[完結]新米神官のお嬢様は、酔っ払い従者と怪物討伐です1【ゲリスヘーデスの呪い編】

第八章

第59話

　セリスは、瞬時にテレス神官とクレイの関係が、ただの上司部下以上の関係であることに勘づいた。

　そして、この敵の背後には、強力な治癒力を持つテレス神官がいることも。

｢ロリーネ。こいつを倒すのは、かなり、厄介だ｣
　セリスは剣を構えながら、ロリーネに告げた。

｢どういう意味ですか？｣
　ロリーネが、紅白の玉を握りしめながら、言った。

｢やつは、テレス神官を味方にしている。だから、いくら、奴にダメージを与えても、すぐ治癒できる。だから、こちらだけ、疲弊するばかりなんだ｣

｢でしたら、わたしたち、どうすれば……｣
　ロリーネは後ずさりしながら、言った。

｢すぐに俺たちはテレス神官の元に向かい、奴の治癒力を止める戦いをしないといけない｣

｢わかりました｣

　ふたりは、互いに頷くと、急ぎ、城内の馬小屋に急いだ。

　クレイは、ふたりが退散したのを確認して、嘲笑した。
　勇者とは名ばかりで、そんな攻撃など、テレス神官の治癒力であれば、何てことはない。
　
　すると目の前に、五本首のヒドラ獣を倒したばかりのクララと、剣士アルベルが現れた。

｢クララさん、お供の従者さんとエルフの子は、尻尾をまいて、逃げて行きましたよ｣
　クレイは、頭の毒矢を抜きながら、言った。

｢クレイさん、あなたが思っているほど、セリスさんは弱い方ではありません｣
　クララは杖で体を支え、肩で息をつきながら、クレイをにらんだ。　

　クレイは、そんな消耗したクララを眺め回した。

｢申し訳ないが、おしゃべりしている余裕はないんです。私の通行の邪魔をするなら、駆逐するのみです｣

　アルベルが剣を向けた。
｢イジスとロドリゴをあんな目にあわせて、簡単に通すわけがないだろう。新米、シールドを！｣

　クララは頷くと、シールド膜を形成すると、平然と歩いてくるクレイを待ちかまえた。

　クレイの膝が、シールド膜に接触すると、じりじりとクララの突き立てた杖がぐいぐいと、後ろに退いた。

　それでも、クレイの進行の速度は半減している。

　その隙に、アルベルはクレイに飛びかかり、もう片方の腕を切り落とした。
　それでも、平然としているクレイに、アルベルは戸惑いと焦りの入り混じった表情を浮かべた。


　クララは、その切り落とした腕の掌に、十字の傷跡があるのに気づいた。
　
｢これは、転移魔法……｣

　クレイは、さもおかしそうに笑い出した。
｢そうだとも。テレス神官が俺の傷の痛みも、全て取り除いてくれている。お前らに勝ち目など無い｣

｢ふん。その減らず口を、無くしてやるよ｣