39 / 65
第五章
第39話
しおりを挟む
クララは、突然、弾かれたように唇を引っ込めた。
手を口にあてて、瞳を潤ませている。
次第に大粒の涙が、ほほを伝ってこぼれ落ちた。
「……そろそろ、寮に行く時間だわ」
クララは、顔を背けて、ハンカチで目頭を抑えた。
「クララ様、一旦、引き返しましょう」
セリストが、クララの腕に触れようとした。
すると、クララはその手を払いのけて、今日中に行くと言ったきり、押し黙ってしまった。
ヘルドラル皇国の中心部にある、神官庁舎の大聖堂に向けて、馬車は出発した。
空の光は影を帯び、山の裾が夕陽で赤く色付きを始めている。
クララは、湖畔に来た時の陽気さとは打って変わって、物思いに沈んだように、黙り込んでいる。
そして、時折、セリストの彫りの深い顔立ちを、忘れまいと食い入るように見つめていたかといえば、急に恥じらうように視線を、夕陽が差す小窓に向けていたりする。
セリストは、そんなクララを何とか引き留められないかと、あれこれ考えを巡らした。
だが、あの小舟で交わした接吻が、皮肉にも、彼女の決意をより一層、深く、固くしてしまったようだった。
あんな誘いに乗るべきではなかったのだと、セリストは後悔するのだった。
無情にも馬車は、灰色の大聖堂の入り口に到着した。
聖堂の周りは高い塀で囲まれていて、外界と完全に隔絶している。
クララは、セリストには目もくれずに、スタスタと馬車から降りて、優に3メートルはありそうな鉄扉を見あげた。
鉄扉の脇には小さな扉がある。
そこに丸い円状の金具が据え付けられており、それを扉に打ち付ければ、内側から神官庁の職員が中に招きいれられる。
「クララ様、待ってください」
手を口にあてて、瞳を潤ませている。
次第に大粒の涙が、ほほを伝ってこぼれ落ちた。
「……そろそろ、寮に行く時間だわ」
クララは、顔を背けて、ハンカチで目頭を抑えた。
「クララ様、一旦、引き返しましょう」
セリストが、クララの腕に触れようとした。
すると、クララはその手を払いのけて、今日中に行くと言ったきり、押し黙ってしまった。
ヘルドラル皇国の中心部にある、神官庁舎の大聖堂に向けて、馬車は出発した。
空の光は影を帯び、山の裾が夕陽で赤く色付きを始めている。
クララは、湖畔に来た時の陽気さとは打って変わって、物思いに沈んだように、黙り込んでいる。
そして、時折、セリストの彫りの深い顔立ちを、忘れまいと食い入るように見つめていたかといえば、急に恥じらうように視線を、夕陽が差す小窓に向けていたりする。
セリストは、そんなクララを何とか引き留められないかと、あれこれ考えを巡らした。
だが、あの小舟で交わした接吻が、皮肉にも、彼女の決意をより一層、深く、固くしてしまったようだった。
あんな誘いに乗るべきではなかったのだと、セリストは後悔するのだった。
無情にも馬車は、灰色の大聖堂の入り口に到着した。
聖堂の周りは高い塀で囲まれていて、外界と完全に隔絶している。
クララは、セリストには目もくれずに、スタスタと馬車から降りて、優に3メートルはありそうな鉄扉を見あげた。
鉄扉の脇には小さな扉がある。
そこに丸い円状の金具が据え付けられており、それを扉に打ち付ければ、内側から神官庁の職員が中に招きいれられる。
「クララ様、待ってください」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる