生まれる前から好きでした。

文字の大きさ
81 / 85

番外編 4

 三峰汐音は動き出した電車の扉に左肩を預け、窓の外へ目を向けていた。夕暮れに染まる街の景色が飛ぶように背後へ流れ去っていく。
 しかし、頭の中はやっと巡り会えたフィーリアの魂を持つ相澤和真のことでいっぱいだった。真っ直ぐで艶やかな黒髪に、吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳が、今もなお汐音の脳裏に焼きついている。彼の姿を思い出すだけで鼓動が速くなるほどだ。
 汐音はルークとして生を受けてから気が遠くなるような時を越えて、もう一度敬愛するフィーリア王女に会いたいと願い続けてきた。
 その願いは叶った。叶ったのだ。

『もう苦しまなくていいんだよ。おまえは自由だ。これからは自分の幸せを探せ。汐音』

 耳の奥で和真の声が響く。
 胸にギュッと掴まれたような痛みが走った。彼から離れて行くだけで、その距離に連動するように胸がどんどん苦しくなっている。

(これからどうすればいいんだろう……)

 がむしゃらにフィーリアの魂だけを追っていた時には考えられなかった事だった。

(まるで突然何も無い場所にたった一人で放り出されたような気分だ)

 別れる前に、もう一度会って欲しいと頼んでみたが、『もう過去には囚われるな』と、最後まで頭を縦に振ってもらえなかった。
 それでも駅の改札口まで見送ってくれたのは、和真という人の人柄の良さからだろう。 
 しかし、頑なに住所も通っている学校の名前さえ教えてもらえなかった。それは汐音にはもう会わないとの意思表示だ。

「はあ~」

 苦しげに眉間に皺を寄せながら額を冷たい窓ガラスに押し付ける。

(和真さんの学校の校章は覚えている。学校を特定する事は簡単だけど……)

 和真に会いに学校へ押しかけたとしても、恐らく会ってはもらえないように思えた。最悪の場合、ストーカー扱いされる可能性もある。会ってすぐの怯えた相澤和真の顔が思い出され、目を強く閉じる。

「……会いたい」

 思わず思いが唇から零れ落ちる。
 それが紛れも無い本心であり、今の汐音としての願いでもあった。

(拒絶されずに和真さんの側に居る方法を考えればいいんだ……。例えば、同じ学校に通ってしまえば、何の問題も無く毎日会える……)

『同じ学校』と考えただけで、胸の奥でトクっと心臓が高鳴った。

(初めは逃げられるかもしれない。でも、誠心誠意接していれば、きっとあの方なら側にいることを許してくれるはずだ)

 自分の進む道が決まった瞬間だった。まるで雲間から光が射してきたような気分だった。方向が決まれば、後は実行に移せばいいだけだ。

(和真さん! 待っていてくださいね!)

 汐音は嬉々として、すぐさま携帯電話を取り出した。先ほどまで沈んでいた瞳をキラキラと輝かせながら和真が通う学校を検索する。すぐに学校は突き止めることが出来た。
 だが、超難関校だと判明し、顔を引き攣らせる。難関なのは偏差値だけでは無い。セレブ達が通う学校でもあったからだ。

「前途多難だ。……さすが、フィーリア様の魂をお持ちだけはある。なんてハイレベルなんだ」

 フィーリアは第三王女だったのだ。地方の、それも下級貴族の家系に生まれた汐音の前世だったルークが彼女の側に侍るために必死で剣術を磨き、剣術大会で優勝して王女の護衛になれた時の事が思い出された。

「私の想いを試しておいでなのだろうか? ……そんな事はどうでもいい。努力すれば良いだけだ。あの方と同じ空の下で生きていられるのだから、何だってできる。何だってしてやる!」

 その日の内に汐音は両親に私立白羽学院高等部に行きたいと告げた。来年の春から祖母が一人で暮らすフランスへ家族で渡るつもりだった父と母は非常に驚き、頼る人がいない日本に一人で残る事を猛反対されてしまった。
 だが、汐音の意志が固いと分かると、特待生になれたら日本に残って良いと条件を出された。汐音はその条件をのんだ。汐音は寝食を削って試験勉強に挑み、見事主席で合格してみせたのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。