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二章ー松尾の依頼と優之助との約束ー
旅立つ前に
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更に二日が経った。
優之助は鈴味屋でまたも昼から飲みに来ていた。
いつも通りおさきを待つ。
おさきは鈴味屋一番人気の女なので中々独占は難しい。
しかし早い時間だと割と会えるのだ。
期待通りそれ程待つ事なくおさきが現れる。
「優さま、おりんちゃんの事、解決して下さったんですね。ありがとうございます。これ私とおりんちゃんからです」
おさきは盆に酒を乗せて現れた。
「そんな気遣いええのに」
優之助は気分良く酒を受け取る。
「その日の内に大山さんに言うてくれたんですね。早速送りに来てくれたみたいで、色々話してくれた言うてましたよ。心配やけど嬉しかったって」
おさきはにこっと微笑む。
自分の事のように嬉しそうだ。
優之助はおさきの色んな表情が好きだが、やはりこの笑顔が一番美しいと思った。
この顔を見る為なら何だってする。
「おりんさんもおさきも喜んでくれて良かったわ。俺はそれだけで頑張った甲斐があるってもんや」
優之助が言うと、おさきが酒を注ぐ。
「優さまも男らしくなりましたね」
「え、ほんまか」
「ほんまですよ」
おさきは言うなりもう一度微笑んだ。
その日はしこたま飲んでしまった。
「おさき、もう飲まれへんわ……」
おさきが微笑みながら更に酒を注ぐ。
優之助はふらふらになりながら飲み続ける。
それにしてもかなり酔っぱらって来たのか、かなり揺れている。
杯を持つ手もがたがた揺れる。
もはや体がふらふらではなくがたがた揺れる。
こんな酔い方は初めてだ。
「優之助さん!起きて下さい!」
目を開けると、羽田が優之助の肩を揺らして起こす。
「あれ……ここは……鈴味屋と違う」
目を擦り体を起こす。
頭が重い。
いつも見慣れた部屋がある。
「しっかりして下さい。ここは優之助さんの家ですよ。昨日かなり飲まれていたようで、帰るなり居間にも寄らず自室で倒れ込んで寝ましたよ。お話があったのですが、大山さんも明日で構わないと言っていたので寝かしていたのですが……いつまでも起きてこないので起こしに来ました」
そう言う事か。
おさきのお蔭で機嫌よく飲み、おさきが居なくなってからも女を付ける事無く余りにも気分が良く一人で飲み続けた。
ふらつく足取りで店を出たのは覚えているが、どうやって帰ってきたのかは覚えていない。
「伝之助さんは怒ってますか」
どうやって帰って来た事よりそれが気になる。
「いえ、別に怒ってはいないと思いますよ」
羽田のこの言葉は鵜呑みに出来ない。
羽田は気を遣って言っているだけかもしれない。
「ほんまですか?伝之助さんが怒って羽田さんに起こして来いと言ったんちゃいますか」
「いや、大山さんが何か言う前に起こしに来たんですよ。朝起きて二人で稽古して、終わってもまだ優之助さんがいなかったので起こしに来ました。僕が起こして来ますと言いましたが、頼むと言っただけで怒っている素振りも何もありませんでしたよ」
「そうですか」
良かった。
伝之助はだらしのない事に関しては何かと小言を言うが、酒に関しては鷹揚なようだ。
これも薩摩人だからだろうか。
「それじゃあ起きますか」
呆れる羽田を尻目に顔を洗いに行く。
冷たい水が酔いを醒ます。
幾分頭がすっきりした気がするが、何となく重い。
胃の辺りも重い。
味噌汁だけ飲むことにしようと思った。
伝之助はおらず、快適に過ごす。
快適な時はあっと言う間に過ぎ去り、茶碗を洗っていると伝之助が帰ってきた。
「お帰りなさい」
書物を読んでいた羽田が、顔を上げて声を掛ける。
「おう。そこの寝坊助はようやっと起きよったか」
「ありがとうございます。よう寝させてもらいました」
嫌味で返す。
伝之助は鼻で笑って一蹴すると座った。
「優之助も座れ。話がある」
そう言えば羽田が、伝之助から話があると言っていた。
「どないしたんですか。何か進展があったんですか」
優之助が聞くと、伝之助は腕を組んで話し出した。
「昨日の夜、松尾さあと会った。日高の動向を掴んだようじゃ」
「遂にですか」
羽田も聞いていなかったのか、伝之助の言葉に意気込む。
「遂にですか……」
優之助は昨日までの夢のような一日に終わりを告げられ、意気消沈する。
「日高は今、大坂におる」
「大坂……また大坂ですか」
大坂にはおさきからの依頼で仇討ちに行った。
伝之助と初めて二人で仕事をした地だ。
「大坂で裏の世界では有名な手配師がおる。脛に傷持つ浪人やごろつきを専門に仕事を紹介しちょるそうじゃ。そげん奴らを求めるような奴は人に言えん仕事を頼むこつが多か。じゃっでよう儲けちょる。そげん仕事じゃっで、一癖も二癖もある奴らを相手する。当然腕の立つ用心棒が必要じゃ。そん用心棒が日高じゃ」
「極悪人達の元締めの用心棒ですか……」
そんな奴の用心棒についているとは、日高の実力相応と言えばそうかもしれない。
「日高が用心棒についていると言う事はその手配師は藤井と繋がっているのですか」
「さすがは羽田どんじゃ。話が早か。確信はなか。じゃっどんそげんこつじゃろ。大方、藤井が雇う浪人はそん手配師から仕入れちょるち言う松尾さあの予想じゃ」
「なるほど」
藤井がどこからあれ程脛に傷持つ浪人を仕入れているのか気になっていた。
最初は坂谷から人材を調達していると思っていたが、坂谷を倒してからも減る気配は無かった。
今思うと藤井の口利きで坂谷もその手配師から浪人を仕入れていたのかもしれない。
「それでいつ大坂に向かうのですか。まさか今からとは言いませんよね」
この薩摩の侍は思い立ったらすぐ行動に移さないと気が済まないのだ。
余程我慢が出来ないのだろう。
優之助はそんな事を思いながら不安気に伝之助を見る。
伝之助はにっと笑って返した。
「ようわかっちょるの。今すぐ支度せえ」
「え、ほんまですか」
「と言いたかとこじゃが準備が整っちょらん。大坂の伝手に話をつけちょうが、早くても明日でないと対応出来ん言うこつじゃ。じゃっで出発は明日じゃ」
なんや、驚かせやがって。
それならそうとはよ言え。
優之助は密かに悪態付く。
「なら早速準備して明日に備えましょう」
羽田の言葉を合図にそれぞれが思いのままに動き出す。
優之助はおさきに一言伝えたくて鈴味屋に行く事にした。
出発が明日で良かったと心から思った。
「おさき、明日動く事になった」
日が傾く頃、優之助は鈴味屋に来ていた。
急いで大坂に向かう荷造りをし、鈴味屋に来たのだ。
そしておさきを待ち、今ようやく来てくれた。
今日は飲み過ぎないようにしなければと思った。
「そうですか。どうかご無事でお戻り下さい」
おさきは言って酒を注ぐ。
おさきにそう言われると、例え斬り殺されても幽霊となって戻ってくるだろう。
我ながら恐ろしい発想だ。
「必ず帰る。待っててくれ」
優之助の言葉におさきは笑みで返す。
もうこの幸せな時間はしばらくお預けとなる。
また味わいたければ帰って来なければいけない。
そして帰る時はまた評価を上げて帰る事になる。
そうなればおさきもそろそろ振り向いてくれるのではないだろうかなどと考え、優之助は鼻の下を伸ばして酒を飲む。
「優さま、せっかくの男前が台無しですよ」
おさきは優之助の心情を見透かして微笑み、更に酒を注いだ。
「明日、動くこつんなった」
伝之助は提灯を持って、りんと夜道を歩く。
りんが鈴味屋での勤めを終えていつもの送る帰り道だ。
「お帰りはいつになりますか」
伝之助はりんの眼差しを受けず、正面を見ながら答える。
「わからん。じゃっどん、必ず帰る。待っちょれ」
りんは伝之助の言葉に目を逸らす。
必ず帰ると言ったが、それはわからないだろう。
しかしそれを言うといつだってそうだ。
いつどこでどうなるかなど、どれ程の遣い手でもわからないのだ。
りんはいつもより多く持つ手荷物からあるものを取り出す。
「待ってます、いつまでも。伝之助さんの帰りを、無事を祈って待ってます。これよかったら使って下さい」
りんは再び伝之助を見て言った。
伝之助はりんが差し出した物を見て目を見開く。
「こいは……」
そこには藍色の羽織があった。
りんに手渡され広げて見る。
これで背中に十字紋が描かれていたら薩摩侍が着ている羽織であったが、背中には何も描かれたおらず、代わりに背中の左肩の辺りに大小の蜻蛉が二匹、銀の刺繍で描かれていた。
「洒落た羽織じゃの」
「伝之助さんはまだ正式に薩摩侍と違うけど、薩摩隼人やから。背中に十字紋の入ったのはまた薩摩に戻った時にでもと思うけど、それまではこれを薩摩の羽織やと思って使って貰ったらいいかなって思って」
りんが照れた様子で伝之助を見て言う。
伝之助はりんを真っ直ぐ見返し、にっと笑った。
「あいがとな、りん。大事にする。こいを着てきっと帰って来る。じゃっで待っちょれ」
伝之助はりんの頭を撫でた。
りんは笑うと、帰り道と違った道の先を見て言った。
「あ、綺麗な桜」
もう桜の咲く季節となっていた。
伝之助はりんの頭から手を離すと、夜に咲く桜を眺めた。
「今日はちと遠回りして夜桜でも見て行くか」
言って伝之助は左手を差し出す。
「はい」
りんが嬉しそうに返事を返し、その手を取る。
二人は手を繋いで夜道を歩いた。
優之助は鈴味屋でまたも昼から飲みに来ていた。
いつも通りおさきを待つ。
おさきは鈴味屋一番人気の女なので中々独占は難しい。
しかし早い時間だと割と会えるのだ。
期待通りそれ程待つ事なくおさきが現れる。
「優さま、おりんちゃんの事、解決して下さったんですね。ありがとうございます。これ私とおりんちゃんからです」
おさきは盆に酒を乗せて現れた。
「そんな気遣いええのに」
優之助は気分良く酒を受け取る。
「その日の内に大山さんに言うてくれたんですね。早速送りに来てくれたみたいで、色々話してくれた言うてましたよ。心配やけど嬉しかったって」
おさきはにこっと微笑む。
自分の事のように嬉しそうだ。
優之助はおさきの色んな表情が好きだが、やはりこの笑顔が一番美しいと思った。
この顔を見る為なら何だってする。
「おりんさんもおさきも喜んでくれて良かったわ。俺はそれだけで頑張った甲斐があるってもんや」
優之助が言うと、おさきが酒を注ぐ。
「優さまも男らしくなりましたね」
「え、ほんまか」
「ほんまですよ」
おさきは言うなりもう一度微笑んだ。
その日はしこたま飲んでしまった。
「おさき、もう飲まれへんわ……」
おさきが微笑みながら更に酒を注ぐ。
優之助はふらふらになりながら飲み続ける。
それにしてもかなり酔っぱらって来たのか、かなり揺れている。
杯を持つ手もがたがた揺れる。
もはや体がふらふらではなくがたがた揺れる。
こんな酔い方は初めてだ。
「優之助さん!起きて下さい!」
目を開けると、羽田が優之助の肩を揺らして起こす。
「あれ……ここは……鈴味屋と違う」
目を擦り体を起こす。
頭が重い。
いつも見慣れた部屋がある。
「しっかりして下さい。ここは優之助さんの家ですよ。昨日かなり飲まれていたようで、帰るなり居間にも寄らず自室で倒れ込んで寝ましたよ。お話があったのですが、大山さんも明日で構わないと言っていたので寝かしていたのですが……いつまでも起きてこないので起こしに来ました」
そう言う事か。
おさきのお蔭で機嫌よく飲み、おさきが居なくなってからも女を付ける事無く余りにも気分が良く一人で飲み続けた。
ふらつく足取りで店を出たのは覚えているが、どうやって帰ってきたのかは覚えていない。
「伝之助さんは怒ってますか」
どうやって帰って来た事よりそれが気になる。
「いえ、別に怒ってはいないと思いますよ」
羽田のこの言葉は鵜呑みに出来ない。
羽田は気を遣って言っているだけかもしれない。
「ほんまですか?伝之助さんが怒って羽田さんに起こして来いと言ったんちゃいますか」
「いや、大山さんが何か言う前に起こしに来たんですよ。朝起きて二人で稽古して、終わってもまだ優之助さんがいなかったので起こしに来ました。僕が起こして来ますと言いましたが、頼むと言っただけで怒っている素振りも何もありませんでしたよ」
「そうですか」
良かった。
伝之助はだらしのない事に関しては何かと小言を言うが、酒に関しては鷹揚なようだ。
これも薩摩人だからだろうか。
「それじゃあ起きますか」
呆れる羽田を尻目に顔を洗いに行く。
冷たい水が酔いを醒ます。
幾分頭がすっきりした気がするが、何となく重い。
胃の辺りも重い。
味噌汁だけ飲むことにしようと思った。
伝之助はおらず、快適に過ごす。
快適な時はあっと言う間に過ぎ去り、茶碗を洗っていると伝之助が帰ってきた。
「お帰りなさい」
書物を読んでいた羽田が、顔を上げて声を掛ける。
「おう。そこの寝坊助はようやっと起きよったか」
「ありがとうございます。よう寝させてもらいました」
嫌味で返す。
伝之助は鼻で笑って一蹴すると座った。
「優之助も座れ。話がある」
そう言えば羽田が、伝之助から話があると言っていた。
「どないしたんですか。何か進展があったんですか」
優之助が聞くと、伝之助は腕を組んで話し出した。
「昨日の夜、松尾さあと会った。日高の動向を掴んだようじゃ」
「遂にですか」
羽田も聞いていなかったのか、伝之助の言葉に意気込む。
「遂にですか……」
優之助は昨日までの夢のような一日に終わりを告げられ、意気消沈する。
「日高は今、大坂におる」
「大坂……また大坂ですか」
大坂にはおさきからの依頼で仇討ちに行った。
伝之助と初めて二人で仕事をした地だ。
「大坂で裏の世界では有名な手配師がおる。脛に傷持つ浪人やごろつきを専門に仕事を紹介しちょるそうじゃ。そげん奴らを求めるような奴は人に言えん仕事を頼むこつが多か。じゃっでよう儲けちょる。そげん仕事じゃっで、一癖も二癖もある奴らを相手する。当然腕の立つ用心棒が必要じゃ。そん用心棒が日高じゃ」
「極悪人達の元締めの用心棒ですか……」
そんな奴の用心棒についているとは、日高の実力相応と言えばそうかもしれない。
「日高が用心棒についていると言う事はその手配師は藤井と繋がっているのですか」
「さすがは羽田どんじゃ。話が早か。確信はなか。じゃっどんそげんこつじゃろ。大方、藤井が雇う浪人はそん手配師から仕入れちょるち言う松尾さあの予想じゃ」
「なるほど」
藤井がどこからあれ程脛に傷持つ浪人を仕入れているのか気になっていた。
最初は坂谷から人材を調達していると思っていたが、坂谷を倒してからも減る気配は無かった。
今思うと藤井の口利きで坂谷もその手配師から浪人を仕入れていたのかもしれない。
「それでいつ大坂に向かうのですか。まさか今からとは言いませんよね」
この薩摩の侍は思い立ったらすぐ行動に移さないと気が済まないのだ。
余程我慢が出来ないのだろう。
優之助はそんな事を思いながら不安気に伝之助を見る。
伝之助はにっと笑って返した。
「ようわかっちょるの。今すぐ支度せえ」
「え、ほんまですか」
「と言いたかとこじゃが準備が整っちょらん。大坂の伝手に話をつけちょうが、早くても明日でないと対応出来ん言うこつじゃ。じゃっで出発は明日じゃ」
なんや、驚かせやがって。
それならそうとはよ言え。
優之助は密かに悪態付く。
「なら早速準備して明日に備えましょう」
羽田の言葉を合図にそれぞれが思いのままに動き出す。
優之助はおさきに一言伝えたくて鈴味屋に行く事にした。
出発が明日で良かったと心から思った。
「おさき、明日動く事になった」
日が傾く頃、優之助は鈴味屋に来ていた。
急いで大坂に向かう荷造りをし、鈴味屋に来たのだ。
そしておさきを待ち、今ようやく来てくれた。
今日は飲み過ぎないようにしなければと思った。
「そうですか。どうかご無事でお戻り下さい」
おさきは言って酒を注ぐ。
おさきにそう言われると、例え斬り殺されても幽霊となって戻ってくるだろう。
我ながら恐ろしい発想だ。
「必ず帰る。待っててくれ」
優之助の言葉におさきは笑みで返す。
もうこの幸せな時間はしばらくお預けとなる。
また味わいたければ帰って来なければいけない。
そして帰る時はまた評価を上げて帰る事になる。
そうなればおさきもそろそろ振り向いてくれるのではないだろうかなどと考え、優之助は鼻の下を伸ばして酒を飲む。
「優さま、せっかくの男前が台無しですよ」
おさきは優之助の心情を見透かして微笑み、更に酒を注いだ。
「明日、動くこつんなった」
伝之助は提灯を持って、りんと夜道を歩く。
りんが鈴味屋での勤めを終えていつもの送る帰り道だ。
「お帰りはいつになりますか」
伝之助はりんの眼差しを受けず、正面を見ながら答える。
「わからん。じゃっどん、必ず帰る。待っちょれ」
りんは伝之助の言葉に目を逸らす。
必ず帰ると言ったが、それはわからないだろう。
しかしそれを言うといつだってそうだ。
いつどこでどうなるかなど、どれ程の遣い手でもわからないのだ。
りんはいつもより多く持つ手荷物からあるものを取り出す。
「待ってます、いつまでも。伝之助さんの帰りを、無事を祈って待ってます。これよかったら使って下さい」
りんは再び伝之助を見て言った。
伝之助はりんが差し出した物を見て目を見開く。
「こいは……」
そこには藍色の羽織があった。
りんに手渡され広げて見る。
これで背中に十字紋が描かれていたら薩摩侍が着ている羽織であったが、背中には何も描かれたおらず、代わりに背中の左肩の辺りに大小の蜻蛉が二匹、銀の刺繍で描かれていた。
「洒落た羽織じゃの」
「伝之助さんはまだ正式に薩摩侍と違うけど、薩摩隼人やから。背中に十字紋の入ったのはまた薩摩に戻った時にでもと思うけど、それまではこれを薩摩の羽織やと思って使って貰ったらいいかなって思って」
りんが照れた様子で伝之助を見て言う。
伝之助はりんを真っ直ぐ見返し、にっと笑った。
「あいがとな、りん。大事にする。こいを着てきっと帰って来る。じゃっで待っちょれ」
伝之助はりんの頭を撫でた。
りんは笑うと、帰り道と違った道の先を見て言った。
「あ、綺麗な桜」
もう桜の咲く季節となっていた。
伝之助はりんの頭から手を離すと、夜に咲く桜を眺めた。
「今日はちと遠回りして夜桜でも見て行くか」
言って伝之助は左手を差し出す。
「はい」
りんが嬉しそうに返事を返し、その手を取る。
二人は手を繋いで夜道を歩いた。
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