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(七)
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セラフィーヌとスバルは、無事にコーネリアを送り届けた。王宮近くのメルフェス公爵家の城門前にいたふたりの衛兵たちは余程心配していたらしい。コーネリアを見た途端に眉を緩めて、安堵の表情を浮かべた。
さすが王族の遠縁にあたる名家だけあり、三階建ての白亜の邸宅には広々とした噴水付きの庭園が広がっている。
「ありがとう! セラフィーヌ様」
コーネリアに手を振り見送られながら、スバルに跨がって家に戻るセラフィーヌの気持ちは、近づいてくるにつれて、気が重くなってきた……。
✳✳✳
「勝手に夜間に外出して、なにをやっているのです! わが侯爵家の名前を汚して、兵士に怪我まで……」
案の定、義母のヒラリーに怒られるわ、アルベールには呆れられるわ、という有り様だった。
頭ごなしに罵倒され続け、セラフィーヌはもう、何も話をしても意味が無いことが分かってくる。
義父の侯爵は、余り口数は少ないものの、今回ばかりは我慢ならないという風に、
「全くけしからん嫁だ」
と、当分は自室で謹慎するように命じられた。
「そうでしたら、セラフィーヌにぴったりな場所に連れていきますよ」
すかさず、アルベールが提案したので、そのままセラフィーヌはアルベールに連れられていった。
そこは馬小屋だった。狭い柵にスバルは閉じ込められている。そこには8人の兵士たちが棍棒などで殴りつけていた。前脚の骨は砕けて立ち上がれず、体のあちこちの艶のある毛は剥がれ、血が滲んでいた。
「……もうやめて!」
セラフィーヌは兵士たちに叫んだ。
すると、兵士たちは手を止めて、アルベールの方を見た。
「ふん。やめてやれ」
アルベールは兵士たちに、小屋から出るように命じた。
「アルベール、何てことをしたの!」
セラフィーヌは息も絶え絶えのスバルの前で両膝をついて、顔を覆った。
「こいつが悪いんだ」
アルベールは、苦々しく言った。
「君はぼくには目もくれずに、こんな馬とばかり遊んでいる。お母様にも反抗的だし」
「反抗的。なら、あなたには反抗期なんて、無かったんでしょ!」
セラフィーヌは顔を上げて、童顔の夫を睨み付けた。
「あなたは自立できない子ども同然よ。愛する妻を守ることさえできないくせに、立場の弱い動物に憂さを晴らすことしかできない。気の弱い、哀れな男!」
「何だって!」
アルベールは怒りで顔を紅潮させた。干し草を与えるための鍬を取り上げると、スバルに向かって近づいてきた。
「やめて!」
セラフィーヌは、スバルの前に立ち塞がった。
「セラフィーヌ、そこをどけ」
「だめ、だめ、だめ、だめ!」
アルベールは、セラフィーヌを払いのけた。うずくまったスバルの垂れた顎に手を当てながら、
「生意気なやつだ。馬の分際で」
アルベールが一笑した瞬間だった。スバルは最後の力を振り絞り、彼に強烈な頭突きを食らわした。
「うああっ!」
アルベールは床に倒れ込んで、意識を失った。
「スバル、スバル!」
セラフィーヌは、まっ先にスバルに駆け寄ったが、すでに彼の息は無かった。
さすが王族の遠縁にあたる名家だけあり、三階建ての白亜の邸宅には広々とした噴水付きの庭園が広がっている。
「ありがとう! セラフィーヌ様」
コーネリアに手を振り見送られながら、スバルに跨がって家に戻るセラフィーヌの気持ちは、近づいてくるにつれて、気が重くなってきた……。
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「勝手に夜間に外出して、なにをやっているのです! わが侯爵家の名前を汚して、兵士に怪我まで……」
案の定、義母のヒラリーに怒られるわ、アルベールには呆れられるわ、という有り様だった。
頭ごなしに罵倒され続け、セラフィーヌはもう、何も話をしても意味が無いことが分かってくる。
義父の侯爵は、余り口数は少ないものの、今回ばかりは我慢ならないという風に、
「全くけしからん嫁だ」
と、当分は自室で謹慎するように命じられた。
「そうでしたら、セラフィーヌにぴったりな場所に連れていきますよ」
すかさず、アルベールが提案したので、そのままセラフィーヌはアルベールに連れられていった。
そこは馬小屋だった。狭い柵にスバルは閉じ込められている。そこには8人の兵士たちが棍棒などで殴りつけていた。前脚の骨は砕けて立ち上がれず、体のあちこちの艶のある毛は剥がれ、血が滲んでいた。
「……もうやめて!」
セラフィーヌは兵士たちに叫んだ。
すると、兵士たちは手を止めて、アルベールの方を見た。
「ふん。やめてやれ」
アルベールは兵士たちに、小屋から出るように命じた。
「アルベール、何てことをしたの!」
セラフィーヌは息も絶え絶えのスバルの前で両膝をついて、顔を覆った。
「こいつが悪いんだ」
アルベールは、苦々しく言った。
「君はぼくには目もくれずに、こんな馬とばかり遊んでいる。お母様にも反抗的だし」
「反抗的。なら、あなたには反抗期なんて、無かったんでしょ!」
セラフィーヌは顔を上げて、童顔の夫を睨み付けた。
「あなたは自立できない子ども同然よ。愛する妻を守ることさえできないくせに、立場の弱い動物に憂さを晴らすことしかできない。気の弱い、哀れな男!」
「何だって!」
アルベールは怒りで顔を紅潮させた。干し草を与えるための鍬を取り上げると、スバルに向かって近づいてきた。
「やめて!」
セラフィーヌは、スバルの前に立ち塞がった。
「セラフィーヌ、そこをどけ」
「だめ、だめ、だめ、だめ!」
アルベールは、セラフィーヌを払いのけた。うずくまったスバルの垂れた顎に手を当てながら、
「生意気なやつだ。馬の分際で」
アルベールが一笑した瞬間だった。スバルは最後の力を振り絞り、彼に強烈な頭突きを食らわした。
「うああっ!」
アルベールは床に倒れ込んで、意識を失った。
「スバル、スバル!」
セラフィーヌは、まっ先にスバルに駆け寄ったが、すでに彼の息は無かった。
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