横断歩道の先は異世界でした

金柑乃実

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3.横田タクミ編③

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うんざり。

まさかその言葉を使う日がくるとは。

自慢でもなんでもない。

憧れた時もあった。

しかし、こんなにも疲れるとは。

「きゃあああっ!」

「横田さんよ!」

「ちょっと見えないじゃない!そこどいて!」

本当にここは白櫻学園かと疑いたくなる。

ここに通う女子生徒はお嬢様だったはずだ。

怖すぎる。

そう感じた。

どこにでも付きまとわれるのが面倒で、女子の大群から逃げて、屋上に来た。

「楽しそうね」

「……っ」

タクミが息が止まるかと思った。

屋上に、東郷紗奈がいたから。

「な、なに、してる……ん、ですか?」

一応彼女はこの世界の実力者だ。

この世界の貴族。

そしてタクミは、なぜか白櫻学園の生徒になっているとはいえ、彼女の下につく人間。

だから、リンやユイと違って、敬語を選んだ。

「あなたがここに来ると思って」

紗奈はそう微笑んだ。

「ねぇ、そろそろ女の子たちに追いかけられるのは、飽きてきたんじゃない?」

「……」

なぜわかるのだろう、という言葉は飲み込む。

「ふふっ、記憶をなくしても、嘘を吐けない性格は健在のようね」

バレていた。

東郷紗奈はゆっくりとタクミに近づく。

「あの子たちに追いかけられない方法、わたしは知ってるわ」

「お、教えて、ください」

「簡単よ」

彼女は意地の悪い笑みを浮かべて、タクミの腕に巻き付いた。

「な……っ!」

絶句するタクミに、彼女はなおも笑みを向ける。

「わたしの婚約者になればいいのよ」

「は?!」

驚くタクミをおいて、彼女は続ける。

「それを公表すれば、誰もあなたには近づけない。リンやユイさえもね」

確かに、2人がそばにいる時は、他の女の子たちは遠目に見ているだけ。

彼女たちも実力者なのだろう。

ただし、その2人をも黙らせる彼女は、けたが違う。

タクミは考えた。

そもそも、理事長の娘と恋愛できるものなのだろうか。

そう考えて、諦める。

そういえば、ゲームの選択肢には東郷紗奈の名前もあった。

「紗奈」

低い男の声がした。

「……残念ね、邪魔が入ったみたい」

彼女が離れていった。

「紗奈、何をしている?」

「何もしてないわ、和馬かずま。行きましょう」

誰だ?

タクミは首をかしげる。

残念ながら東郷紗奈ルートに入ったことはなく、この男のことも知らない。

「ふははっ!おもしれぇことになってんな!」

東郷紗奈が去った後、また男の声がした。

上を見上げると、屋上のさらに高くなっているところから、男が顔をのぞかせていた。

「悪いけど、全部聞かせてもらった。まさか紗奈様のタイプがお前だったとは……。くくっ、腹いてぇ」

ケラケラと笑う彼に、タクミは眉を寄せる。

あまりいい気分はしない。

「あなた、誰ですか?」

「……よっと」

男が飛び降りてきた。

その制服から、この学園の生徒のようだ。

北仲きたなか亮平りょうへい。よろしくな!」

「……よろしく」

なんとなく警戒しながら握手をする。

「お前、嫌なやつに目をつけられたな」

「は?」

「……英雄サマが記憶喪失という噂は、どうやらマジらしいな」

記憶喪失ではないが、否定はしないでおく。

「いいか?希少能力が使えるお前は、英雄サマ。そしてこの学園には、お前の他にあと2人、英雄サマがいるんだ」

2人?

タクミは首をかしげる。

1人はわかる。

あそこまで周りから畏れられるくらいだ。

東郷紗奈が、そうなのだろう。

あと1人は……思い当たる人物がいない。

「まぁ、1人はご存知、紗奈様な。あの方だけは別格」

「超能力が強いってことか?」

「それもあるけど、複数の希少能力を扱えるからな。紗奈様が唯一使えない希少能力が、”転生能力”。お前が持ってるやつだ」

なるほど、と納得できた。

だからタクミは、この学園でまるで神様のように祀り上げられているわけだ。

「で、もう1人の英雄サマが、さっき紗奈様のそばにいた男、澤山さわやま和馬かずま様。紗奈様の婚約者だ」

「……っ?!」

息が止まるかと思った。

いや、一瞬止まったのかもしれない。

「いくら温和な和馬様も、婚約者のああいう姿を見せられれば、黙ってはいないだろうな」

楽しそうに笑う亮平に、タクミは心の底から怯える。

真っ青なタクミの顔を見て、亮平は慌てた。

「え、本気にした?嘘!嘘だから!」

「え……うそ……?」

亮平は慌てた様子で続ける。

「あぁ!和馬様は紗奈様の婚約者といっても、東郷家の方が澤山家よりも格段に上だ。和馬様も、紗奈様の指示なしで動くことは滅多にねぇよ!それに……」

濁すように言葉に詰まる亮平に、

「それに?」

とタクミが詰め寄る。

「……これはオレの推測だが、いくら和馬様でも、お前に手出しはできねぇと思う」

「?」

タクミは再び首を傾げた。

「お前は、今までずっと放置されていた。紗奈様が使えないものを持っているから、幹部に接触されても、幹部たちが困るからな」

「幹部?」

また知らない言葉が出てきて、タクミはそれが指す言葉を聞く。

「いいから聞け」

しかしその説明は後回しにされた。

「お前の記憶喪失の噂が流れ始めた頃から、幹部たちがお前につきまとうようになった。長谷川リンや星川ユイだな」

「その2人が幹部だったのか?!」

驚いたが、確かに頷ける場面はいくつもあった。

「あぁ。長谷川リンと星川ユイ、あと紗奈様も秘書と紗奈様と和馬様。この5人が白櫻学園の幹部だ」

納得の面々に、タクミは言葉を失う。

「んで、なぜ幹部の2人がお前のそばにいるのか……。想像は難しくない。おそらく……」

この学園の、トップの指示。

そう考えるのが自然だった。

そのトップを意味するのが、東郷紗奈なのか、それよりももっと上なのかはわからない。

どちらにしても、なんらかの力が働いていることはわかった。

「まぁ、今はここまでだな。あまり余計なことを話すと、オレが殺されそうだ」

「まさか。冗談だよな?」

「いや。お前は記憶がなくて忘れてるのかもしれないが、この世界では珍しくないぜ」

恐ろしい世界だ。

これは、もっと味方をつけたほうがいい。

そう判断したタクミは、

「北仲亮平、くん、だったよな?」

「そうだけど?」

「頼む!もっと教えてくれ!」

と亮平にすがることにした。

「……は?」

当然亮平は唖然とする。

「実は、……俺は記憶がないわけじゃないんだ!もともと別の世界にいた。なぜか、突然つれてこられて、記憶喪失ということになった。俺が知っていることはなんでも……北仲くんの喜ぶようなものはないだろうけど、なんでも教える!だから、頼む!」

勢いよく頭を下げた。

なにかが、わかるかもしれない。

突然ここに来た理由も……。

そう思ってのことだった。

「いや、別にいいけどさ。でも、オレ、幹部でもなんでもねぇから、あんま知らねぇよ」

「それでもいいんだ。この世界のことを教えてほしい」

「じゃ、場所変えようか」

亮平はニヤリと笑った。


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