40 / 79
40.口づけ。
しおりを挟む
どこだか分からない病室で、相澤和真は三峰汐音と至近距離で見つめ合っていた。
『キスをさせてください』
和真の聞き間違えでなければ、汐音はそう言った。普段なら『ふざけるな』と瞬時に一蹴できたはずだ。
しかし、親友の福井奏に強引にキスをされて今に至っている和真には、一蹴出来る余裕などなかった。
「え? ええ⁈ そ、それって、何……」
動揺しまくりながら和真はもごもごと口籠る。
対して汐音は熱を帯びた瞳はそのままに、今にも触れてしまいそうな距離からじっと見つめている。
「口づけの事です」
汐音は冷静さを失わない声で静かにそう説明した。
「キスの意味ぐらい知ってるわっ!」
瞬時に顔を真っ赤にして和真は叫んだ。
感情を出せたせいなのか、いつもの自分を取り戻せた和真は、少し落ち着きを取り戻す。
だが汐音の方か、どこか思い詰めた表情を変える事なく、さらに顔を寄せて来た。
「そうですか。では、キスをしてもいいんですよね?」
「いいわけあるか! ふざけるな! それに、さっきから近い! どけっ!」
和真は必死になって汐音を押しのけようとしたのだが、びくともしない。
突然、和真をギョッとする。突然、汐音がとても苦しそうに顔を歪めたのだ。
「ふざけてなんかいません! ……あの人とはキスをしたのでしょう?」
「! ……お、おまえ、……扉の外で、聞いていたのか?」
声が震える。和真は顔を蒼ざめさせた。先ほどまで退かせようとしていた手が、無意識に汐音の服をきつく握りしめる。まるで汐音を引き留めようとしているかのように。
(知られた! 汐音に奏とキスした事を知られてしまった!)
「聞こえてきたんです。あの男は私が扉の外に居る事を知っていたので、私に聞かせたかったのでしょう」
汐音は皮肉を込めた笑みを浮かべた。和真は頭の中が真っ白になる。
「……どこから聞いていた?」
「全てです。ずっと部屋の前におりましたから」
(すべて……⁈ じゃあ、おれが汐音の事を好きだと言っていた事も聞いていたのか?)
「うわああああっ!」
羞恥のせいでパニックになる。頭を抱え叫んだ。汐音が宥めるように両肩を掴んでくる。
「和真さん! そんなに動いたらダメです‼ 点滴の針が抜けてしまいます!」
和真は汐音から少しでも隠れようと両手で自分の顔を覆った。
「ううっ……」
恥ずかし過ぎて和真は喉の奥を震わせる。
「和真さん? 大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない」
「ええ!? 医者を呼びましょうか?!」
「呼ぶな! 呼ばなくていい! ……大丈夫じゃないのは、おまえにだ!」
「ええ? どういう意味ですか?」
「…………おれが、おまえの事を、……その、ど、どう思っているのかも、しっかり聞いていたんだよな?」
恐る恐る訊ねながら、指の隙間から汐音の様子を伺う。
汐音は体全体から光を放つように微笑んでいた。
「はい! 天にも昇るほどの気持ちを噛みしめておりました。私も和真さんの事が好きです! 大好きです! ずっと心からお慕いしております」
再び抱きついてきた汐音の体を抱き留め、和真はため息交じりの吐息を漏らした。
(聞かれてしまったのなら仕方がない)
和真の肩口に顔を埋め甘える汐音の頭を撫でながらふと気づく。
(……これって、もしかして……両想いって事なんじゃないのか?)
「和真さん」
突然、汐音が顔を上げ、上目使いで見上げて来た。
その眼差しにドキッと鼓動が大きく鳴る。
(高校生のくせに、この色気はどういうことだ?)
「な、何だ?」
「お願いです。貴方の存在を、息吹を、私にも感じさせてください。貴方が生きているのだと実感させてください」
切なげに嘆願され、和真はたじろいだ。『生きているのだと実感させて』と汐音に言われてしまうと、和真は強く断る事が出来ない。
「くっ!」
和真は意を決すると、汐音の見惚れるほど甘く整った顔を両手で挟んだ。汐音が少し潤んだ目を大きく見開く。その形の良い唇に、和真は自分のそれを強引にお押し付け、目を閉じた。
「!」
一瞬、まるで電流が走ったように、見た目はほっそりとしている汐音の屈強な体がビクッっと揺れたのが、触れている掌から伝わってきた。汐音の唇は柔らかく、少しヒンヤリとしていて、熱のある和真にとってはずっと触れていたくなるほどだった。
「……ど、どうだ! これでおれが生きていると感じられたか?」
唇を離すとと同時に汐音の顔から手も離し、照れ隠しに傲慢に訊ねる。目の前には、どこか惚けたような間抜けな顔があった。
(間の抜けた顔でも不細工にならないってどういうことだ……?)
思わずクスっと笑ってしまう。
(ああ、おれの汐音はどんな姿でも可愛いな)
和真は心の中で呟いたのだった。
『キスをさせてください』
和真の聞き間違えでなければ、汐音はそう言った。普段なら『ふざけるな』と瞬時に一蹴できたはずだ。
しかし、親友の福井奏に強引にキスをされて今に至っている和真には、一蹴出来る余裕などなかった。
「え? ええ⁈ そ、それって、何……」
動揺しまくりながら和真はもごもごと口籠る。
対して汐音は熱を帯びた瞳はそのままに、今にも触れてしまいそうな距離からじっと見つめている。
「口づけの事です」
汐音は冷静さを失わない声で静かにそう説明した。
「キスの意味ぐらい知ってるわっ!」
瞬時に顔を真っ赤にして和真は叫んだ。
感情を出せたせいなのか、いつもの自分を取り戻せた和真は、少し落ち着きを取り戻す。
だが汐音の方か、どこか思い詰めた表情を変える事なく、さらに顔を寄せて来た。
「そうですか。では、キスをしてもいいんですよね?」
「いいわけあるか! ふざけるな! それに、さっきから近い! どけっ!」
和真は必死になって汐音を押しのけようとしたのだが、びくともしない。
突然、和真をギョッとする。突然、汐音がとても苦しそうに顔を歪めたのだ。
「ふざけてなんかいません! ……あの人とはキスをしたのでしょう?」
「! ……お、おまえ、……扉の外で、聞いていたのか?」
声が震える。和真は顔を蒼ざめさせた。先ほどまで退かせようとしていた手が、無意識に汐音の服をきつく握りしめる。まるで汐音を引き留めようとしているかのように。
(知られた! 汐音に奏とキスした事を知られてしまった!)
「聞こえてきたんです。あの男は私が扉の外に居る事を知っていたので、私に聞かせたかったのでしょう」
汐音は皮肉を込めた笑みを浮かべた。和真は頭の中が真っ白になる。
「……どこから聞いていた?」
「全てです。ずっと部屋の前におりましたから」
(すべて……⁈ じゃあ、おれが汐音の事を好きだと言っていた事も聞いていたのか?)
「うわああああっ!」
羞恥のせいでパニックになる。頭を抱え叫んだ。汐音が宥めるように両肩を掴んでくる。
「和真さん! そんなに動いたらダメです‼ 点滴の針が抜けてしまいます!」
和真は汐音から少しでも隠れようと両手で自分の顔を覆った。
「ううっ……」
恥ずかし過ぎて和真は喉の奥を震わせる。
「和真さん? 大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない」
「ええ!? 医者を呼びましょうか?!」
「呼ぶな! 呼ばなくていい! ……大丈夫じゃないのは、おまえにだ!」
「ええ? どういう意味ですか?」
「…………おれが、おまえの事を、……その、ど、どう思っているのかも、しっかり聞いていたんだよな?」
恐る恐る訊ねながら、指の隙間から汐音の様子を伺う。
汐音は体全体から光を放つように微笑んでいた。
「はい! 天にも昇るほどの気持ちを噛みしめておりました。私も和真さんの事が好きです! 大好きです! ずっと心からお慕いしております」
再び抱きついてきた汐音の体を抱き留め、和真はため息交じりの吐息を漏らした。
(聞かれてしまったのなら仕方がない)
和真の肩口に顔を埋め甘える汐音の頭を撫でながらふと気づく。
(……これって、もしかして……両想いって事なんじゃないのか?)
「和真さん」
突然、汐音が顔を上げ、上目使いで見上げて来た。
その眼差しにドキッと鼓動が大きく鳴る。
(高校生のくせに、この色気はどういうことだ?)
「な、何だ?」
「お願いです。貴方の存在を、息吹を、私にも感じさせてください。貴方が生きているのだと実感させてください」
切なげに嘆願され、和真はたじろいだ。『生きているのだと実感させて』と汐音に言われてしまうと、和真は強く断る事が出来ない。
「くっ!」
和真は意を決すると、汐音の見惚れるほど甘く整った顔を両手で挟んだ。汐音が少し潤んだ目を大きく見開く。その形の良い唇に、和真は自分のそれを強引にお押し付け、目を閉じた。
「!」
一瞬、まるで電流が走ったように、見た目はほっそりとしている汐音の屈強な体がビクッっと揺れたのが、触れている掌から伝わってきた。汐音の唇は柔らかく、少しヒンヤリとしていて、熱のある和真にとってはずっと触れていたくなるほどだった。
「……ど、どうだ! これでおれが生きていると感じられたか?」
唇を離すとと同時に汐音の顔から手も離し、照れ隠しに傲慢に訊ねる。目の前には、どこか惚けたような間抜けな顔があった。
(間の抜けた顔でも不細工にならないってどういうことだ……?)
思わずクスっと笑ってしまう。
(ああ、おれの汐音はどんな姿でも可愛いな)
和真は心の中で呟いたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
届かない「ただいま」
AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。
「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。
これは「優しさが奪った日常」の物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
初恋ミントラヴァーズ
卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。
飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。
ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。
眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。
知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。
藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。
でも想いは勝手に加速して……。
彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。
果たしてふたりは、恋人になれるのか――?
/金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/
じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。
集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。
◆毎日2回更新。11時と20時◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる