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25. 不器用。
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高級感漂うブティックに、相澤和真と三峰汐音はいた。二人とも、上質のスーツを着て大きな鏡の前に立たされている。
「いいわね。気に入ったわ」
汐音のネクタイを整え満足そうに微笑んだのは、年齢不詳の美しい女だった。艶やかな長い黒髪をかき上げながら汐音から少し離れ、全身を眺める。
「ねえ、私のブランドの専属モデルにならない?」
細い腰に手を当て、不適な笑みを浮かべているのは、和真の母の相澤梨紗だ。どうやら気に入ったのは、服ではなく汐音自身だったようだ。
「有難いお誘いですが、お断りいたします」
汐音は爽やかな笑みを浮かべて梨紗の誘いをやんわりと断った。いつもこの調子で女達の誘いも断っている。有難いと口では言っているが、本当にそう思っているかどうかも不明だ。
一方の梨紗は、誘いを断わられたことなど今までになかったのだろう、僅かに瞠目している。
「……あら、若い時はどんなチャンスも掴みにいくものよ。チャンスの神様は前髪しかないんだから」
「見たのかよ。っていうか、前髪しかないって……」
『どんな髪型だよ』とボヤキながら和真は窮屈そうにネクタイを緩める。不機嫌な事を隠そうともしない和真へ梨紗は視線を向けた。
「……ヨーロッパのことわざよ。チャンスは通り過ぎてから掴もうとしても、掴めないって事」
「なるほど……」
妙に納得しているのは汐音だった。
「気が変わったら、いつでも連絡をくれたらいいわ」
再び汐音に視線を戻した梨紗は、自分の名刺を強引に持たせる。
「ありがとうございます」
意外な事に、汐音は梨紗の名刺を素直に受け取っていた。
「君は何を着ても見栄えがするけれど、このスーツが一番似合っているわね。ネクタイもこれでいいわ」
「本当に良いスーツですね。ですが、僕には高価すぎます」
「あら、心配しないで、君が着ている物全部をプレゼントするわ。さっきからずっと不貞腐れている愚息に付き添ってパーティーに行ってくれるのだもの」
「貰っておけよ」
和真の声に、汐音が顔を向ける。
「……おまえに、似合ってる」
それだけ言うと、和真は汐音に背を向け、店内の隅に置かれている椅子に腰を下ろした。汐音は微笑む。
「では、お言葉に甘えて、有難く頂戴いたします。ありがとうございます」
汐音は梨紗に向き直り、深々と頭を下げた。あれほど不敵にさえ見えていた梨紗の表情が打って変わって神妙なものに変わる。
「……和真をお願いね」
その声は小さく汐音にしか聞こえない。汐音が顔を上げた。綺麗にアイラインで縁取られた目が薄茶色の瞳をまっすぐに見つめていた。
「何があっても和真さんのお側におります」
汐音は誓うように梨紗に告げる。梨紗は頷くと、自分の息子のところへと向かった。すでに彼女の表情は元の自信に満ちたものに戻っていた。
「和真。あなたの服は自分で払いなさい」
「はあ? 何でだよ」
「領収書を宮田さんに送れば後でお金は振り込んでくれるでしょ? 必要経費よ」
宮田とは、真宮蓮の秘書の一人だ。蓮と和真との間での連絡係兼、お目付け役だった。
「この店へ強引に連れて来たのは誰だ? これって押し売りじゃないか」
「私が作った服以上にいい服を用意できるのね?」
「……」
ふんと鼻で笑う梨紗の姿を見て、汐音は目を細めた。
「本当に、不器用な方だ」
言い合う和真と梨紗の姿を少し離れた場所で見守りながら汐音は呟いた。
「いいわね。気に入ったわ」
汐音のネクタイを整え満足そうに微笑んだのは、年齢不詳の美しい女だった。艶やかな長い黒髪をかき上げながら汐音から少し離れ、全身を眺める。
「ねえ、私のブランドの専属モデルにならない?」
細い腰に手を当て、不適な笑みを浮かべているのは、和真の母の相澤梨紗だ。どうやら気に入ったのは、服ではなく汐音自身だったようだ。
「有難いお誘いですが、お断りいたします」
汐音は爽やかな笑みを浮かべて梨紗の誘いをやんわりと断った。いつもこの調子で女達の誘いも断っている。有難いと口では言っているが、本当にそう思っているかどうかも不明だ。
一方の梨紗は、誘いを断わられたことなど今までになかったのだろう、僅かに瞠目している。
「……あら、若い時はどんなチャンスも掴みにいくものよ。チャンスの神様は前髪しかないんだから」
「見たのかよ。っていうか、前髪しかないって……」
『どんな髪型だよ』とボヤキながら和真は窮屈そうにネクタイを緩める。不機嫌な事を隠そうともしない和真へ梨紗は視線を向けた。
「……ヨーロッパのことわざよ。チャンスは通り過ぎてから掴もうとしても、掴めないって事」
「なるほど……」
妙に納得しているのは汐音だった。
「気が変わったら、いつでも連絡をくれたらいいわ」
再び汐音に視線を戻した梨紗は、自分の名刺を強引に持たせる。
「ありがとうございます」
意外な事に、汐音は梨紗の名刺を素直に受け取っていた。
「君は何を着ても見栄えがするけれど、このスーツが一番似合っているわね。ネクタイもこれでいいわ」
「本当に良いスーツですね。ですが、僕には高価すぎます」
「あら、心配しないで、君が着ている物全部をプレゼントするわ。さっきからずっと不貞腐れている愚息に付き添ってパーティーに行ってくれるのだもの」
「貰っておけよ」
和真の声に、汐音が顔を向ける。
「……おまえに、似合ってる」
それだけ言うと、和真は汐音に背を向け、店内の隅に置かれている椅子に腰を下ろした。汐音は微笑む。
「では、お言葉に甘えて、有難く頂戴いたします。ありがとうございます」
汐音は梨紗に向き直り、深々と頭を下げた。あれほど不敵にさえ見えていた梨紗の表情が打って変わって神妙なものに変わる。
「……和真をお願いね」
その声は小さく汐音にしか聞こえない。汐音が顔を上げた。綺麗にアイラインで縁取られた目が薄茶色の瞳をまっすぐに見つめていた。
「何があっても和真さんのお側におります」
汐音は誓うように梨紗に告げる。梨紗は頷くと、自分の息子のところへと向かった。すでに彼女の表情は元の自信に満ちたものに戻っていた。
「和真。あなたの服は自分で払いなさい」
「はあ? 何でだよ」
「領収書を宮田さんに送れば後でお金は振り込んでくれるでしょ? 必要経費よ」
宮田とは、真宮蓮の秘書の一人だ。蓮と和真との間での連絡係兼、お目付け役だった。
「この店へ強引に連れて来たのは誰だ? これって押し売りじゃないか」
「私が作った服以上にいい服を用意できるのね?」
「……」
ふんと鼻で笑う梨紗の姿を見て、汐音は目を細めた。
「本当に、不器用な方だ」
言い合う和真と梨紗の姿を少し離れた場所で見守りながら汐音は呟いた。
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