伯爵の料理人

アフターヌーンティー

ダレンは５月の連休にロンドンで仕事探しをしていた。

休日だけあって人手が多い。観光客も多い。

人酔いしてきて、静かなところを探して入った一軒の店。

有機栽培の野菜や健康食品を売っている店。店内はハーブティーの香りが漂っている。

イートインコーナーも併設している。

ピカデリーの自然食料店「オーガニック・パントリー」。

レジの横のクラシファイドの板に小さな張り紙があった。

手書きで書かれた求人広告に目がとまった。

「シェフ兼執事募集。月収２０００ポンド。賄い、部屋、車付き」

こんないい条件で２０００ポンドももらえるのか。
早速、履歴書を送った。

ダレンは、去年、調理学校を卒業して、ミシュランスター３星のフレンチレストランで修業をしていた。
残念なことに、EU離脱の不況のあおりをうけて今月で閉店することになった。

次の仕事場を探さないと。
しかし高級レストランで、この不況下仕事を見つけるのは難しかった。

後日、面接の日の手紙が届いた。

面接と実技テスト。実技テストは「アフターヌーンティー」

面接会場に行くとそこは大きなお屋敷だった。

門からお屋敷の玄関まで２００メートルはありそう。

建物はレンガでできたエドワード時代の古い建築。

何部屋もありそうな凄くお金持ちそうな家。

ダレンは、「うはー、とんでもないとこに来ちゃったよ」と緊張した。


携帯から到着しましたと連絡を入れると、門が自動に開いた。

長い長いお屋敷に続く道を歩き、やっと玄関にたどり着く。

お屋敷のベルを押すと、中学生ぐらいの男の子が出た。

男の子はダレンの服をみる。
「スーツじゃなくて、普段着でよかったのに」
ぶっきらぼうな背の低い黒髪の子だ。

ダレンは、２１歳になったばかりの青年だった。髪は茶色で目も茶色。どこにでもいそうな普通の容姿だった。ちょっとおっとりしていて、お兄さんタイプの身長が１８０センチのある青年だった。

書斎に通された。ドアを開ける。

品の良い青年が大きな革の椅子に座っている。

「この度は、遠い所までようこそ」

話し方で、上流階級出身だということがすぐ分かった。
まだ２０代後半だろう。でもやけに落ち着いた雰囲気の青年だった。

黒い背広を着て、ネクタイは蝶柄。金のカフスが袖からきらりと見える。
少し冷たい感じのする、パブリックスクール出身の風貌の青年。
でも物腰は年配じみていて、優雅だった。

ダレンは、にこっと笑い挨拶をした。
「ダレンです。よろしく」

短い面接だった。志望動機、過去の経歴など、聞かれただけだった。

そしてすぐに実技試験。

さっきの生意気な少年が言った。
「僕も審査員だから。テーマはアフターヌーンティー。お菓子と紅茶な。制限時間は１時間」