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このころになると聖女セリーヌはすっかり一人でも戦えるようになっていた。
プラチナカードの冒険者証は伊達じゃないらしく、勇者のサポートなんていらないほどに強かった。
戦闘中も落ち着いていて、戦況の判断も的確だ。
騎士のほうがおろおろしてしまうくらいで、セリーヌの後方支援に回ってそつなくこなすことにした。
聖女は、騎士に魔物を引きつけてほしい、と指示を出した。
もちろん勇者はそれに従う。
聖女の邪魔にならないように注意しながら、蜘蛛の注意をそらしにかかる。
セリーヌが魔法攻撃をするときにはいつでもカバーに入れるように準備した。
彼女の魔法で巨大な蜘蛛を攻撃するも、その堅い殻を破ることはできないようだった。
そこで聖女は新たな魔法を編み出した。
彼女は手を前に突き出すと呪文を唱える。
すると蜘蛛の頭上にいくつもの小さな光の玉があらわれる。
それも一つではなく、無数の。
その光の玉は聖女の手の動きに合わせて蜘蛛に降り注ぐ。
鋼鉄よりも固いとされる蜘蛛の甲殻に、小さな穴が開いていく。
そして次の瞬間、巨大な蜘蛛は断末魔の叫びを上げ、絶命した。
戦闘終了後、セリーヌはふうと一息ついた。
汗ばんでいるその顔は達成感で満ちている。
勇者はしばらく呆然としていたが、彼女に声をかけられたことでようやく現実に引き戻される。
そして、セリーヌのその笑顔があまりにもまぶしくて、つい目をそらしてしまう。
この感情はなんなのか? と問われてもうまく答えられない。
「やったわね、エルドレッド!」
「あ、ああ」
思わずぶっきらぼうな返事になってしまう。
セリーヌはそんな勇者を気にすることもなく、嬉しそうにしている。
「よかったわ。これでギルドからの依頼も達成できたし……1ヶ月の宿代くらいは稼げたかしら?」
セリーヌはプラチナカードの冒険者だ。
お金が入ることはもちろんだが、それに魔物退治は聖女としての実績を踏むことが何よりうれしそうだった。
「どうだろうな。だが、当分は十分でしょうね。セリーヌ様のおかげですよ」
「まあ、エルドレッドったら。そんなに謙遜しなくてもいいのよ。あなたは優秀な冒険者なんだから」
セリーヌは微笑むと、そっと背伸びをする。
「今日はいい日ね!」
そう言って笑う彼女の笑顔を見ると、勇者の心臓は高鳴るのだった。
* * *
翌朝のことである。
聖女セリーヌはなにかを思い出したように立ち止まった。
そしてきょろきょろとあたりを見わたす。
「どうしたの?」
「あ、いえ。少し忘れ物をしたみたいで……」
聖女は困ったように笑う。
勇者も周囲を見渡してみるが、これといって変わったものはないように思える。
「なにを忘れたのですか?」
「ええとね、ネックレス」
それはいつも首にかけているロケット付きのペンダントのことだった。
セリーヌはいつもそれを肌身離さず持っている。
だが……今彼女の首元にはなにもない。
「ああ、あれか……いつもつけていますよね」
「そうなの。大切な人からもらったものだから……」
セリーヌはそういって少し寂しそうに笑った。
「大切なものなのですね」
「……ええ、そう」
勇者の言葉にうなずきながら、けれど彼女はどこか遠くを見ているような顔をした。
その瞳には懐かしさと哀しみが入り混じっているように見えた。
そんな表情をされると、なぜかとても不安になる。
「探そう。大切なものなのですよね?」
「いいの? エルドレッドも疲れているでしょ?」
「大丈夫です。それに俺も気になるし……」
「ふふっ!」
勇者がそう言うと、聖女は花が咲いたように笑った。
(ああ……)
そんな彼女の笑顔がまぶしくて、勇者の胸は痛むのだった。
確か、昨日までは付けていたから、今朝、宿から出た時にでも置き忘れてたかもしれない。
「そうね、ありがとう」
聖女はそういうと、ネックレスを探すために町の中に入っていく。
「さて、どこから探そうかしら?」
「そうですね……」
勇者も一緒になって探すが、なかなか見当たらない。
誰かに拾われてしまったのだろうか?
それとも……まさかあの巨大な魔物に踏みつぶされでもしたのだろうか。
その可能性もないわけではないが、あまりにもリスクが高いように思える。
そんなことを考えていると不意に声をかけられる。
「……あ! もしかしてあなたたちが探してるのはこのネックレスですか?」
「え?」
振り返ると、そこにいたのは優しそうな女性だった。
その女性の手にはセリーヌが探していたものと同じロケット付きのペンダントがあった。
どうやら、彼女が拾ってくれていたらしい。
聖女の顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
セリーヌは急いで女性に駆け寄り、そして頭を下げる。
女性はそんなセリーヌを見てにっこりとほほ笑んだ。
年齢は三十代後半くらいだろうか?
どこか品のある女性だ。
「よかったわ。このロケット、とても高価なものですわね」
プラチナカードの冒険者証は伊達じゃないらしく、勇者のサポートなんていらないほどに強かった。
戦闘中も落ち着いていて、戦況の判断も的確だ。
騎士のほうがおろおろしてしまうくらいで、セリーヌの後方支援に回ってそつなくこなすことにした。
聖女は、騎士に魔物を引きつけてほしい、と指示を出した。
もちろん勇者はそれに従う。
聖女の邪魔にならないように注意しながら、蜘蛛の注意をそらしにかかる。
セリーヌが魔法攻撃をするときにはいつでもカバーに入れるように準備した。
彼女の魔法で巨大な蜘蛛を攻撃するも、その堅い殻を破ることはできないようだった。
そこで聖女は新たな魔法を編み出した。
彼女は手を前に突き出すと呪文を唱える。
すると蜘蛛の頭上にいくつもの小さな光の玉があらわれる。
それも一つではなく、無数の。
その光の玉は聖女の手の動きに合わせて蜘蛛に降り注ぐ。
鋼鉄よりも固いとされる蜘蛛の甲殻に、小さな穴が開いていく。
そして次の瞬間、巨大な蜘蛛は断末魔の叫びを上げ、絶命した。
戦闘終了後、セリーヌはふうと一息ついた。
汗ばんでいるその顔は達成感で満ちている。
勇者はしばらく呆然としていたが、彼女に声をかけられたことでようやく現実に引き戻される。
そして、セリーヌのその笑顔があまりにもまぶしくて、つい目をそらしてしまう。
この感情はなんなのか? と問われてもうまく答えられない。
「やったわね、エルドレッド!」
「あ、ああ」
思わずぶっきらぼうな返事になってしまう。
セリーヌはそんな勇者を気にすることもなく、嬉しそうにしている。
「よかったわ。これでギルドからの依頼も達成できたし……1ヶ月の宿代くらいは稼げたかしら?」
セリーヌはプラチナカードの冒険者だ。
お金が入ることはもちろんだが、それに魔物退治は聖女としての実績を踏むことが何よりうれしそうだった。
「どうだろうな。だが、当分は十分でしょうね。セリーヌ様のおかげですよ」
「まあ、エルドレッドったら。そんなに謙遜しなくてもいいのよ。あなたは優秀な冒険者なんだから」
セリーヌは微笑むと、そっと背伸びをする。
「今日はいい日ね!」
そう言って笑う彼女の笑顔を見ると、勇者の心臓は高鳴るのだった。
* * *
翌朝のことである。
聖女セリーヌはなにかを思い出したように立ち止まった。
そしてきょろきょろとあたりを見わたす。
「どうしたの?」
「あ、いえ。少し忘れ物をしたみたいで……」
聖女は困ったように笑う。
勇者も周囲を見渡してみるが、これといって変わったものはないように思える。
「なにを忘れたのですか?」
「ええとね、ネックレス」
それはいつも首にかけているロケット付きのペンダントのことだった。
セリーヌはいつもそれを肌身離さず持っている。
だが……今彼女の首元にはなにもない。
「ああ、あれか……いつもつけていますよね」
「そうなの。大切な人からもらったものだから……」
セリーヌはそういって少し寂しそうに笑った。
「大切なものなのですね」
「……ええ、そう」
勇者の言葉にうなずきながら、けれど彼女はどこか遠くを見ているような顔をした。
その瞳には懐かしさと哀しみが入り混じっているように見えた。
そんな表情をされると、なぜかとても不安になる。
「探そう。大切なものなのですよね?」
「いいの? エルドレッドも疲れているでしょ?」
「大丈夫です。それに俺も気になるし……」
「ふふっ!」
勇者がそう言うと、聖女は花が咲いたように笑った。
(ああ……)
そんな彼女の笑顔がまぶしくて、勇者の胸は痛むのだった。
確か、昨日までは付けていたから、今朝、宿から出た時にでも置き忘れてたかもしれない。
「そうね、ありがとう」
聖女はそういうと、ネックレスを探すために町の中に入っていく。
「さて、どこから探そうかしら?」
「そうですね……」
勇者も一緒になって探すが、なかなか見当たらない。
誰かに拾われてしまったのだろうか?
それとも……まさかあの巨大な魔物に踏みつぶされでもしたのだろうか。
その可能性もないわけではないが、あまりにもリスクが高いように思える。
そんなことを考えていると不意に声をかけられる。
「……あ! もしかしてあなたたちが探してるのはこのネックレスですか?」
「え?」
振り返ると、そこにいたのは優しそうな女性だった。
その女性の手にはセリーヌが探していたものと同じロケット付きのペンダントがあった。
どうやら、彼女が拾ってくれていたらしい。
聖女の顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
セリーヌは急いで女性に駆け寄り、そして頭を下げる。
女性はそんなセリーヌを見てにっこりとほほ笑んだ。
年齢は三十代後半くらいだろうか?
どこか品のある女性だ。
「よかったわ。このロケット、とても高価なものですわね」
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