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第六章

第44話

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 調薬師、ロリーネは、木箱から小瓶に入った様々な薬を、すり鉢の中に入れて、棒ですりあわせながら混ぜ合わせ、一粒の赤い錠剤を作り出した。
 そして、セリストの手に錠剤と、水の入ったコップを持たせた。

「なりたい顔をイメージできました?」
 調薬師、ロリーネが訊いた。

「できてる。元には戻せるの?」

「もちろん。変形後、解毒剤をお作りしてお渡しします。あと、1つ、訊いてもいいですか?」

「なんだい?」

 ロリーネは、首を傾げながら言った。

「栗色の髪に、整った目鼻立ちのハンサムさんが、わざわざ顔を変えるなんて、わたし、ちょっと初めてで。逆に醜い顔を美顔に変えたいという依頼ばかりでしたから」

「美顔とは思ったことはないんだけど。だが、好きな人を守れるのなら、やる意味があるから」

 ロリーネは、顔を赤らめた。
「分かりました。わたしは終わるまでそばにいますので、ご安心を」

「ありがとう」

 セリストはそう言うと、意を決して薬を口に含み、水を喉に流し込んだ。

 すると、まず、顔面を思い切り鈍器で殴られたような激しい激痛が走った。
 それから、誰かにほほを交互に殴られ続ける。顔面が赤く腫れ上がり、鼻はへし折られて、血が鼻から噴き出した。

「ぐはっ。うううっ!」

 セリストはあまりの痛みに耐えきれず、うめき声を上げる。殴打され続けるのを、なんとか、手で防ぎたい。だが、肘掛けに縛り付けられた手首は、がっしりと縄で縛り付けられている。
 それでも、セリストは、一般の男子とは違う。ぐいぐいと縄を振りほどこうと、バタバタ手首を四方に動かし始める。

「セリスト様。おやめください」
 調薬師のロリーネが、手首を抑えながら、叫んだ。

「好きな人のためなんですよね! 愛する方を守るためなんですよね! なら、それしきのことで、負けてはだめですよ!」

「うおおおおー!」
 セリストは、大声で叫びながら、自身の手をなんとか制止した。

 次は激しい痒みが、襲ってきた。
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