【完結】お飾り花嫁のはずなのに、なぜか皮肉ばかり言う意地悪伯爵の溺愛が止まりません。

朝日みらい

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(11)意地悪なほどの優しさ

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翌日、エリーナはアルフォンスの仕事部屋に紅茶を届けることにした。

彼が机に向かって書類を睨んでいる姿はいつも通り、冷たい雰囲気を漂わせている。

背筋を伸ばし、無駄な動きをせずに筆記具を握る手元が、どこか厳格で無表情に見えた。

彼の周りには整理された書類の山が積まれ、その静寂の中で時間が止まったような錯覚を覚える。

「お茶をどうぞ。」  

エリーナは軽くカップをテーブルに置くと、彼はそれを無言で受け取り、ひと口飲んだ。

ちょうどそのタイミングで、エリーナは思い切って質問を投げかけた。  

「ところで、いつも忙しそうですけど、何をしているんですか?」  

彼は少しだけ目を上げ、視線をエリーナに向けたが、その表情は変わらず冷たくて、まるで彼女の質問に答える価値もないかのようだった。  

「君には関係のないことだ。」  

その返答に、エリーナは少し不満そうに口を尖らせた。だが、すぐに反論した。  

「でも、私たち夫婦ですよ?少しくらい知ってもいいじゃないですか。」  

アルフォンスは彼女の言葉にわずかに目を細め、少しの沈黙が流れる。

その瞬間、彼女は自分の言葉がどう響いたのかを考えたが、すぐにその考えは消えた。

彼がまた口を開く。  

「夫婦なら、君は私の仕事を信じていればいい。それで十分だ。」  

その冷たい言い方に、エリーナはさらに顔を背けた。  

「そういう冷たい言い方、ずるいです。」  

小さな声で呟くと、アルフォンスは突然立ち上がり、彼女の方に歩み寄った。

エリーナの心臓が一瞬ドキリとした。  

「冷たいと思うか?」  

アルフォンスはそのまま近づき、エリーナをじっと見つめた。

彼の目に宿る何かが、いつもとは違う気がして、エリーナはその視線に少し緊張した。  

「ええ、十分に。」  

エリーナは思い切り答えた。

その瞬間、彼が不意に意地悪そうな笑みを浮かべた。  

「ならば、少しだけ優しくしてやろう。」  

その言葉とともに、アルフォンスは彼女の髪に手を伸ばし、指先でそっと撫でた。

エリーナは予想外の行動に固まってしまう。  

「な、何してるんですか?」  

驚きながらも、彼の手のひらが触れた髪の感触を感じると、心臓がまた早鐘のように打ち始めた。

アルフォンスは何気ない口調で、  

「君の髪は柔らかいな。」  

とだけ言って、手を離した。

エリーナは顔を真っ赤にし、後ろに数歩下がる。  

「急にそんなことしないでください!」  

アルフォンスは軽く肩をすくめて、涼しい顔をしていた。  

「君が冷たいと言ったからだ。これで満足か?」  

その余裕たっぷりの態度に、エリーナは悔しさを覚えたが、心の奥で不思議な高揚感が湧き上がるのを感じた。

胸がドキドキして、どうしても彼を無視できなかった。  

その日の夜、エリーナは寝室でベッドに入ろうとしていた。

外は静まり返り、夜の冷たい空気が窓からわずかに流れ込んでいた。

だが、そのとき、突然扉がノックされる音がした。  

「こんな時間に誰ですか?」  

エリーナは驚いてベッドから飛び起き、扉を開けると、そこにはアルフォンスが立っていた。  

「私だ。」  

その声に、エリーナは思わず眉をひそめた。  

「こんな時間にどうしたんです?」  

アルフォンスはいつも通り無表情だが、その瞳には少しだけ柔らかさがあった。  

「眠れないから、少し話してやろうと思ってな。」  

エリーナは首を傾げ、ちょっと不思議そうに彼を見つめた。  

「普段は冷たいのに、こういう時だけ優しいんですね。」  

アルフォンスは無言で少し考え込んでから、静かに言った。  

「君が私を冷たいと言うたびに、少しずつ改善している。」  

その言葉に、エリーナは思わずクスリと笑った。  

「それは成長かしら?」  

「君の指導のおかげだ。」  

微かに微笑んだアルフォンスを見て、エリーナの胸は再びドキドキと高鳴る。

なんだか、彼の優しさがただの優しさではないことを感じる。  

「アルフォンスさんって、意外と甘えん坊ですよね。」  

思わずからかってみると、彼は一瞬表情を崩したが、すぐに冷徹な顔に戻った。  

「…君にだけだ。」  

その言葉を低く囁かれた瞬間、エリーナはまた顔が真っ赤になった。

彼が自分にだけ見せる柔らかな表情に、心がぐっと引き寄せられる。  

彼の気持ちを感じるたびに、エリーナの心はどんどん彼に惹かれていくのを止められなかった。
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