しんでいる小作人や商人たちに施しをし、借金返済は免除すべきだったはずです。
そして、治療薬があれば、できるだけたくさんの人たちに提供すべきでした。しかし、彼らは見て見ぬふりをした」
テレス神官は、微笑しながら、ふたりに向き直った。
「トードの国中に、たくさんの貧しい人たちが病で苦しんでいました。何千という人々が、わたしの力をすがってきました。そして、今でも秘書官のクレイと共に貧困と戦っています。それと平行して、ヒドラ獣も出てきて、メディス一族を襲い始めています」
テレス神官は和やかにそう言うと、向かいのソファに再び腰かけた。
「神官庁として、どんな嫌いな相手であろうと、門戸は常に開いています。ヒドラ退治の助けがあれば、兵士は送ります。神官が必要なら、神官庁から依頼して送ります。ですが、彼らが戦うかどうかの判断は、本人に任せます」
クララは、ずっと微笑むばかりのテレス神官を、まじまじと見詰めた。
セリスが、クララの肩をさすった。
「クララ様、もうこんな所、帰りましょう。何か言い訳をすれば、大丈夫ですって。魔獣、怖いから帰りましたでいいですって」
クララは、しばらく考えた後で、きっぱりと言った。
「神官長様の微笑みの裏で、どれだけの哀しみを抱えてこられてきたか。私にはきっと分からないと思います。でも、貴族でも、悪人でも、頼まれたら戦うのが私の使命ですから」
「そうですか。でしたら、とっておきの策を教えましょう」
「戦わない理由は、ずばり、わたしはあのメディス一族が大嫌いだからです」
「大嫌い、ですって?」
クララは呆気にとられて、従者のセリスと顔を見合わせた。
テレス神官は、ニヤニヤしながら、自身の白髪頭を指さした。
「ちなみに私は、今、何才だと思います?」
従者は、まじまじとテレス神官を見詰めた。
「60年才くらいなんですか?」と、セリスは訊いた。
「30才になります」
また、ふたりは驚いた顔を見合わせることになった。
「クララさん、治癒魔法の代償はこれなんですよ。命を救うことは、自身の寿命を縮めることに繫がります」
テレス神官は、おもむろに起ち上がり、窓から見える中庭を見下ろした。
孤児の子どもたちが、花壇に咲き乱れる色とりどりの花や蝶と、無邪気に戯れている。
「2年前にトードで疫病が流行った時、真っ先に逃げたのは、あのメディス一族でした。
本来であれば、苦しんでいる小作人や商人たちに施しをし、借金返済は免除すべきだったはずです。
そして、治療薬があれば、できるだけたくさんの人たちに提供すべきでした。しかし、彼らは見て見ぬふりをした」
テレス神官は、微笑しながら、ふたりに向き直った。
「トードの国中に、たくさんの貧しい人たちが病で苦しんでいました。何千という人々が、わたしの力をすがってきました。そして、今でも秘書官のクレイと共に貧困と戦っています。それと平行して、ヒドラ獣も出てきて、メディス一族を襲い始めています」
テレス神官は和やかにそう言うと、向かいのソファに再び腰かけた。
「神官庁として、どんな嫌いな相手であろうと、門戸は常に開いています。ヒドラ退治の助けがあれば、兵士は送ります。神官が必要なら、神官庁から依頼して送ります。ですが、彼らが戦うかどうかの判断は、本人に任せます」
クララは、ずっと微笑むばかりのテレス神官を、まじまじと見詰めた。
セリスが、クララの肩をさすった。
「クララ様、もうこんな所、帰りましょう。何か言い訳をすれば、大丈夫ですって。魔獣、怖いから帰りましたでいいですって」
クララは、しばらく考えた後で、きっぱりと言った。
「神官長様の微笑みの裏で、どれだけの哀しみを抱えてこられてきたか。私にはきっと分からないと思います。でも、貴族でも、悪人でも、頼まれたら戦うのが私の使命ですから」
「そうですか。でしたら、とっておきの策を教えましょう」
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる