【完結】偽聖女だと追放されたけど、無骨な村人(実は元騎士団長)に溺愛されています

朝日みらい

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第九章:愛の名のもとに

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 王宮の裁定会を終えた翌朝、私は荷をまとめ、王都を後にしました。

 私が向かうのは、あの場所です。

小さな教会があり、雪解け水が流れ、薪の香りが漂う──私の「本当の人生」が始まった村。

 エルミナの森。

 馬車を降りて村道に足を踏み入れた瞬間、胸が高鳴りました。空は広く、風は優しく、あの日の景色がそのままで迎えてくれました。

 そして、あの人も。

「戻ると信じていた。お前は逃げない女だから」

 カイはいつものように寡黙で、でもその眼差しは、すべてを語っていました。

 私はふっと笑って、頷きました。

「逃げません。わたしはもう……誰かのために生きるだけの人間じゃないんです」

 そう言いながら、彼の隣に立つ。

 わたしの人生を、わたし自身のものとして歩む。その隣に、あなたがいてくれるのなら──それ以上、なにを望むでしょう。

「……帰ってきたんだな」

「はい。ただいま」

 その言葉に、カイはそっと両腕を広げてくれました。

 私が一歩だけ踏み出すと、その腕に抱き寄せられ、胸の鼓動が重なりました。

「レーネ。俺と、正式に婚約してくれ」

「……仮初めじゃなくて?」

「本物だ。名も、立場も、全部捨ててきたお前と。ここで、一緒に生きたい」

 私は、涙がこぼれないように、ぎゅっとまぶたを閉じました。

「……はい。お願いします。わたしと、一緒に、生きてください」

 その言葉とともに、唇を交わす。

 誰かに命じられたものではなく、儀式の一環でもなく──ただ、私たちの想いが重なった証として。

 その夜、教会には村人たちが集い、小さな祝宴が開かれました。

「パンが焼ける聖女は最強よ!」と笑い合い、「次は赤ちゃんね!」とからかわれて、私は真っ赤になりながらカイの袖を引っぱって逃げたのですが──

 彼はいつものように、逃げずに堂々と受け止めてくれました。

「レーネ・レオナルドか。……いい名前だ」

 そう囁かれた時──私は、ようやく自分の人生を手に入れたのだと、心の底から感じたのです。

 王都では、私たちの結婚を祝う声が満ちていました。

 花束、祈り、手紙、そして笑顔。民は“聖女”ではなく、「レーネ」という一人の女性に、敬意と愛を注いでくれたのです。

* * *

 セルヴァン殿下とエリザベータ嬢は、それぞれ処分を受け、静かに宮廷から姿を消しました。

 私たちの物語は、誰かを責めるためのものではなく。

 愛の名のもとに、本当の人生へと続いていくもの──そう思えた夜でした。
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