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番外編 4
三峰汐音は動き出した電車の扉に左肩を預け、窓の外へ目を向けていた。夕暮れに染まる街の景色が飛ぶように背後へ流れ去っていく。
しかし、頭の中はやっと巡り会えたフィーリアの魂を持つ相澤和真のことでいっぱいだった。真っ直ぐで艶やかな黒髪に、吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳が、今もなお汐音の脳裏に焼きついている。彼の姿を思い出すだけで鼓動が速くなるほどだ。
汐音はルークとして生を受けてから気が遠くなるような時を越えて、もう一度敬愛するフィーリア王女に会いたいと願い続けてきた。
その願いは叶った。叶ったのだ。
『もう苦しまなくていいんだよ。おまえは自由だ。これからは自分の幸せを探せ。汐音』
耳の奥で和真の声が響く。
胸にギュッと掴まれたような痛みが走った。彼から離れて行くだけで、その距離に連動するように胸がどんどん苦しくなっている。
(これからどうすればいいんだろう……)
がむしゃらにフィーリアの魂だけを追っていた時には考えられなかった事だった。
(まるで突然何も無い場所にたった一人で放り出されたような気分だ)
別れる前に、もう一度会って欲しいと頼んでみたが、『もう過去には囚われるな』と、最後まで頭を縦に振ってもらえなかった。
それでも駅の改札口まで見送ってくれたのは、和真という人の人柄の良さからだろう。
しかし、頑なに住所も通っている学校の名前さえ教えてもらえなかった。それは汐音にはもう会わないとの意思表示だ。
「はあ~」
苦しげに眉間に皺を寄せながら額を冷たい窓ガラスに押し付ける。
(和真さんの学校の校章は覚えている。学校を特定する事は簡単だけど……)
和真に会いに学校へ押しかけたとしても、恐らく会ってはもらえないように思えた。最悪の場合、ストーカー扱いされる可能性もある。会ってすぐの怯えた相澤和真の顔が思い出され、目を強く閉じる。
「……会いたい」
思わず思いが唇から零れ落ちる。
それが紛れも無い本心であり、今の汐音としての願いでもあった。
(拒絶されずに和真さんの側に居る方法を考えればいいんだ……。例えば、同じ学校に通ってしまえば、何の問題も無く毎日会える……)
『同じ学校』と考えただけで、胸の奥でトクっと心臓が高鳴った。
(初めは逃げられるかもしれない。でも、誠心誠意接していれば、きっとあの方なら側にいることを許してくれるはずだ)
自分の進む道が決まった瞬間だった。まるで雲間から光が射してきたような気分だった。方向が決まれば、後は実行に移せばいいだけだ。
(和真さん! 待っていてくださいね!)
汐音は嬉々として、すぐさま携帯電話を取り出した。先ほどまで沈んでいた瞳をキラキラと輝かせながら和真が通う学校を検索する。すぐに学校は突き止めることが出来た。
だが、超難関校だと判明し、顔を引き攣らせる。難関なのは偏差値だけでは無い。セレブ達が通う学校でもあったからだ。
「前途多難だ。……さすが、フィーリア様の魂をお持ちだけはある。なんてハイレベルなんだ」
フィーリアは第三王女だったのだ。地方の、それも下級貴族の家系に生まれた汐音の前世だったルークが彼女の側に侍るために必死で剣術を磨き、剣術大会で優勝して王女の護衛になれた時の事が思い出された。
「私の想いを試しておいでなのだろうか? ……そんな事はどうでもいい。努力すれば良いだけだ。あの方と同じ空の下で生きていられるのだから、何だってできる。何だってしてやる!」
その日の内に汐音は両親に私立白羽学院高等部に行きたいと告げた。来年の春から祖母が一人で暮らすフランスへ家族で渡るつもりだった父と母は非常に驚き、頼る人がいない日本に一人で残る事を猛反対されてしまった。
だが、汐音の意志が固いと分かると、特待生になれたら日本に残って良いと条件を出された。汐音はその条件をのんだ。汐音は寝食を削って試験勉強に挑み、見事主席で合格してみせたのだった。
しかし、頭の中はやっと巡り会えたフィーリアの魂を持つ相澤和真のことでいっぱいだった。真っ直ぐで艶やかな黒髪に、吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳が、今もなお汐音の脳裏に焼きついている。彼の姿を思い出すだけで鼓動が速くなるほどだ。
汐音はルークとして生を受けてから気が遠くなるような時を越えて、もう一度敬愛するフィーリア王女に会いたいと願い続けてきた。
その願いは叶った。叶ったのだ。
『もう苦しまなくていいんだよ。おまえは自由だ。これからは自分の幸せを探せ。汐音』
耳の奥で和真の声が響く。
胸にギュッと掴まれたような痛みが走った。彼から離れて行くだけで、その距離に連動するように胸がどんどん苦しくなっている。
(これからどうすればいいんだろう……)
がむしゃらにフィーリアの魂だけを追っていた時には考えられなかった事だった。
(まるで突然何も無い場所にたった一人で放り出されたような気分だ)
別れる前に、もう一度会って欲しいと頼んでみたが、『もう過去には囚われるな』と、最後まで頭を縦に振ってもらえなかった。
それでも駅の改札口まで見送ってくれたのは、和真という人の人柄の良さからだろう。
しかし、頑なに住所も通っている学校の名前さえ教えてもらえなかった。それは汐音にはもう会わないとの意思表示だ。
「はあ~」
苦しげに眉間に皺を寄せながら額を冷たい窓ガラスに押し付ける。
(和真さんの学校の校章は覚えている。学校を特定する事は簡単だけど……)
和真に会いに学校へ押しかけたとしても、恐らく会ってはもらえないように思えた。最悪の場合、ストーカー扱いされる可能性もある。会ってすぐの怯えた相澤和真の顔が思い出され、目を強く閉じる。
「……会いたい」
思わず思いが唇から零れ落ちる。
それが紛れも無い本心であり、今の汐音としての願いでもあった。
(拒絶されずに和真さんの側に居る方法を考えればいいんだ……。例えば、同じ学校に通ってしまえば、何の問題も無く毎日会える……)
『同じ学校』と考えただけで、胸の奥でトクっと心臓が高鳴った。
(初めは逃げられるかもしれない。でも、誠心誠意接していれば、きっとあの方なら側にいることを許してくれるはずだ)
自分の進む道が決まった瞬間だった。まるで雲間から光が射してきたような気分だった。方向が決まれば、後は実行に移せばいいだけだ。
(和真さん! 待っていてくださいね!)
汐音は嬉々として、すぐさま携帯電話を取り出した。先ほどまで沈んでいた瞳をキラキラと輝かせながら和真が通う学校を検索する。すぐに学校は突き止めることが出来た。
だが、超難関校だと判明し、顔を引き攣らせる。難関なのは偏差値だけでは無い。セレブ達が通う学校でもあったからだ。
「前途多難だ。……さすが、フィーリア様の魂をお持ちだけはある。なんてハイレベルなんだ」
フィーリアは第三王女だったのだ。地方の、それも下級貴族の家系に生まれた汐音の前世だったルークが彼女の側に侍るために必死で剣術を磨き、剣術大会で優勝して王女の護衛になれた時の事が思い出された。
「私の想いを試しておいでなのだろうか? ……そんな事はどうでもいい。努力すれば良いだけだ。あの方と同じ空の下で生きていられるのだから、何だってできる。何だってしてやる!」
その日の内に汐音は両親に私立白羽学院高等部に行きたいと告げた。来年の春から祖母が一人で暮らすフランスへ家族で渡るつもりだった父と母は非常に驚き、頼る人がいない日本に一人で残る事を猛反対されてしまった。
だが、汐音の意志が固いと分かると、特待生になれたら日本に残って良いと条件を出された。汐音はその条件をのんだ。汐音は寝食を削って試験勉強に挑み、見事主席で合格してみせたのだった。
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