生まれる前から好きでした。

文字の大きさ
39 / 77

39.生きてる。

しおりを挟む
 病室には相澤和真と三峰汐音の二人が取り残された。
 途端、汐音の雰囲気がガラリと変わった。先ほどまで、優等生らしく静かなたたずまいを見せていたが、今はまるで弾ける寸前のパンパンに膨れ上がった風船のような危うさを感じる。感情を押し殺したように無言のまま、ただ和真だけをじっと見つめてくる。息が詰まりそうな沈黙が流れていく。

「たひゅ、……助けてくれたのは、汐音だったんだな。ありがとう」

 んだ。
 痛みと沈黙に耐えきれなかったからかもしれない。和真は赤面しながらも引きつった笑みを浮かべて感謝の気持ちを伝える。
 いつもなら直ぐに何か反応を見せるのに、汐音は何も言わない。奏が先程まで座っていた椅子に静かに腰を下ろす。

(おいおい、何か言ってくれよ~。買ったばかりのバイクの自慢でもいいからさ。居たたまれないじゃないか……)

 和真の願いも虚しく、二人っきりになってから汐音は一言も言葉を発していない。まるで何かに耐える様に、ただ膝の上に置いた手を強く握りしめてる。

(……もしかして、何か怒ってる?)
 
 かなりの間、黙り込んでいた汐音が唐突に口を開いた。

「私が居ないところで、勝手に死にかけないでください」

 汐音の強い眼差しに射抜かれ、一瞬、息が止まる。

(おれは、汐音の今だに癒えていない傷をえぐるような事をしてしまったのか……)

「あなたに何かあれば、私は……」

 汐音は言葉を切った。まだ言いたいことはあったはずなのに口をつぐんでしまった。
 汐音の中で膨れ上がっていたものが、一気に萎んでいく。
 いつのまにか目の前にいる汐音の姿は、とても頼りなげに見えた。項垂れる様子は、まるで雨に打たれながら震えている小さな子犬のようだ。

「汐音」

 名前を呼べば、汐音が顔を上げた。
 その顔は血の気が無く、汐音の方がよほど病人のように見える。

(フィーリアが処刑された時の事を思い出していたのか?)

 和真は動かせる方の手を伸ばし、汐音の手を掴んだ。
 驚いた汐音がビクっと体を揺らす。その手はヒンヤリとして冷たい。

「和真さん! かなり熱が高いです!!」

 突然、オロオロと狼狽えだした汐音の姿に胸がつまる。汐音はいつも自分の事は二の次で、和真の事を最優先に考えるところがあった。
 和真は掴んでいる汐音の手をそのまま強引に自分の胸の上に置く。

「!」

 汐音が動きを止めた。身を固くし、大きく目を見開いている。

「……おれの心臓は元気に動いているだろ?」

 優しく問えば、汐音が神妙な面持ちで頷く。

「おれは、ちゃんと生きてる。汐音。おまえが救ってくれたんだ。ありがとう」

 突然、感極まった様子で、汐音が覆い被さる様に抱きついてきた。

「おい! 汐音?」

 和真の肩に顔を埋めている汐音が泣いているのかと心配になり名前を呼ぶ。すると、汐音の腕の力がさらに強くなった。

「ごめんな、汐音。心配させたよな」

 しがみ付いている自分より広い背を、まるで幼子でもあやす様にポンポンと軽く叩く。しばらくして顔を上げた汐音が至近距離から和真の目を覗き込んできた。その瞳に愁いはなく、いつのまにか熱を帯びていた。

「……もっと、あなたが生きておられる事を感じさせてください」
「え? それは、どういう……」
「キスをさせてください」

 意味を尋ねようとした和真の声を汐音の爆弾発言が遮った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

処理中です...