【完結】婚約は断固拒否します!~宿敵イケメンと喧嘩ばかりの私が、なぜか恋に落ちた件~

朝日みらい

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第1章:仮面舞踏会で出会ったのは、よりによって“アイツ”でした

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 その夜、わたしは久々に、息ができる気がしました。

 煌びやかなシャンデリア、薔薇の香る回廊、仮面で顔を隠した貴族たちのざわめき。

ここは、貴族令嬢であるわたし――セリーナ・ヴァレンティが「本来の自分」をほんの少しだけ、解放できる場なのです。

「このドレス、すこし大胆すぎたかしら……」

 鏡の前で、深紅のドレスをまじまじと眺めながら、少しだけ不安になります。

肩は露出ぎみ、背中も大胆に開いていて、いかにも“仮面舞踏会仕様”。

でも、誰にも正体がバレなければ、少しくらい羽目を外したって――いいじゃないですか。

「セリーナ様、それでは仮面を」

 侍女が差し出した金のレース仮面を顔に添えると、胸の高鳴りは抑えられず、心臓が小躍りしました。

 舞踏会会場では、誰もが誰でもないふりをして、束の間の自由を楽しんでいます。

わたしも例に漏れず、少しの好奇心と少しの背徳感を抱えて、そっと会場に足を踏み入れました。

 そして、そのときです。

「踊らないのか?」

 背後から声をかけられて、思わず肩が跳ねました。

低くて、でも不思議と心地よい響きの声でした。

 振り返ると、銀縁の仮面をつけた青年が一人、わたしのことを見下ろしていました。

金色の髪が夜会の灯りに煌めいて、シャープな輪郭に整った唇。

ちょっとだけ、現実味がないほど整っていて――。

「……踊ります、けれど、パートナーがいないだけです」

 わたしがそう答えると、彼は少しだけ口元をゆるめて、手を差し伸べました。

「なら、俺がいるだろ?」

「突然すぎます」

「そもそも、仮面舞踏会に常識を求めるなよ。な?」

 指先が触れ合った瞬間、胸の奥で何かがチクリと疼いた気がしました。

そのまま二人でダンスフロアへ向かい、音楽に身を任せて、しばらくは夢のような時間が流れます。

 名前も素性も明かさず、ただお互いの“今”だけを見て、笑って、踊って。

「あなた、本当は誰なんですか?」

「んー、それはあとで教えてやる」

 いたずらっぽく笑う彼に、わたしはつい、「知りたいです」と口走ってしまいました。

 すると、彼はそっと仮面に手をかけて――。

「お前こそ、仮面の下の顔、見せる気あるのか?」

「……勇気を出せば、見せられるかもしれません」

「いい返事だ、じゃあ、せーの――」

 お互い、仮面を少しずつ持ち上げて。

 その瞬間。

「はああああ!? アルジェント家のレオン!?」

「……お前、まさかヴァレンティの令嬢かよ!? マジか、よりによって」

 まさかの――最悪の展開でした。

 宿敵とも言える名門・アルジェント家の次男坊。

政治でも社交でも一歩も引かない相手。

それが、まさか仮面舞踏会で“いい雰囲気になった相手”の正体だなんて。

「チッ、無駄に綺麗な目しやがって」

「あんたのほうが無駄にいい声じゃないですか! 騙された!」

 せっかくのロマンチックな空気が、一気に血生臭い感じに変わりました。

 周囲も唖然。

ドレス姿の令嬢と、燕尾服の青年がフロアでガチ喧嘩を始めたのですから。

「お前こそ、俺に踊らせた責任とれよ!」

「誰があんたに踊らされました!? むしろ足踏んでましたよね!? 証拠出します!? 靴、見ます!?」

 取り押さえようとする侍女を振り切りながら、わたしはレオンと睨み合いました。

 ……と、そのとき、遠くから父の声が。

「セリーナ!」

「あっ、やば、見つかった……」

「まさか、令嬢が男と取っ組み合いとは、何をやっているんだ!」

「父上っ!? 誤解です……!」

 レオンはニヤニヤ笑いながら肩をすくめました。

「この夜、忘れられなさそうだな」

「……思い出したくもないですね。二度とお会いしませんように!」

 そう言い残して、わたしは逃げるように舞踏会会場を後にしました。

 けれど、心の奥では妙な高揚感とざわざわが残っていて

――これから先、どうなるのか、ちょっとだけ不安で、ちょっとだけ期待している自分がいました。

 だって、まさか“アイツ”とこんな形で再会するなんて、誰が想像できたでしょうか?
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