生まれる前から好きでした。

文字の大きさ
6 / 77

6.幸せ。

しおりを挟む
 正気に戻った相澤和真は、無言で席から立ち上がった。目の前でニコニコと笑みを浮かべながら立っている新入生の手首をつかむと、ざわつく教室から半ば強引に連れ出す。
 途中、何事かと訝るいぶかる廊下にいた生徒達の視線にさらされ、居心地の悪さから無意識にどんどん歩く速度は速くなっていく。その間も、三峰汐音は手を振り払いもせずに大人しくついて来ていた。
 和真が汐音を連れて来たのは、屋上へと続く階段の踊り場だ。屋上の扉にはいつも鍵が掛かっていて、誰も来ることは無い。同じ校内だというのに喧騒が遠くに感じられ、和真が図書室の次に気に入っている場所の一つだった。

「どういうことだ? 何でここ白羽学園の制服を着ている?」

 掴んでいた手首を離し、振り向きざま問いただす。その勢いに驚いたのか、汐音は目を瞬かせた。
 だが、すぐににっこりと微笑みを浮かべる。

「少しでも近くに来たくて、貴方の側に居たくて、この学校を受けました」
「おれの側に居たいから受けただと?」

(難関校の受験の理由が、おれ?)

 全く理解できず、馬鹿のように汐音の言葉を繰り返す。

「はい! 晴れて、今日からここの生徒です。相澤先輩と同じ学校に通う為に、俺、すっごく頑張ったんです! 褒めてください!」

 汐音はとても嬉しそうに声を弾ませる。その姿は、まるで褒美をねだる大型犬のようだった。汐音の背後に激しく揺れる尻尾の幻覚が見える。

(こんなに明るい奴だったのか?)

 今目の前にいる汐音は、眩しいとさえ感じさせるほどキラキラと輝いていた。初めて出会った時に感じた暗い陰のようなものが綺麗に払拭されている。

「生徒……」

 動揺が収まらない和真に対し、汐音はただただ喜びを爆発させている。

「はい。白羽学園1年三峰汐音です。相澤先輩! これから宜しくお願いします!」

 教室でしたのと同じように、ビシッと両手を体の横に付けた。真っ直ぐな姿勢で声高々に告げ、90度の角度で頭を下げる。まるで軍人のようなキレッキレッのお辞儀だった。頭を下げている汐音の柔らかそうな髪を呆然と見下ろす。

「これからは、ずっと側にいられます!」

 そう言って嬉しそうにズイッと身を寄せてきた汐音は、驚くことに記憶にあった姿よりかなり背が伸びていた。それも和真の背をすでに超えている。

「これから? どうして、そうなる? おれは言ったよな? これからは、を探せって!」

 抜かれた身長差を無くすかのような勢いでつま先立ちになり、和真は語気を強めた。
 しかし、勢いが強すぎてバランスを崩す。無様に体が傾いていくのが分かった。

(あっ! やば……い──)

 地面にぶつかる事を覚悟した瞬間、汐音の腕が和真の体を抱き留めた。同じ男であるからこそ、その腕の逞しさに驚く。反射的に顔を上げ、瞬時に頭の中が真っ白になる。ぶつかりそうな位置に澄んだ瞳があったからだ。吸い込まれそうなほど綺麗な目に驚いた顔の和真が映っている。
 
「……だからですよ。は、あなたの側にいることだ」

 纏う雰囲気がガラリと変わっていた。笑みを消した汐音が、和真を軽々と腕に抱き留めたまま真摯しんしな声で告げる。その瞳の奥には、以前には無かった光が灯っていた。和真はその光に囚われたかのように、目が離せなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

処理中です...