謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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翌日、ランチタイムはとっくに過ぎ、ディナーには少し早い午後四時。
祖母と待ち合わせたのは、創立パーティーを行った都内有数の老舗ホテルのロビーだ。
秋の行楽シーズンということもあってか、これからチェックインするゲストや、カフェやレストランを訪れる様子の人たちで賑わっていた。

「琴葉、ここよ!」

ロビーをキョロキョロと見渡していると、ソファに座る祖母から声が聞こえた。立ち上がった祖母は、昔と変わらずピンと背筋が伸びている。髪を黒く染めているからか、八十歳が近いとは思えない。

「お祖母ちゃん、久しぶり。待たせてごめんね」

祖母と会うのは約半年ぶりだ。同じ都内に住み、そう遠いわけではないが、社長である伯父もいる家を訪れることはそう多くない。お盆に親戚の集まりがあったが、今年は友人との旅行と重なり参加していないのだ。

「私が早く来ていただけよ。ラウンジに席を用意してもらっているの。行きましょう」

厳しい会長の顔とは違い、今日は優しい祖母の顔で微笑んでいる。細身でスラっとしていて、いつもおしゃれ。今日も上品な黒いニットワンピースに真珠のネックレスを身に着けている。
私も祖母と会う日は気合が入る。外で会う時は、社会勉強だと高級店に連れて行ってくれることも多い。だから今日も、会社に着ていくことのない、秋らしい落ち着いたブラウンのワンピースを選んだ。そして飾り気のない長い黒髪は、少しだけ華やかさを出して、ハーフアップにしてみた。
祖母に並びロビーを歩く。そういえばいつもはすぐ食事に向かうのに、先にラウンジに向かうなど初めてだ。秋の果物で彩られたスイーツの並ぶショーケースを横切り、中に入る。対応するスタッフは、最初から分かっているといった風に案内してくれた。
席に着くとメニューブックを開く。秋のデザートフェアと銘打ったページの見目麗しいスイーツに釘付けになった。

「お祖母ちゃん。スイーツ食べていい?」
「いいわよ。ディナーに影響しないなら」
「もう! 子どもじゃないんだからね!」

舌でも出しそうな勢いで返すと、祖母は「そうね」と笑う。そんな祖母に微笑みを返すとメニューブックに目を落とす。あれこれ考え、一番甘く濃厚そうなチョコレートケーキを選んだ。とにかく最近忙しかったこともあり疲れている。甘いものが無性に食べたくなった。
オーダーした品が来るまで、祖母とたわいもない話を始める。祖母は、一人暮らしで実家にもなかなか帰らない私に母の様子などを聞かせてくれた。そうしているうちに祖母のオーダーした紅茶と、私のオーダーしたチョコレートケーキとコーヒーが目の前に置かれた。

「わぁ! 美味しそう。いただきます!」

さっそくフォークをいれ、まったりとしたケーキを一口、口に運んだ。

「はぁ~……。脳に染み渡るわぁ……」

しみじみと感嘆の声を上げる私に、祖母は呆れたように視線を送る。

「ずいぶんとお疲れのようだけど、そんなに忙しいのかしら?」
「あ……っと。まぁ少しずつね……」

来年三月上旬に行われる展示会の大体のスケジュールなど、祖母の頭には当たり前に入っているだろう。繁忙期はまだまだこれからで、今からこんなに疲れている場合じゃないことも。言葉を濁しながら曖昧に笑ってごまかす。祖母は紅茶のカップ片手に、小さく息を吐く。

「まだこれからなんだから、ほどほどになさい。あなたは一人で抱え込むところが悪い癖よ」

痛いところを突かれ言葉に詰まる。きまり悪く「はあい……」とだけ返すとケーキに向かった。
しばらく沈黙が続き、気まずい。今日はお説教されに来たのだろうかと気持ちが重くなりかけていると、先に祖母が口を開いた。
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