【完結】死んだ目の聖女を捕虜にしたら、将軍の理性が崩壊した件について ~これは監禁じゃなくて保護です!ほんとです!~

朝日みらい

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第1章:死んだ目の聖女、捕虜になる

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 目が覚めると、天井が黒かった。

 ああ、そうだ。わたし、捕まったんでした。

「……はぁぁ」

 ため息が、うっかり三回くらいループしてしまいそうになるのをどうにか抑えながら、わたしは硬い石床の上で体を起こしました。

 ここは魔王軍本拠地、通称・魔王城。その奥にある、囚人のための地下牢です。

 百年続いた戦争の和平の象徴として、人間側から“癒しの聖女”であるわたし、リュミエール・セレスタが婚約を破棄され魔族側へ「贈与」されました。ええ、贈与って何? って思いましたけど、言われるままです。

「使い古しの聖女って、何に使うつもりだったんでしょうね……」

 ぼやきながら、鉄格子越しの壁を見つめていたそのとき。

「貴様が“癒しの聖女”か」

 ゴウン、と牢の扉が開き、どこからどう見ても“ラスボス”的な風格を持った男性が現れました。身長はゆうに二メートル、全身漆黒の鎧に身を包み、銀の髪が炎のように揺れています。目つきは鋭く、まるで何もかも見透かすような……。

 ああ、間違いありません。この人こそ、魔族最強にして“冷酷無比”と恐れられる将軍、カイル・ノクティスさまです。

 お噂はかねがね。どうやらわたし、尋問されるようです。

「……もう戦う気力とか、ないんで。適当にどうぞ……」

「…………」

 カイル将軍の顔が、引きつっているのがわかりました。あ、思ってたリアクションと違いましたか?

「……貴様、捕虜の自覚はあるのか?」

「ありますよぉ……戦争終わったし、わたしもうお役御免ですし……はい……」

 うっすら笑みを浮かべたまま答えると、将軍はこめかみに青筋を浮かべてうめきました。

「お前、本当に聖女か……? 死んだ魚の目をした抜け殻みたいな顔をして……!」

「よく言われます……最近じゃ“干からびたマリネ”とか“冬を越せなかったリス”とか……あ、でもマリネはちょっと美味しそうですね……」

「……くっ……これは想定外……!!」

 カイル将軍が頭を抱えました。

 すみません、聖女のくせに取り扱いに困って。

 でも本当に、わたしにはもう、戦う理由も希望も残っていないのです。

 かつては、癒しの奇跡で前線の兵たちを救い、笑顔を届けてきたわたしですが、それも限界でした。仲間たちは次々と倒れ、和平のためだと“交換”され……。

 ああ、なんだか眠くなってきました。

「聖女、お前……何か食べたか?」

「さっき、パンの耳をいただきました。乾燥気味でちょっとアゴが鍛えられました」

「……紅茶は?」

「え?」

 唐突な質問に、わたしはぽかんとします。紅茶? ええと、最後に飲んだのは……三ヶ月前くらいでしょうか。上等なダージリンに蜂蜜を落として、ふうっと息を吹きかけて……。

「……飲みたいですか?」

 ぽつりとそう言うと、カイル将軍の目が見開かれました。

「なぜわかる!?」

「いえ、なんとなく……あの、わたしも、飲みたいなって……思っただけで……」

 自分でも驚きでした。ずっと無気力だった心が、ほんの少しだけ動いた気がしたのです。

 紅茶……飲めたらいいなあ。そう思った瞬間、ぐぅ、とお腹が鳴りました。

「…………」

「…………」

「……よし、茶を用意する。すぐだ!!」

「えっ!? 尋問って紅茶つきだったんですか!? 魔族ってやさしい……」

「ちがう! これは尋問だ!! 尋問なのだ!! 断じて茶会ではない!!」

 真っ赤な顔で叫ぶ将軍を見て、思わずくすっと笑ってしまいました。

 あれ、わたし……今、笑った……?

 もしかしたらこの牢屋、そんなに悪くないのかもしれません。

 そんな風に思った瞬間でした。
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