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試験編
第七十七話 受かるのは何人?
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電脳世界から帰ってきた焔は例によって10分間ボーっとする。徐々に頭が冴えてくると、先ほどまでの戦闘が焔の脳裏をゆっくりとよぎっていく。
「俺……勝ったんだな……あんな怪物に……」
「ええ、勝ちましたよ」
「ハハ……自分の力って、案外自分ではわかんねえもんだな」
「そうですね。だからこそ、私がいます。感謝してくださいよ」
「ああ、感謝してる」
そう呟いた後、焔の表情は少し陰った。
確かに俺はあの怪物を倒した……でも、それは俺1人じゃ絶対に無理だった。AIが俺を鼓舞して、サポートしてくれたからだ……この2年、頑張ってきたつもりだったけど……まだまだだな。
「フッ」
焔は自身の心の弱さを嘲るように鼻で笑った。その後、ベッドから飛び上がり、大きく伸びをする。
「さて、第二試験も無事に終わって、残り1つか……そういや、俺が倒したやつって、他の受験者たちのよりも強かったんだよな?」
「はい。単純な戦闘力なら焔さんの倒したロックイーターは一番ですね」
その言葉を聞き、焔はニヤッと笑う。AIは『それじゃあ、俺がこの中で一番最強ってことだな。ガハハハ!!』なんて、言葉を想像したが、
「それじゃあさ、総督さんの評価けっこう良かったんじゃないか。合否って、第二試験と第三試験の評価の合計で決まるんだろ? ここで、稼いどきゃ第三試験の結果が悪くても合格できるんじゃないか」
取り敢えず、慢心はないと安心したAIではあったが、いまだに弱気の焔に少々いらだったのか、
「まあ、そうかもしれませんね」
「お、やっぱり」
安心したのも束の間だった。
「ですが、あくまで焔さんの評価が高ければの話ですけど……」
「……え?」
「焔さん。エアブラストブーツを使う時は私の名前を言うと言っていましたよね?」
「……はい。言いました」
「では、戦闘でエアブラストブーツを使った回数は?」
「……2回です」
「では、戦闘中に私の名前を呼んだ回数は?」
「……1回です……ハァッ!!」
その意味がわかったのか、焔の顔は見る見るうちに歪んでいく。
「い、いや待て待て。あれは忘れてたとか、そんなんじゃなくてだな!! 信頼してたから……そう!! お前のことを信頼してたんだよ!! AIならきっとやってくれると!!」
「……へえ。ちなみに総督はもうこの事実に気づいていますよ」
「なっ!?」
その知らせに焔は口をあんぐりと開け、その場でうなだれてしまった。しばらくすると、AIはもう満足したらしく、
「焔さん、大丈夫ですよ。確かに、総督はこの事実に気づいていますが、そのことについてはそこまで深く考えていないので、評価の方には支障はないですよ……少し、減点されましたが」
最後の言葉を本当に焔に聞こえいない程度の声量で発したAI。案の定、聞こえなかった焔は都合の良い部分だけを聞き取り、安堵のため息を漏らす。安心した焔はお腹が減っていることに気づく。
「AI、今何時だ?」
「15時30分です」
「3時半か……中途半端な時間だけど、遅めの昼飯にするか」
「了解です」
焔は通信機をポケットにしまうと、食堂まで転送されていった。食堂はほとんどすっからかんであった。
一方、モニタールームでは、第二試験全ての受験者を見終わり、各々の注目する人物についてしゃべり始めた。
「今年は見どころのあるやつがまあまあいたな……ハク、お前は気になるやついたか?」
レオから話を切り出し、最初はハクに尋ねる。ハクは少し考えるように手を顎に当てると、
「やっぱり自分が推薦した子になっちゃうけど、コーネリアかな。彼女の剣技には目を見張るものがあったからね」
すると、その話にペトラも食いついてきた。
「ねー、コーネリアちゃん凄かったね。飛びついてきたロッドウルフの手足、首、尻尾を一瞬で空中で切っちゃったからねー。でも、私はサイモンも良かったと思うの」
「ああ、サイモンか。あいつは確か槍使ってたか」
「そうそう。トライデントホースの脳天めがけてズドーン!」
「ああ、確かにありゃ派手だったな。でもな……あいつ何かあほそうなんだよな。ま、俺はリンリンだな。やつの武術は相当なもんだ。女子であそこまでできるやつはそうそういないぜ」
各々の推薦してきた者たちの名前を上げる教官たち。不意にペトラは総督にも気になった受験者がいるかどうか尋ねる。すると、意外な名前が挙げられた。
「私が気になったやつは……野田茜音かな」
「野田茜音……ああ、焔と同じ日本人の子ね……でも、特に目立った点はなかったと思うけど」
ペトラはなぜ総督が野田茜音のことを気になったのか、不思議そうに首をかしげると、総督は不敵な笑みを浮かべ、
「野田茜音……確かに、やつにはこの第二試験目立った様子はなかった。他の者たち、例えばお前たちが今挙げた者たちはしっかりと自分の武器を持っていて、それを最大限に生かす方法で攻略した。その武器に絶対的な自信を持っているからだ。だからと言って、野田茜音も持っていないわけではないんだろう。だが、彼女は自身の武器に頼るわけではなく、相手を観察し、分析し、行動を把握、弱点を模索、時間をかけて検証することで誰でも倒せるような確実な攻略方法を確立した。その分析力、観察眼、洞察力は十分評価に値する」
その説明を聞き、ようやくなぜ総督が野田茜音を指名したのか理解したペトラ。だが、総督はそう説明した後、ため息を漏らす。
「ゆえに惜しい。空手をやっていたからと、やつを前衛に置くのは何とも惜しい。ああいうやつこそ、敵を十分に観察することができる後衛に置くべきだ……お前もそう思ったんだろ? ヴァネッサ」
急にヴァネッサの名前を出したので、皆の視線がヴァネッサに移る。ヴァネッサはクールに微笑むと、
「はい。ですが、彼女の能力はそれだけではありません。それを第三試験で証明して見せます」
「ほお……それは楽しみだ。だが、やつがもしそれを渋ったら……」
総督はそこまで言いかけ、ヴァネッサの反応を見る。その視線に気づいたヴァネッサは、はっきりと言い切った。
「もし、銃への転向を渋るなら、もう一度かりそめの世界チャンピオンへと戻って貰うまでです」
そのはっきりとした言動に総督は一笑すると、最後にシンに尋ねる。もちろん、焔以外の人物で。
「俺は……やっぱりあの少女ですかね」
すると、その言葉に皆が納得を示す。
「あの子凄かったね! あのでっかい蛇、えーっと……」
「ダイダロ……全長10メートル以上、熊とかなら丸呑みできるほどの大蛇だね。特徴としては即効性の毒を牙に仕込ませていることと、硬い外装。通常なら刃が通らないところだけど……彼女は何の保護もされていない目を狙った。目を射抜いたところでエネルギー刃の出力を最大にして、脳を焼き切った」
シンが説明をし終えたところで、ハクが更に付け足す。
「だけど、ダイダロの危険察知能力は尋常ではない。それに、素早い動きも特徴的だ。普通ならダイダロに悟られず、目にナイフを投げこむことなんてできないはずだ」
そして、更に総督へと続く。
「だが、やつはやってのけた。普通の人間ならまず殺気やらなんらやらの気配を悟られてしまうし、まず的確に10メートル以上も離れた小さな的を2つも同時に、それもほぼノーモーションで当てることなんて不可能に近い。それをあの年で体得してしまうとは、なんとも……なんとも悲しいことか」
心から出た言葉は静かになった部屋で行き場を無くしたかのように、ゆっくりと漂っていた。
―――「おーい! レンジ! こっちだ!!」
ほとんど誰もいなくて、閑散とした食堂で焔のことを呼ぶ、元気な声が響き渡る。
「よお、サイモンか。それに……」
そこには昨日見たメンツがそろっていた。
「焔! ここにいるってことは第二試験は突破したってことよね! おめでとう!」
「おお、茜音も無事みたいで良かったわ」
「焔、早く座るネ! お腹減ってるだロ! 何か頼め!」
リンリンに促されるように焔は席に座る。すると、対面するように座っていたコーネリアが、
「あら? あんたも受かってたのね。もうてっきり荷物抱えて帰ってると思ってたわ」
皮肉をぶつけてきたコーネリアに焔は、不機嫌そうな顔をし、
「ハハハ、そりゃ残念だったな。最後だったもんで、遅くなっただけだよ。俺はお前みたいな強情なタイプが真っ先に落ちると思ってたんだがな」
「誰が強情よ?」
「自分の胸に聞いてみろよ?」
一触即発しそうな雰囲気の2人にリンリンが慌てて割って入る。
「まあまあ2人とも、喧嘩は止めるネ。それにコーネリアちゃん嘘はよくないネ」
「嘘? 嘘って、私嘘なんか……」
「でも、コーネリアちゃん、食堂に転送されてきた人のこと毎回すぐ確認してたネ。あれ、焔が来るかどうか確認してた証拠ネ。それに、焔が来たのを一番最初に発見したのもコーネリアちゃんネ」
「そ、それは……」
たじろぐコーネリアはチラリと焔に視線を移す。焔はニタァと笑っていた。それを見たコーネリアは顔を赤らめながら、否定に入る。
「ち、違う!! 別に焔が来るのを待っていたとかでは……」
「コーネリアちゃんそうだったのね。なんか隣座っちゃってごめん。席変わろうか?」
「突っかかるのも愛情の裏返しだったネ。うんうん」
「レンジ……コーネリアちゃんを泣かせたら許さないぞ」
誤解された挙句、勝手に話が進んでしまい、更にコーネリアの顔は赤くなる。
「だから!! 違うって言ってるでしょー!!」
コーネリアは皆が黙るのを待つと、正直に語りだす。
「確かに、焔のことを待っていたのは認めるけど……そこ!! ニヤニヤしない!!」
そう言って、コーネリアはサイモンにテーブルナイフを突きつける。
「何で僕だけなんだ!!」
その理不尽さに両手を挙げ、抗議するサイモン。
「でも、勘違いしないでよね。それは今回の第三試験であんたを完膚なきまでに叩きのめすために、第二試験に受かってもらわないと困るから探してただけ。今もこんな私より身長の低いチビに第一試験で負けたなんて屈辱でしかないわ」
「あのー……僕もコーネリアちゃんに勝ってるんだけど……」
控えめに主張するサイモンにコーネリアは鋭い視線を向ける。
「あんたと私にそれほど差はなかったじゃない!! それに、何よりあんたは……生理的に無理」
「ひどい!!」
いじけるサイモンにリンリンは優しく背中をさする。
「第三試験ねー……」
焔は運ばれてきた料理を手早く食べ終わると、再び第三試験についての話題を持ち掛ける。
「第三試験って、確か2人と戦って、そこで総督が評価して合格者を決めるんだったよな」
取り敢えずの概要を焔は述べると、茜音がそれに頷く。
「でも、銃を扱う人だけは別の選定方法なんだよね」
「ああ、そうだったな。というか、皆ってどんな武器使うんだ?」
「私は空手だから素手からな」
「あたしもカンフーだから素手ネ」
「僕は槍をつか……」
「私は細剣。で、あんたは何を使うの?……まさか、銃じゃないでしょうね」
「俺は……剣と素手? かな」
「そう、それなら十分当たる可能性はあるわね」
「でも、合格者多かったら、当たる可能性少ないだろ」
「知らないの? 合格者13人よ。十分当たる可能性はあるわ」
「え? 13人しかいないの? めっちゃ減ってるな。そういや、当たるのって、やっぱり体術扱うやつなら体術扱うやつと当たるのかな?」
「さあ? でも、同じ武器を使う者同士の方が互いに実力を出し合えるから、なるべくそうするんじゃない?」
焔の疑問にコーネリアは自身の見解を述べる。そこにサイモンが疑問そうに、
「ならば、僕は槍だが、誰か槍を扱う者は……」
「焔って剣術も体術も使えるの? じゃあ、私とも当たる可能性あるネ!」
「まあ、術なんてそんな大層なもんじゃないけどな。当たったら、お手柔らかに頼むわ」
「こちらこそネ」
何度も会話を遮られたサイモンは再びいじけだし、今度は茜音が対処する。会話は終了し、一同は食堂を離れ、各々の好きに行動しようとした時だった。
「どうも諸君。第二試験ご苦労だった」
急に食堂、そして、各部屋、大浴場など受験者がいる場所に総督の声が響き渡る。
「明日はいよいよ最終試験だ。皆今日は十分に休み、明日へと挑んでくれ。明日は電脳世界ではなく、現実世界で戦ってもらう。一応、公平を期すため、服装、武器などはこちらで用意させてもらう。戦う相手もなるべく、武器系統が一緒な者を選ぶつもりだ。詳しい説明は明日、現場で行いたいと思う。明日の午前10時より、各部屋で用意を済ませ待機せよ。ではまた」
説明を聞いた一同は挨拶もそこそこにし、各部屋へと帰って行った。
明日はいよいよ決戦。最後の試験である。滋養強壮を高めるため、早めに就寝する者。眠ることが出来ず、体を動かす者。ワクワクしている者。いつも通り過ごす者など、思い思いの夜を過ごす受験生たち。
何はともあれ、明日全てが決まる。
「さて、今年は何人受かるかな?」
「俺……勝ったんだな……あんな怪物に……」
「ええ、勝ちましたよ」
「ハハ……自分の力って、案外自分ではわかんねえもんだな」
「そうですね。だからこそ、私がいます。感謝してくださいよ」
「ああ、感謝してる」
そう呟いた後、焔の表情は少し陰った。
確かに俺はあの怪物を倒した……でも、それは俺1人じゃ絶対に無理だった。AIが俺を鼓舞して、サポートしてくれたからだ……この2年、頑張ってきたつもりだったけど……まだまだだな。
「フッ」
焔は自身の心の弱さを嘲るように鼻で笑った。その後、ベッドから飛び上がり、大きく伸びをする。
「さて、第二試験も無事に終わって、残り1つか……そういや、俺が倒したやつって、他の受験者たちのよりも強かったんだよな?」
「はい。単純な戦闘力なら焔さんの倒したロックイーターは一番ですね」
その言葉を聞き、焔はニヤッと笑う。AIは『それじゃあ、俺がこの中で一番最強ってことだな。ガハハハ!!』なんて、言葉を想像したが、
「それじゃあさ、総督さんの評価けっこう良かったんじゃないか。合否って、第二試験と第三試験の評価の合計で決まるんだろ? ここで、稼いどきゃ第三試験の結果が悪くても合格できるんじゃないか」
取り敢えず、慢心はないと安心したAIではあったが、いまだに弱気の焔に少々いらだったのか、
「まあ、そうかもしれませんね」
「お、やっぱり」
安心したのも束の間だった。
「ですが、あくまで焔さんの評価が高ければの話ですけど……」
「……え?」
「焔さん。エアブラストブーツを使う時は私の名前を言うと言っていましたよね?」
「……はい。言いました」
「では、戦闘でエアブラストブーツを使った回数は?」
「……2回です」
「では、戦闘中に私の名前を呼んだ回数は?」
「……1回です……ハァッ!!」
その意味がわかったのか、焔の顔は見る見るうちに歪んでいく。
「い、いや待て待て。あれは忘れてたとか、そんなんじゃなくてだな!! 信頼してたから……そう!! お前のことを信頼してたんだよ!! AIならきっとやってくれると!!」
「……へえ。ちなみに総督はもうこの事実に気づいていますよ」
「なっ!?」
その知らせに焔は口をあんぐりと開け、その場でうなだれてしまった。しばらくすると、AIはもう満足したらしく、
「焔さん、大丈夫ですよ。確かに、総督はこの事実に気づいていますが、そのことについてはそこまで深く考えていないので、評価の方には支障はないですよ……少し、減点されましたが」
最後の言葉を本当に焔に聞こえいない程度の声量で発したAI。案の定、聞こえなかった焔は都合の良い部分だけを聞き取り、安堵のため息を漏らす。安心した焔はお腹が減っていることに気づく。
「AI、今何時だ?」
「15時30分です」
「3時半か……中途半端な時間だけど、遅めの昼飯にするか」
「了解です」
焔は通信機をポケットにしまうと、食堂まで転送されていった。食堂はほとんどすっからかんであった。
一方、モニタールームでは、第二試験全ての受験者を見終わり、各々の注目する人物についてしゃべり始めた。
「今年は見どころのあるやつがまあまあいたな……ハク、お前は気になるやついたか?」
レオから話を切り出し、最初はハクに尋ねる。ハクは少し考えるように手を顎に当てると、
「やっぱり自分が推薦した子になっちゃうけど、コーネリアかな。彼女の剣技には目を見張るものがあったからね」
すると、その話にペトラも食いついてきた。
「ねー、コーネリアちゃん凄かったね。飛びついてきたロッドウルフの手足、首、尻尾を一瞬で空中で切っちゃったからねー。でも、私はサイモンも良かったと思うの」
「ああ、サイモンか。あいつは確か槍使ってたか」
「そうそう。トライデントホースの脳天めがけてズドーン!」
「ああ、確かにありゃ派手だったな。でもな……あいつ何かあほそうなんだよな。ま、俺はリンリンだな。やつの武術は相当なもんだ。女子であそこまでできるやつはそうそういないぜ」
各々の推薦してきた者たちの名前を上げる教官たち。不意にペトラは総督にも気になった受験者がいるかどうか尋ねる。すると、意外な名前が挙げられた。
「私が気になったやつは……野田茜音かな」
「野田茜音……ああ、焔と同じ日本人の子ね……でも、特に目立った点はなかったと思うけど」
ペトラはなぜ総督が野田茜音のことを気になったのか、不思議そうに首をかしげると、総督は不敵な笑みを浮かべ、
「野田茜音……確かに、やつにはこの第二試験目立った様子はなかった。他の者たち、例えばお前たちが今挙げた者たちはしっかりと自分の武器を持っていて、それを最大限に生かす方法で攻略した。その武器に絶対的な自信を持っているからだ。だからと言って、野田茜音も持っていないわけではないんだろう。だが、彼女は自身の武器に頼るわけではなく、相手を観察し、分析し、行動を把握、弱点を模索、時間をかけて検証することで誰でも倒せるような確実な攻略方法を確立した。その分析力、観察眼、洞察力は十分評価に値する」
その説明を聞き、ようやくなぜ総督が野田茜音を指名したのか理解したペトラ。だが、総督はそう説明した後、ため息を漏らす。
「ゆえに惜しい。空手をやっていたからと、やつを前衛に置くのは何とも惜しい。ああいうやつこそ、敵を十分に観察することができる後衛に置くべきだ……お前もそう思ったんだろ? ヴァネッサ」
急にヴァネッサの名前を出したので、皆の視線がヴァネッサに移る。ヴァネッサはクールに微笑むと、
「はい。ですが、彼女の能力はそれだけではありません。それを第三試験で証明して見せます」
「ほお……それは楽しみだ。だが、やつがもしそれを渋ったら……」
総督はそこまで言いかけ、ヴァネッサの反応を見る。その視線に気づいたヴァネッサは、はっきりと言い切った。
「もし、銃への転向を渋るなら、もう一度かりそめの世界チャンピオンへと戻って貰うまでです」
そのはっきりとした言動に総督は一笑すると、最後にシンに尋ねる。もちろん、焔以外の人物で。
「俺は……やっぱりあの少女ですかね」
すると、その言葉に皆が納得を示す。
「あの子凄かったね! あのでっかい蛇、えーっと……」
「ダイダロ……全長10メートル以上、熊とかなら丸呑みできるほどの大蛇だね。特徴としては即効性の毒を牙に仕込ませていることと、硬い外装。通常なら刃が通らないところだけど……彼女は何の保護もされていない目を狙った。目を射抜いたところでエネルギー刃の出力を最大にして、脳を焼き切った」
シンが説明をし終えたところで、ハクが更に付け足す。
「だけど、ダイダロの危険察知能力は尋常ではない。それに、素早い動きも特徴的だ。普通ならダイダロに悟られず、目にナイフを投げこむことなんてできないはずだ」
そして、更に総督へと続く。
「だが、やつはやってのけた。普通の人間ならまず殺気やらなんらやらの気配を悟られてしまうし、まず的確に10メートル以上も離れた小さな的を2つも同時に、それもほぼノーモーションで当てることなんて不可能に近い。それをあの年で体得してしまうとは、なんとも……なんとも悲しいことか」
心から出た言葉は静かになった部屋で行き場を無くしたかのように、ゆっくりと漂っていた。
―――「おーい! レンジ! こっちだ!!」
ほとんど誰もいなくて、閑散とした食堂で焔のことを呼ぶ、元気な声が響き渡る。
「よお、サイモンか。それに……」
そこには昨日見たメンツがそろっていた。
「焔! ここにいるってことは第二試験は突破したってことよね! おめでとう!」
「おお、茜音も無事みたいで良かったわ」
「焔、早く座るネ! お腹減ってるだロ! 何か頼め!」
リンリンに促されるように焔は席に座る。すると、対面するように座っていたコーネリアが、
「あら? あんたも受かってたのね。もうてっきり荷物抱えて帰ってると思ってたわ」
皮肉をぶつけてきたコーネリアに焔は、不機嫌そうな顔をし、
「ハハハ、そりゃ残念だったな。最後だったもんで、遅くなっただけだよ。俺はお前みたいな強情なタイプが真っ先に落ちると思ってたんだがな」
「誰が強情よ?」
「自分の胸に聞いてみろよ?」
一触即発しそうな雰囲気の2人にリンリンが慌てて割って入る。
「まあまあ2人とも、喧嘩は止めるネ。それにコーネリアちゃん嘘はよくないネ」
「嘘? 嘘って、私嘘なんか……」
「でも、コーネリアちゃん、食堂に転送されてきた人のこと毎回すぐ確認してたネ。あれ、焔が来るかどうか確認してた証拠ネ。それに、焔が来たのを一番最初に発見したのもコーネリアちゃんネ」
「そ、それは……」
たじろぐコーネリアはチラリと焔に視線を移す。焔はニタァと笑っていた。それを見たコーネリアは顔を赤らめながら、否定に入る。
「ち、違う!! 別に焔が来るのを待っていたとかでは……」
「コーネリアちゃんそうだったのね。なんか隣座っちゃってごめん。席変わろうか?」
「突っかかるのも愛情の裏返しだったネ。うんうん」
「レンジ……コーネリアちゃんを泣かせたら許さないぞ」
誤解された挙句、勝手に話が進んでしまい、更にコーネリアの顔は赤くなる。
「だから!! 違うって言ってるでしょー!!」
コーネリアは皆が黙るのを待つと、正直に語りだす。
「確かに、焔のことを待っていたのは認めるけど……そこ!! ニヤニヤしない!!」
そう言って、コーネリアはサイモンにテーブルナイフを突きつける。
「何で僕だけなんだ!!」
その理不尽さに両手を挙げ、抗議するサイモン。
「でも、勘違いしないでよね。それは今回の第三試験であんたを完膚なきまでに叩きのめすために、第二試験に受かってもらわないと困るから探してただけ。今もこんな私より身長の低いチビに第一試験で負けたなんて屈辱でしかないわ」
「あのー……僕もコーネリアちゃんに勝ってるんだけど……」
控えめに主張するサイモンにコーネリアは鋭い視線を向ける。
「あんたと私にそれほど差はなかったじゃない!! それに、何よりあんたは……生理的に無理」
「ひどい!!」
いじけるサイモンにリンリンは優しく背中をさする。
「第三試験ねー……」
焔は運ばれてきた料理を手早く食べ終わると、再び第三試験についての話題を持ち掛ける。
「第三試験って、確か2人と戦って、そこで総督が評価して合格者を決めるんだったよな」
取り敢えずの概要を焔は述べると、茜音がそれに頷く。
「でも、銃を扱う人だけは別の選定方法なんだよね」
「ああ、そうだったな。というか、皆ってどんな武器使うんだ?」
「私は空手だから素手からな」
「あたしもカンフーだから素手ネ」
「僕は槍をつか……」
「私は細剣。で、あんたは何を使うの?……まさか、銃じゃないでしょうね」
「俺は……剣と素手? かな」
「そう、それなら十分当たる可能性はあるわね」
「でも、合格者多かったら、当たる可能性少ないだろ」
「知らないの? 合格者13人よ。十分当たる可能性はあるわ」
「え? 13人しかいないの? めっちゃ減ってるな。そういや、当たるのって、やっぱり体術扱うやつなら体術扱うやつと当たるのかな?」
「さあ? でも、同じ武器を使う者同士の方が互いに実力を出し合えるから、なるべくそうするんじゃない?」
焔の疑問にコーネリアは自身の見解を述べる。そこにサイモンが疑問そうに、
「ならば、僕は槍だが、誰か槍を扱う者は……」
「焔って剣術も体術も使えるの? じゃあ、私とも当たる可能性あるネ!」
「まあ、術なんてそんな大層なもんじゃないけどな。当たったら、お手柔らかに頼むわ」
「こちらこそネ」
何度も会話を遮られたサイモンは再びいじけだし、今度は茜音が対処する。会話は終了し、一同は食堂を離れ、各々の好きに行動しようとした時だった。
「どうも諸君。第二試験ご苦労だった」
急に食堂、そして、各部屋、大浴場など受験者がいる場所に総督の声が響き渡る。
「明日はいよいよ最終試験だ。皆今日は十分に休み、明日へと挑んでくれ。明日は電脳世界ではなく、現実世界で戦ってもらう。一応、公平を期すため、服装、武器などはこちらで用意させてもらう。戦う相手もなるべく、武器系統が一緒な者を選ぶつもりだ。詳しい説明は明日、現場で行いたいと思う。明日の午前10時より、各部屋で用意を済ませ待機せよ。ではまた」
説明を聞いた一同は挨拶もそこそこにし、各部屋へと帰って行った。
明日はいよいよ決戦。最後の試験である。滋養強壮を高めるため、早めに就寝する者。眠ることが出来ず、体を動かす者。ワクワクしている者。いつも通り過ごす者など、思い思いの夜を過ごす受験生たち。
何はともあれ、明日全てが決まる。
「さて、今年は何人受かるかな?」
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“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
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「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
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里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
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