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第八章:愛される力と、本当の奇跡
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王宮の大広間は、静かな緊張に包まれていました。
石造りの天井に刻まれた聖紋と、壁にかけられた王国旗。儀式用に磨かれた白銀の椅子が並び、前方には王家、貴族、聖堂関係者が席を占め、中央には一段高い壇上。
そこに、私──元聖女、レーネ・アルステッドが立っています。
聖女裁定会。
過去、癒しの力を持った者が“神の選び”であるかどうかを問う場。
けれど今日、この場にいる誰もが、本当は問いかけているのです。
「レーネは、偽聖女と糾弾されてから、何を思っていたのか」
私は、ゆっくりと壇上の中央へ進みました。
ドレスの裾が石床を撫でる音だけが、広間に響きます。
「私は、癒しの力を授かりました。けれど、それが“奇跡”であったかどうかは、今でもわかりません」
耳を傾ける人々の視線が、痛いほどに熱くて。
それでも、私ははっきりと言いました。
「私に奇跡があるのではなく、人が人を思う心が奇跡を生むのです」
その瞬間──壇下にいた、重い病の少女がふらりと立ち上がろうとし、よろめいて倒れそうになりました。
「待って」
私は思わず駆け寄り、彼女の小さな手をそっと包み込みました。
「大丈夫。少しだけ、手を握らせて?」
彼女の瞳が、ほんの少し潤んでいて。私は、静かに目を閉じて祈りました。
すると──ほんのりと光が、少女と私の間に満ちていきました。
村で見た、あの優しい光。
神の力ではない。人が人を信じ、慈しむ時に宿る、温かな力。
少女は涙を流しながら微笑み、その場に集った人々も、静かに涙をぬぐいました。
その光は、誰のためでもない。私と彼女の心が通い合った瞬間に生まれた、“本当の奇跡”でした。
聖堂長が立ち上がりました。
「レーネ・アルステッド。民があなたを聖女と呼ぶならば、あなたは“本物”です。もはや、証明の必要はありません」
会場が静かにざわめき、ひとり、またひとりと立ち上がって拍手を送り始めました。
その音は、凱旋でも称賛でもなく──祝福でした。
でも、私は壇上から降りながら、そっと一礼した後で、静かに告げました。
「ありがとうございます。でも……もう、私は聖女ではありません。ただのレーネです」
振り返ると、人々の表情は、驚きではなく、理解に満ちていました。
聖女としてでなく、“レーネ”という一人の女性として立つ私に──彼らは、敬意を送ってくれたのです。
広間の出口に向かいながら、私は心の中で呟きました。
「奇跡は終わらない。誰かを想う限り、何度でも生まれるから」
そして──私が帰る場所へ。
石造りの天井に刻まれた聖紋と、壁にかけられた王国旗。儀式用に磨かれた白銀の椅子が並び、前方には王家、貴族、聖堂関係者が席を占め、中央には一段高い壇上。
そこに、私──元聖女、レーネ・アルステッドが立っています。
聖女裁定会。
過去、癒しの力を持った者が“神の選び”であるかどうかを問う場。
けれど今日、この場にいる誰もが、本当は問いかけているのです。
「レーネは、偽聖女と糾弾されてから、何を思っていたのか」
私は、ゆっくりと壇上の中央へ進みました。
ドレスの裾が石床を撫でる音だけが、広間に響きます。
「私は、癒しの力を授かりました。けれど、それが“奇跡”であったかどうかは、今でもわかりません」
耳を傾ける人々の視線が、痛いほどに熱くて。
それでも、私ははっきりと言いました。
「私に奇跡があるのではなく、人が人を思う心が奇跡を生むのです」
その瞬間──壇下にいた、重い病の少女がふらりと立ち上がろうとし、よろめいて倒れそうになりました。
「待って」
私は思わず駆け寄り、彼女の小さな手をそっと包み込みました。
「大丈夫。少しだけ、手を握らせて?」
彼女の瞳が、ほんの少し潤んでいて。私は、静かに目を閉じて祈りました。
すると──ほんのりと光が、少女と私の間に満ちていきました。
村で見た、あの優しい光。
神の力ではない。人が人を信じ、慈しむ時に宿る、温かな力。
少女は涙を流しながら微笑み、その場に集った人々も、静かに涙をぬぐいました。
その光は、誰のためでもない。私と彼女の心が通い合った瞬間に生まれた、“本当の奇跡”でした。
聖堂長が立ち上がりました。
「レーネ・アルステッド。民があなたを聖女と呼ぶならば、あなたは“本物”です。もはや、証明の必要はありません」
会場が静かにざわめき、ひとり、またひとりと立ち上がって拍手を送り始めました。
その音は、凱旋でも称賛でもなく──祝福でした。
でも、私は壇上から降りながら、そっと一礼した後で、静かに告げました。
「ありがとうございます。でも……もう、私は聖女ではありません。ただのレーネです」
振り返ると、人々の表情は、驚きではなく、理解に満ちていました。
聖女としてでなく、“レーネ”という一人の女性として立つ私に──彼らは、敬意を送ってくれたのです。
広間の出口に向かいながら、私は心の中で呟きました。
「奇跡は終わらない。誰かを想う限り、何度でも生まれるから」
そして──私が帰る場所へ。
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