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7話ー③ 呪法
しおりを挟む――ギルド出発後――
僕らは転移魔道具を使って、目的地から少し離れた場所に到着した。
魔力と気配を慎重に隠しながら、足音を忍ばせて進む。
周囲の木々は密集し、風の音だけが静かに響く中、僕たちは超高速で進んでいく。
そして、ついに結界に触れられるほどの位置まで近づいた。
空間が微かに歪み、見えない壁がそこに存在することを感じる。
しかし、敵に気づかれた様子はない。
ルシアは注意深く結界を観察し、眉をひそめながら僕に問いかけた。
「結局結界の間近まで気付かれずに来れたわ。それに見慣れない結界……魔術や魔法の系統ではない事だけ分かるけど、これは何?」
「確かにこれは珍しいね。これは呪術と粒子操作学の複合結界だ。」
実際、異なる分野の技術を融合させることは、この世界では決して珍しいことではない。先ほど使った転移魔道具も、その一例だ。
魔術と科学を巧妙に組み合わせたこの道具は、複合的な技術を結集させ、工場で大量生産されている。
「うーむ。よく知らんけどさ。あたしは歪に感じるな……」
「俺も同感だぜ。鑑定はしてねぇが、どうもこいつは普通の結界とは違うぜ?」
経験から来る直感って凄い……!
こいつら、対して呪術師についての勉強もしてない癖に!……と僕は思った。
「この結界は誰かの侵入を制限してない。その代わりに、一度入ったものを外部に出さない設定になってるんだ。さらに言うと、呪術師と気功術師に関しては自由に出入り可能っていう条件付きだ。」
「おいおい。そんな条件付け必要あるか?もし敵の目的が侵入者の回収、捕食だとしてよ。逃がしたらその相手が減っちまうだろ。俺ならやらねぇ。」
魔術や魔法の結界なら、その意見はもっともだろう。
しかし、呪術には独自のルールが存在し、それは通常の魔術や魔法とは異なるものだ。
呪術には、魔法、魔術とは異なる法則があり、それが術の効果や運用に大きな影響を与えるのだ。
「呪術を含めた一部の系統はね。自分に不利な条件をわざと付けて、それを制限や代償とする事で、他の効果を底上げできる特性があるんだ。」
魔法や魔術に関しては、僕の知る限り、そのような特性は存在しない。
無詠唱で魔法を発動しても、詠唱して発動しても、威力に大きな差はない。
また、同じ魔法や魔術であれば、どんなに不利な状況であっても、威力や能力に変化は起きない。
これが魔法や魔術など、魔力を使用する術の基本的なルールであり、呪術とは異なる点だ。
他の系統にもそれぞれ独自のルールがあり、それが異なる特性を持っている。
こういったものの中には、事前に対策を足らなければ対処困難な事象も存在する。
「何か昔……学院で習った気もするぜ!」
「あたしもそんな気ぃする~。」
こいつら適当すぎる……よくこんなんで血みどろの冒険者生活を生き残れたな。
「でもルーク。何で呪術師と気功術使いなのかしら?」
こういう手合いの理由は極めてシンプルだ。
「圧倒的に数が少ないからだよ。天界でもほとんど使い手のいない分野だ。侵入する可能性が低い相手を出入り自由にするだけで、結界の性能が上げられるならお得だろ?」
「それって……代償とか制限って言うのかしらね……まぁいいけど」
この点こそが、呪術の強みであり、恐ろしいところでもある。
呪術は一見使いにくいが、その本質は非常に柔軟だ。
使う術の性能を100とした場合、その効果を細分化し、必要のない特性や効果を制限することで、残った性能を通常の限界を超えて引き出すことができる。
特定の不利条件を付けることで、その性能をさらに底上げすることも可能なのだ。
無駄な部分を削ぎ落とすだけで、残った部分がより凶悪なものになるのだ。
「よし。突入前に現時点の情報から、新しい作戦の大枠と僕の予想を話すよ。」
「えぇ。頼むわ!」
「おう!滾るぜ!」
「ルークっちの新作戦楽しみだわ。」
しかし彼らは重要な事を忘れかけている。
やる気に溢れるのはいいが、任務の趣旨を変える訳にはいかない。
「まず今回の任務は調査だ。」
その場にいた三人全員が「そういえば……」という顔をしたのを僕は見逃さなかった。
「だけど高確率で戦闘になる。恐らく呪術的な何かで結界外の探知の精度を0にする不利条件を設定して、その分結界内での探知の精度を底上げしている。隠密はまず見破られる。だから隠密はもう必要ない。」
「んで?他には?」
脳筋め……本当に分かってるのか!?不安しかない。
「中にいるのは恐らく呪術師だ。そして呪術師で警戒すべきは呪術ではなく呪法だ。また対象はパワードスーツにあたるものを着込んでいると僕は予想してる。」
この複合結界には科学の要素が組み込まれている。そしてこれまでの経験から、呪術は肉体の強化能力があまり高くない。したがって、彼らはその弱点を補うために外部装置を装着している可能性が高いのだ。
「呪術師の持っている呪法は魔術法則や物理法則を無視してくるものがある。呪法への抵抗力をあげる魔術は必須だ。」
「分かったわ。二人への呪法対策は私がかける。」
「理解が早くて助かるよ。」
呪法は、後天的には習得不可能であり、呪術師にとって生命線と言えるものだ。
呪術は基本的に魔術よりも汎用性が低く、使い勝手が悪い。
呪術師の強さの所以は基本的に、生まれ持った時点で魂に刻まれた呪法で決まる。故に呪術師は才能が強さの九割以上を占める。
生まれ持った呪法が使えないものであれば、魔力を鍛錬する方が強くなるのが現実なのだ。
「呪術師と戦闘になった場合、近接し続けて終始圧力をかける。エルガブリとベレスのどちらかが必ず距離を詰めてくれ。呪法は発動前に潰す。」
「っしゃ!任せろ!近接は俺達の領分だ!!」
「ボッコボコにしてやんよ!!」
本当にこの二人は脳筋だ。しかも天界では珍しい前衛特化タイプの筋肉ダルマ。
するとルシアが少し不安そうな声で語り掛けてくる。
「呪術師が近接戦闘に強かった場合はどうするの?」
今まで、呪法で身体能力を強化する類の呪法は見たことがない。
呪術師は基本的に、基礎的な呪力による身体強化と、扱いにくい呪術による身体強化しか使えない。
またこの世界では魔力と呪力など、異なる系統のエネルギーを同時に行使することは不可能だ。
「こう言いたくはないがそれはまず無い。呪術師は能力の特性上、身体性能は他系統と比べて低い。」
基本的に僕たちの体外に存在するのは、ただのエネルギー粒子であり、これを原素エーテルと呼ぶ。
大気中にはそれ以外のエネルギーも存在するが、原素エーテルの割合が圧倒的に多い。
魔術や魔法を使う者は、このエネルギーを体内に取り込む際に魔力に変質させる。
一方、呪術を使う者は呪力に変質させる。
これはどの系統の能力を使っていようと例外はない。
そして別系統のエネルギーを体内で混在させることは、魂崩壊の危険性が高く、絶対に避けるべきとされている。
「呪法と魔術の同時並行は実質不可能だ。魔術を使うとしても外付けの魔道具だけなる。相手が呪術師だと確定した瞬間に魔術対策の魔力リソースは七割方削って問題ない。」
「相変わらず博識だな!呪術師相手なんて大体力押しで勝てるから、こんなに学んでる奴いないぜ?」
「あたしも呪術師は魔術師より劣ってるってイメージはあるな。」
確かに、この二人の近距離戦闘力なら、相手が魔道具や呪符を使おうとしても発動前に叩き落とすことができるだろう。
彼らは前衛特化の戦士であり、耐久力も極めて高い。
そのため、並以上の呪術師相手でもゴリ押しで勝つことができるだろう。
しかし、それはあくまで並程度の呪術師に限った話だ。
「それは二人が今まで大した呪法、呪術練度を持つ相手に会わなかっただけだよ。本当に強力な呪法は、魔術理論はおろか世界法則さえもねじ曲げるから。」
「………」
最上位神の位にいる呪術師の呪法を初めて見た時、呪術師には呪術師ならではの強さがあると痛感した。
結局どの系統であろうと、真に強い者はその力を極め、常識を超えた驚異的な力を発揮するのだ。
そうした強者達は想像も及ばぬ手法で、条理を超越した現象を引き起こすのだ。
「よしみんな!結界内に突入する。気を抜くなよ!」
「おう!!」
「あいよ!」
「ここで私まで返事をしたら陳腐ね。」
僕らはエルガブリとベレスを先頭に結界に突入した。
その時はあんな事態になると、誰も予想はしていなかった。
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