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緑の季節
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バスは四条大橋と鴨川をすぎ、四条の駅から少し離れたバス停で僕らは降りた。
朝日が先に歩く。お茶屋を過ぎる、垣根の高い家が立ち並ぶ通りをすぎる。
朝日は黙って、石畳の道をただただ歩き続ける。
狭い小路の角を曲がろうとしたとき、足が止まった。
振り返って言った。
「やっぱり昔住んでいた家は見たくない。どうせ今はほかの人が住んでいるし」
すっかり落ち込んだ様子だ。せっかく京都まできたのに。
もっと喜んでもらえると思ったのに。
朝日は話し出した。昔の思い出、楽しいことと悲しいこと同時に思い出して、前に住んでいた家は無理だって。メンタルやられるかもって。近所でも辛くなってきたって。
おじいさんが脳梗塞で倒れて突然逝ってしまった夏休みの暑い日。おばあさんも後を追うように秋に病気で死んでしまったと。
「栄の行きたいとこある?案内するよ」
「どこでもいいけど」
お寺とかは別にいいよ。そんなに興味ないし、どこも混んでるから。
「じゃあ円山公園に行こう。ここからすぐだから」
東山界隈をぶらぶらして、お昼にうどん屋で食事をした。
出汁がきいていて美味しいきつねうどんだった。
うどんを食べたら、朝日も元気になって「やっぱ、うどんは関西のが一番」と笑った。
そのあと八坂神社の境内を抜けて、円山公園にたどり着いた。
円山公園は桜の名所なんだと教えてくれた。
池の前のベンチで一休みする。
ぼちぼち桜が咲き始めている。満開は四月はじめだろう。
「今年は桜の季節がいつもより遅いね」朝日は言った。
「冬が終わるのが遅れたから」僕はそう返した。
桜が終わったら、すぐに新緑の季節だね。
すでに新芽が息吹いている。
五月の連休にまた京都に連れてきてあげるよ。
その頃は新緑の季節になっているだろう。
季節が変われば、朝日も僕に別の感情を抱いてくれるだろうか。
恋に変わるのだろうか。
今はただの「好き」でもいいよ。
でも、いつか「愛してる」って僕に伝えてね。
それまで僕は待ってるからね。
【シーズン1 「新緑の少年」 終わり】
朝日が先に歩く。お茶屋を過ぎる、垣根の高い家が立ち並ぶ通りをすぎる。
朝日は黙って、石畳の道をただただ歩き続ける。
狭い小路の角を曲がろうとしたとき、足が止まった。
振り返って言った。
「やっぱり昔住んでいた家は見たくない。どうせ今はほかの人が住んでいるし」
すっかり落ち込んだ様子だ。せっかく京都まできたのに。
もっと喜んでもらえると思ったのに。
朝日は話し出した。昔の思い出、楽しいことと悲しいこと同時に思い出して、前に住んでいた家は無理だって。メンタルやられるかもって。近所でも辛くなってきたって。
おじいさんが脳梗塞で倒れて突然逝ってしまった夏休みの暑い日。おばあさんも後を追うように秋に病気で死んでしまったと。
「栄の行きたいとこある?案内するよ」
「どこでもいいけど」
お寺とかは別にいいよ。そんなに興味ないし、どこも混んでるから。
「じゃあ円山公園に行こう。ここからすぐだから」
東山界隈をぶらぶらして、お昼にうどん屋で食事をした。
出汁がきいていて美味しいきつねうどんだった。
うどんを食べたら、朝日も元気になって「やっぱ、うどんは関西のが一番」と笑った。
そのあと八坂神社の境内を抜けて、円山公園にたどり着いた。
円山公園は桜の名所なんだと教えてくれた。
池の前のベンチで一休みする。
ぼちぼち桜が咲き始めている。満開は四月はじめだろう。
「今年は桜の季節がいつもより遅いね」朝日は言った。
「冬が終わるのが遅れたから」僕はそう返した。
桜が終わったら、すぐに新緑の季節だね。
すでに新芽が息吹いている。
五月の連休にまた京都に連れてきてあげるよ。
その頃は新緑の季節になっているだろう。
季節が変われば、朝日も僕に別の感情を抱いてくれるだろうか。
恋に変わるのだろうか。
今はただの「好き」でもいいよ。
でも、いつか「愛してる」って僕に伝えてね。
それまで僕は待ってるからね。
【シーズン1 「新緑の少年」 終わり】
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