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在学編
第五十一話 修学旅行早々
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焔は今日も今日とで特訓に明け暮れていた。今日は戦闘訓練の日でもう当たりは暗くなり始めていた。
公園の広場ではただただ絶え間なく金属音のみが響いていた。冬馬のことがあってから焔の集中力が徐々に上がり始め、シンの特訓も一段、もう一段とレベルが上がっていった。
そして、今まではシンの剣劇についていくのに精いっぱいだった焔だったが、今では何度か自分から攻めることができるようになってきている。
それでもまだまだシンには敵わないが……
「はい。今日はここまでにしようか」
「ハー……ハー……ありがとうございました」
礼を言うと、焔は尻もちをつき寝転んだ。
「何か今日のシンさんいつもより強くなかったですか?」
「そりゃあ明日から修学旅行だからね。2泊3日もあるんだからその分今日はいつもよりちょいレベルを上げといたのさ。出血大サービスなんだからありがたく思いなよ」
「そりゃどうも」
明日から修学旅行か。行先は東京。2泊3日で、1日目は東京観光、2日目は夢の国、3日目がお台場に行って、明治神宮に行って終わり。正直言って、3日目はあんまし期待しているやつはいない。1、2日目が本命だな。3日の楽しみと言えば、帰りの電車とバスの中ぐらいかな。
「それじゃ、明日から楽しんできなよ」
「……はい!」
修学旅行当日。早朝にバス、新幹線、地下鉄を乗り継いで東京浅草雷門に到着した。1日目は、東京を自由行動した後、夜に東京スカイツリーに行って終了。
自由行動はグループで行動しなければならない。そのメンバーは……
―――「おいどこから行くよ焔!!」
「私は新宿とか行ってみたいなー!! 絹ちゃんは?」
「私は竹下通りとか行ってみたい。焔君は?」
「俺はー……そうだな。六本木とか行ってみたかな」
焔たち4人が最初の行き先を決めあぐねているところに銀次の姿が映った。そして、焔が銀次に声をかけようとした。
「よー、銀ちゃんはどこへ―――」
そんな焔をよそに銀次は風のように焔の元を横切って行った。そんな銀次の元へ3人の眼鏡をかけた同級生たちが近づく。
「銀次氏!! 次の地下鉄の到着まで後3分でござる!!」
「フッ……お前ら!! 1分1秒無駄にするな!! いざ聖地へ!!」
「……銀次氏!? そっちじゃないでござる!!」
「うそーん!!」
そんなやり取りを見て、クスっと笑ってしまう焔。
ハハッ、あいつらが一番修学旅行楽しんでんじゃないか。そうだよな。楽しまねえとな。
その後、焔たちは六本木から回り始めた。人の多さと店の多さに圧倒されつつも大いに楽しんでいた。
焔たちは細い通りを歩いているとクレープ屋が目に入り、綾香が食いついた。
「わー!! クレープ屋だ!! ちょっと寄ってっていい?」
「俺は別にいいかな。龍二は?」
「俺もまだ食いもん消化しきれてないし、両手ふさがってるからパス」
「私は行きたい」
「そんじゃ、綾香と絹子で行って来いよ。俺たちはここらの店ぶらついてるから」
「うん、そうする。行こ絹ちゃん!!」
「わかった」
はしゃぎながら焔たちの元から去り、クレープ屋の列に並ぶ綾香たちを見送る焔と龍二。
「やっぱ女子だねー」
「……だな」
楽しそうに話す綾香と絹子を遠くから少し眺めたところで、焔と龍二は近くの店を物色し始めた。5分ほどして、一度綾香たちの様子を見に行った。
「めちゃめちゃ色んなもの売ってるな焔」
「ああ、でも高いわ。流石東京さまだわ。綾香たちはもうクレープ買えたかな?」
「どうだろうな? けっこう並んでたからまだなんじゃねえか」
そんなことを駄弁りながら綾香たちがいるクレープ屋へ向かう焔たち。龍二の言うようにまだ綾香たちはクレープを買えてなかったが、少し面倒ごとに巻き込まれていた。
「おい焔、あいつらって例のあれか?」
「ああ、そうだろうな。女子高生2人に都会風のチャラ男が3人で言い寄っている。ありゃナンパだな」
「おー流石都会。ナンパなんて初めて見たな。で、どうするよ焔?」
「明らかに綾香たちは嫌そうな顔してんだ。取り敢えず、行くぞ龍二」
ひとしきり会話が終わると、焔と龍二は綾香たちの元へ向かって行った。
「ねえねえ良いだろ? ここら辺案内してあげるから俺らと一緒に行こうよ?」
「結構です。私たち他に友達が待ってるんで」
「え? その友達って女の子?」
「男です」
「えー? それなら俺たちと一緒の方が絶対楽しいよ? そんなやつらほっといて行こうよ?」
「だから結構です!!」
いつまでも諦めない男たちに綾香も絹子も困り果てているときだった。
「ちょっとあんたたちその子たち嫌がってるでしょ!!」
1人の女の子の声が男たちに降り注ぐ。声のする方に振り返るとジャージ姿の綾香たちとそう年も変わらない1人の少女の姿があった。そして、綾香と絹子の前に立ちふさがった。
「あ? 何々? 君も俺たちと一緒に遊んでくれるの?」
まだナンパ気分の男に一緒にいた2人の男は少女の顔を見て面食らっていた。
「おいおいヤバいって!! お前この子のこと知らないのかよ?」
「は? 知ってるも何もさっき初めてあったんだから知るわけ……」
途中まで言いかけて、男は他の2人と同じような表情になった。そして、恐る恐る名前を口にする。
「お、お前!! 野田茜音か!?」
その名前を口にするとここらにいた人たち全員がざわざわし出す。それもそのはず、野田茜音とは今最も注目を浴びているスーパー女子高生。容姿端麗で、空手の世界チャンピオン。
「そうよ。だからこれ以上この子たちに付きまとうようなら……ちょっと痛い目見てもらうわよ」
その鋭い眼光に3人のチャラ男たちは怯む。
「おい、止めとこうぜ。警察沙汰にでもされたら面倒だしよ」
「ああ、それに野田茜音はヤバいって。世界チャンピオンだぜ?」
引き気味の2人に対し、リーダー格の男は少々攻撃的だった。
「ハッ!! 空手のチャンピオンつったってしょせん女子高生だろ? 痛い目見るだって? ちょっと調子に乗ってるんじゃないの? 野田茜音」
そう言って、男はファイティングポーズをとる。そんな男の態度を見て、ニヤッと笑い茜音も構える。
「あなたその構えからしてボクシングかじってたでしょ?」
「ああ、今なら引き返せるぜ?」
「はあ……たまにいるのよね。ちょっと何かしらの格闘技やってたからって、自分が強いって勘違いしちゃうイタイ男」
茜音の言葉にキレた男は顔面目掛けて殴り掛かる。
「調子乗ってんじゃねえぞ!!」
だが、決着は一瞬だった。男のパンチをいとも簡単に交わした茜音は高速の突きを男の腹に打ち込んだ。先ほどまでの勢いが嘘のように男はうめき声を上げながら、お腹を抱え地面に膝をつく。
「あーあ、一発で終わっちゃうなんて情けない男」
茜音の煽るような口調に更に怒りを顔に表す男だったが、茜音を睨みつけながら2人の男に連れられた。その後、綾香と絹子は頭を下げてお礼をし、少しの間、茜音と話をしていた。
そんな様子を焔と龍二は少し遠くから眺めていた。
「あれが野田茜音か……やっぱ強いな(でも、あの男は弱すぎたな。世界の実力もっと見たかったのに)」
焔が少し残念そうな表情を見せる中、龍二は興奮を隠しきれずにいた。
「やっべー。野田茜音があんな目の前にいるなんて」
「そういや、お前野田茜音のこと好きだったよな。サインでも貰いに行くか?」
「行く行く!! 善は急げだ!! 茜音ちゃーん!!」
そう言うと、龍二は茜音のところに走って行った。そんな龍二を呆れたように笑い、焔も後を追う。
未だ綾香たちと話す茜音に龍二は巨体を揺らせながら走り寄る。
「茜音ちゃーん!!」
そう言って、近づく龍二だったが、茜音はさきほどのことがまだ頭に残っていたらしい。
「あいつらの仲間か!?」
再び構える綾香に流石の龍二もヤバいと思ったのかブレーキをかけようとするが、すでに拳は放たれていた。
「ちょ、ちょま―――」
「観念しろ!!」
そんな2人の間に閃光のように1人の少年が現れ、片方の手で龍二の腹を、もう片方の手で茜音の拳を受け止めた。
「……あぶねえな」
物静かな言いようだったが、その眼力に茜音は焔から距離を取る。そして、額には一瞬にして汗がにじみ出ていた。
(何こいつ!? 明らかにさっきのやつとは格が違う。あんな一瞬であの場に現れ、私の拳を受け止めるなんて……ここは一旦体制を整えてから!!)
「あ!! 焔、龍二」
「え? 知り合いなの?」
驚いたように綾香の方に茜音が振り返る。
「うん。さっき言ってた友達」
その言葉を聞き、茜音は大きく胸をなでおろす。
―――「さっきは本当にごめんなさい!! 友達だとは知らずに」
「いやいや、俺みたいなやつが走り寄ってきたらそりゃ警戒しますよね。それにサイン貰ったんで全然オッケーですよ」
龍二の嬉しそうな顔を見て安堵のため息をついた茜音。そして、次に焔の方に話しかける。
「君って何か格闘技とかやってるの? さっきの動き、とても素人とは見えなかったんだけど」
「格闘技……はやってないですけど、稽古はつけてもらってます」
「なるほどね(だとしても、あんな動き普通出来る?)」
未だ信じれずにいる茜音に焔は更に信じられないような一言を言う。
「でも、さっきの突きってけっこう威力抑えてたんでしょ?」
その一言に茜音は一瞬固まってしまうが、笑顔で焔に答える。
「え、ええ。流石に本気は出さないわよ」
「だよな」
焔との会話が終わり、焔たちが4人で話している間、茜音は鋭く焔の方を睨みつけていた。
(けっこう威力抑えたですって!? 確かに本領発揮とまではいかなかったけど、あの場で出せる力は全部出したつもりよ!? 本当にこいつ何者?)
未だに謎を残したまま、焔たちは別れを告げる。
「本当にありがとうございました!!」
「ありがとう」
綾香と絹子は再び頭を下げて、礼をした。
「いいのいいの。じゃ、修学旅行楽しんでね」
手を振って見送る茜音だったが、我慢ならず焔の元に走り寄る。そして、焔の肩を叩き呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って最後にあなたの名前だけ―――」
ここまで言いかけた時、茜音の後ろから怒号が聞こえてきた。
「さっきは良くもやってくれたな!! 野田茜音!!」
茜音が振り返ると、そこにはさっき茜音にやられたチャラ男がものすごい形相で茜音の顔面目掛けて殴り掛かっていた。
(ヤバッ!! 避けられない!!)
茜音は避けられないと悟り、歯を食いしばった時だった。さっきまで自分の前にいた焔がなぜか男の横に移動しており、顔に素早いパンチを入れた。すると男は声も出さずに、その場に倒れ込み気絶してしまった。
そんな焔を見て、茜音は口をあんぐりと開け、驚きの眼差しで焔を見る。その視線に気づき、焔も茜音の方に目を向ける。
「き、きみは……一体……」
驚きを隠せない茜音に焔はなぜか頭を下げる。
「すんません!! 体が勝手に動いちゃって。じゃ、俺はもう行きますね」
そう言うと、焔はその場を素早く離れる。
実は焔は勘違いをしていたのだ。
やべー。あの表情から察するに、勝手にあの人のこと倒しちゃってたの怒ってるんだな。さっき言おうとしてたことも『君は一体なんてことをしてくれたんだ』みたいな感じだよな。流石世界チャンピオン。もう次からは出しゃばらないでおこ。
焔はシン以外の強者を知らないので、世界チャンピオンはシンと同等、自分よりもはるかに強い存在だと認識しているのだ。というか、シンからそういう風に根回しされていた。
だが、実際はそんな焔の考えとは真逆のことを茜音は思っていたのだった。
「一体……何なのあいつ」
思わずつぶやく茜音だったが……
「知りたい?」
後ろから思わぬ声が聞こえてきてパッと振り返る茜音。そこには絹子がいた。
「彼は青蓮寺焔。単独でレッドアイと対峙し、見事勝利したヒーローを目指す高校2年生なのです」
言い終わると、絹子はドヤ顔でピースサインをした。
「青蓮寺……焔。レッドアイを倒した男……」
脳に刻むようにゆっくりと茜音は口に出す。
「絹ちゃーん!! 早く行くよー!!」
「わかった」
茜音の横を通り過ぎた絹子は焔たちに合流し、また焔たちは東京を散策し出した。
そんな4人に一定の距離を取り、付いてくるものが1人いた。その視線に焔たちは気付くことはなかった。
公園の広場ではただただ絶え間なく金属音のみが響いていた。冬馬のことがあってから焔の集中力が徐々に上がり始め、シンの特訓も一段、もう一段とレベルが上がっていった。
そして、今まではシンの剣劇についていくのに精いっぱいだった焔だったが、今では何度か自分から攻めることができるようになってきている。
それでもまだまだシンには敵わないが……
「はい。今日はここまでにしようか」
「ハー……ハー……ありがとうございました」
礼を言うと、焔は尻もちをつき寝転んだ。
「何か今日のシンさんいつもより強くなかったですか?」
「そりゃあ明日から修学旅行だからね。2泊3日もあるんだからその分今日はいつもよりちょいレベルを上げといたのさ。出血大サービスなんだからありがたく思いなよ」
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明日から修学旅行か。行先は東京。2泊3日で、1日目は東京観光、2日目は夢の国、3日目がお台場に行って、明治神宮に行って終わり。正直言って、3日目はあんまし期待しているやつはいない。1、2日目が本命だな。3日の楽しみと言えば、帰りの電車とバスの中ぐらいかな。
「それじゃ、明日から楽しんできなよ」
「……はい!」
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自由行動はグループで行動しなければならない。そのメンバーは……
―――「おいどこから行くよ焔!!」
「私は新宿とか行ってみたいなー!! 絹ちゃんは?」
「私は竹下通りとか行ってみたい。焔君は?」
「俺はー……そうだな。六本木とか行ってみたかな」
焔たち4人が最初の行き先を決めあぐねているところに銀次の姿が映った。そして、焔が銀次に声をかけようとした。
「よー、銀ちゃんはどこへ―――」
そんな焔をよそに銀次は風のように焔の元を横切って行った。そんな銀次の元へ3人の眼鏡をかけた同級生たちが近づく。
「銀次氏!! 次の地下鉄の到着まで後3分でござる!!」
「フッ……お前ら!! 1分1秒無駄にするな!! いざ聖地へ!!」
「……銀次氏!? そっちじゃないでござる!!」
「うそーん!!」
そんなやり取りを見て、クスっと笑ってしまう焔。
ハハッ、あいつらが一番修学旅行楽しんでんじゃないか。そうだよな。楽しまねえとな。
その後、焔たちは六本木から回り始めた。人の多さと店の多さに圧倒されつつも大いに楽しんでいた。
焔たちは細い通りを歩いているとクレープ屋が目に入り、綾香が食いついた。
「わー!! クレープ屋だ!! ちょっと寄ってっていい?」
「俺は別にいいかな。龍二は?」
「俺もまだ食いもん消化しきれてないし、両手ふさがってるからパス」
「私は行きたい」
「そんじゃ、綾香と絹子で行って来いよ。俺たちはここらの店ぶらついてるから」
「うん、そうする。行こ絹ちゃん!!」
「わかった」
はしゃぎながら焔たちの元から去り、クレープ屋の列に並ぶ綾香たちを見送る焔と龍二。
「やっぱ女子だねー」
「……だな」
楽しそうに話す綾香と絹子を遠くから少し眺めたところで、焔と龍二は近くの店を物色し始めた。5分ほどして、一度綾香たちの様子を見に行った。
「めちゃめちゃ色んなもの売ってるな焔」
「ああ、でも高いわ。流石東京さまだわ。綾香たちはもうクレープ買えたかな?」
「どうだろうな? けっこう並んでたからまだなんじゃねえか」
そんなことを駄弁りながら綾香たちがいるクレープ屋へ向かう焔たち。龍二の言うようにまだ綾香たちはクレープを買えてなかったが、少し面倒ごとに巻き込まれていた。
「おい焔、あいつらって例のあれか?」
「ああ、そうだろうな。女子高生2人に都会風のチャラ男が3人で言い寄っている。ありゃナンパだな」
「おー流石都会。ナンパなんて初めて見たな。で、どうするよ焔?」
「明らかに綾香たちは嫌そうな顔してんだ。取り敢えず、行くぞ龍二」
ひとしきり会話が終わると、焔と龍二は綾香たちの元へ向かって行った。
「ねえねえ良いだろ? ここら辺案内してあげるから俺らと一緒に行こうよ?」
「結構です。私たち他に友達が待ってるんで」
「え? その友達って女の子?」
「男です」
「えー? それなら俺たちと一緒の方が絶対楽しいよ? そんなやつらほっといて行こうよ?」
「だから結構です!!」
いつまでも諦めない男たちに綾香も絹子も困り果てているときだった。
「ちょっとあんたたちその子たち嫌がってるでしょ!!」
1人の女の子の声が男たちに降り注ぐ。声のする方に振り返るとジャージ姿の綾香たちとそう年も変わらない1人の少女の姿があった。そして、綾香と絹子の前に立ちふさがった。
「あ? 何々? 君も俺たちと一緒に遊んでくれるの?」
まだナンパ気分の男に一緒にいた2人の男は少女の顔を見て面食らっていた。
「おいおいヤバいって!! お前この子のこと知らないのかよ?」
「は? 知ってるも何もさっき初めてあったんだから知るわけ……」
途中まで言いかけて、男は他の2人と同じような表情になった。そして、恐る恐る名前を口にする。
「お、お前!! 野田茜音か!?」
その名前を口にするとここらにいた人たち全員がざわざわし出す。それもそのはず、野田茜音とは今最も注目を浴びているスーパー女子高生。容姿端麗で、空手の世界チャンピオン。
「そうよ。だからこれ以上この子たちに付きまとうようなら……ちょっと痛い目見てもらうわよ」
その鋭い眼光に3人のチャラ男たちは怯む。
「おい、止めとこうぜ。警察沙汰にでもされたら面倒だしよ」
「ああ、それに野田茜音はヤバいって。世界チャンピオンだぜ?」
引き気味の2人に対し、リーダー格の男は少々攻撃的だった。
「ハッ!! 空手のチャンピオンつったってしょせん女子高生だろ? 痛い目見るだって? ちょっと調子に乗ってるんじゃないの? 野田茜音」
そう言って、男はファイティングポーズをとる。そんな男の態度を見て、ニヤッと笑い茜音も構える。
「あなたその構えからしてボクシングかじってたでしょ?」
「ああ、今なら引き返せるぜ?」
「はあ……たまにいるのよね。ちょっと何かしらの格闘技やってたからって、自分が強いって勘違いしちゃうイタイ男」
茜音の言葉にキレた男は顔面目掛けて殴り掛かる。
「調子乗ってんじゃねえぞ!!」
だが、決着は一瞬だった。男のパンチをいとも簡単に交わした茜音は高速の突きを男の腹に打ち込んだ。先ほどまでの勢いが嘘のように男はうめき声を上げながら、お腹を抱え地面に膝をつく。
「あーあ、一発で終わっちゃうなんて情けない男」
茜音の煽るような口調に更に怒りを顔に表す男だったが、茜音を睨みつけながら2人の男に連れられた。その後、綾香と絹子は頭を下げてお礼をし、少しの間、茜音と話をしていた。
そんな様子を焔と龍二は少し遠くから眺めていた。
「あれが野田茜音か……やっぱ強いな(でも、あの男は弱すぎたな。世界の実力もっと見たかったのに)」
焔が少し残念そうな表情を見せる中、龍二は興奮を隠しきれずにいた。
「やっべー。野田茜音があんな目の前にいるなんて」
「そういや、お前野田茜音のこと好きだったよな。サインでも貰いに行くか?」
「行く行く!! 善は急げだ!! 茜音ちゃーん!!」
そう言うと、龍二は茜音のところに走って行った。そんな龍二を呆れたように笑い、焔も後を追う。
未だ綾香たちと話す茜音に龍二は巨体を揺らせながら走り寄る。
「茜音ちゃーん!!」
そう言って、近づく龍二だったが、茜音はさきほどのことがまだ頭に残っていたらしい。
「あいつらの仲間か!?」
再び構える綾香に流石の龍二もヤバいと思ったのかブレーキをかけようとするが、すでに拳は放たれていた。
「ちょ、ちょま―――」
「観念しろ!!」
そんな2人の間に閃光のように1人の少年が現れ、片方の手で龍二の腹を、もう片方の手で茜音の拳を受け止めた。
「……あぶねえな」
物静かな言いようだったが、その眼力に茜音は焔から距離を取る。そして、額には一瞬にして汗がにじみ出ていた。
(何こいつ!? 明らかにさっきのやつとは格が違う。あんな一瞬であの場に現れ、私の拳を受け止めるなんて……ここは一旦体制を整えてから!!)
「あ!! 焔、龍二」
「え? 知り合いなの?」
驚いたように綾香の方に茜音が振り返る。
「うん。さっき言ってた友達」
その言葉を聞き、茜音は大きく胸をなでおろす。
―――「さっきは本当にごめんなさい!! 友達だとは知らずに」
「いやいや、俺みたいなやつが走り寄ってきたらそりゃ警戒しますよね。それにサイン貰ったんで全然オッケーですよ」
龍二の嬉しそうな顔を見て安堵のため息をついた茜音。そして、次に焔の方に話しかける。
「君って何か格闘技とかやってるの? さっきの動き、とても素人とは見えなかったんだけど」
「格闘技……はやってないですけど、稽古はつけてもらってます」
「なるほどね(だとしても、あんな動き普通出来る?)」
未だ信じれずにいる茜音に焔は更に信じられないような一言を言う。
「でも、さっきの突きってけっこう威力抑えてたんでしょ?」
その一言に茜音は一瞬固まってしまうが、笑顔で焔に答える。
「え、ええ。流石に本気は出さないわよ」
「だよな」
焔との会話が終わり、焔たちが4人で話している間、茜音は鋭く焔の方を睨みつけていた。
(けっこう威力抑えたですって!? 確かに本領発揮とまではいかなかったけど、あの場で出せる力は全部出したつもりよ!? 本当にこいつ何者?)
未だに謎を残したまま、焔たちは別れを告げる。
「本当にありがとうございました!!」
「ありがとう」
綾香と絹子は再び頭を下げて、礼をした。
「いいのいいの。じゃ、修学旅行楽しんでね」
手を振って見送る茜音だったが、我慢ならず焔の元に走り寄る。そして、焔の肩を叩き呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って最後にあなたの名前だけ―――」
ここまで言いかけた時、茜音の後ろから怒号が聞こえてきた。
「さっきは良くもやってくれたな!! 野田茜音!!」
茜音が振り返ると、そこにはさっき茜音にやられたチャラ男がものすごい形相で茜音の顔面目掛けて殴り掛かっていた。
(ヤバッ!! 避けられない!!)
茜音は避けられないと悟り、歯を食いしばった時だった。さっきまで自分の前にいた焔がなぜか男の横に移動しており、顔に素早いパンチを入れた。すると男は声も出さずに、その場に倒れ込み気絶してしまった。
そんな焔を見て、茜音は口をあんぐりと開け、驚きの眼差しで焔を見る。その視線に気づき、焔も茜音の方に目を向ける。
「き、きみは……一体……」
驚きを隠せない茜音に焔はなぜか頭を下げる。
「すんません!! 体が勝手に動いちゃって。じゃ、俺はもう行きますね」
そう言うと、焔はその場を素早く離れる。
実は焔は勘違いをしていたのだ。
やべー。あの表情から察するに、勝手にあの人のこと倒しちゃってたの怒ってるんだな。さっき言おうとしてたことも『君は一体なんてことをしてくれたんだ』みたいな感じだよな。流石世界チャンピオン。もう次からは出しゃばらないでおこ。
焔はシン以外の強者を知らないので、世界チャンピオンはシンと同等、自分よりもはるかに強い存在だと認識しているのだ。というか、シンからそういう風に根回しされていた。
だが、実際はそんな焔の考えとは真逆のことを茜音は思っていたのだった。
「一体……何なのあいつ」
思わずつぶやく茜音だったが……
「知りたい?」
後ろから思わぬ声が聞こえてきてパッと振り返る茜音。そこには絹子がいた。
「彼は青蓮寺焔。単独でレッドアイと対峙し、見事勝利したヒーローを目指す高校2年生なのです」
言い終わると、絹子はドヤ顔でピースサインをした。
「青蓮寺……焔。レッドアイを倒した男……」
脳に刻むようにゆっくりと茜音は口に出す。
「絹ちゃーん!! 早く行くよー!!」
「わかった」
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気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
合成師
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里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
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「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
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最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
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