謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「ところで琴葉。その後、いい人はできたの?」
「へっ?」

思ってもなかった突然の質問に、素っ頓狂な声を上げながら顔を上げる。視線の先で、祖母は涼しい表情でカップに口を付けていた。

「い、いい人って……」
「もちろん、お付き合いしている人よ。前に聞いたときはいないと言っていたけど。あれから数年経つし、そろそろいてもいい頃だと思っているんだけど」

そういえば昔、そんなことを聞かれた気がする。恋愛なんてするつもりないと強く言えるはずもなく、適当にごまかしたことを思い出した。

「それが……なかなか良い出会いがなくって。いい人がいればな~……なんて」

我ながら苦しい言い訳だ。その気になれば出会いは多い方の業種だ。病院の関係者と知り合うこともあるし、人によっては懇親会などでお近づきになることもある。けれど私は、どれもあくまでも仕事上の関係で、いい人がいればなんて、これっぽっちも考えたことはない。
 祖母は私の返事を聞くと、意味ありげにニコリと笑みを浮かべる。カップをソーサーに戻しテーブルに置くと、軽く両手を合わせた。

「なら、ちょうど良かったわ」
「って……もしかして……?」
「そう。あなたにぜひ紹介したい人がいるのよ」

昨日感じた嫌な予感は当たりそうだ。今の私はきっと、苦虫を噛み潰したような表情をしているだろう。
祖母の知人に、人のお見合いをセッティングするのが趣味だという人がいるらしく、五年ほど前もこうして話を切り出された。その時は社会人一年目ということもあり、まだまだ仕事を覚えたいから、結婚なんて考えられないと断った。そのとき祖母も『そうよねぇ』と引き下がってくれたが、今回はその理由も使えない。それについ先ほど相手はいないと言ったばかりだ。どうしようかと、頭の中で思考がグルグル回る。

「でもほら、今から忙しくなるし、お見合いなんてしてる暇ないでしょ? またの機会に……」
「あら。今しがた良い人がいないって言ったわよね。私も知る人なんだけどとても好青年よ。いいご縁だと思って会ってみない?」

 自分の発言を取り消したい。良い人との出会いなんて必要ない。結婚なんてもっての外だ。けれど祖母の頼みを断り、落胆させたくない。

「会うだけ……でいいなら。ごめんね、お祖母ちゃん。まだ結婚まで考える余裕はなくて」
「謝らなくてもいいのよ。私も昔はそうだったわ。会社を大きくすることばかり考えていた。でも、あの人に……あなたのお祖父さんと出会って、仕事だけじゃ得られない幸せを知ったの。だから琴葉にもって、どうしても思ってしまうのよ」

私が生まれる前に亡くなった祖父を思ってか、憂いた表情の祖母を見て、申し訳ない気持ちになる。けれど、恋愛するのは今でも怖い。好きだと言いながら、裏で貶められていたことを思い出すと、今でも身を切られるような気持ちになる。

「ありがとう、お祖母ちゃん。私のこと気にかけてくれて。それだけで幸せだよ」

素直に気持ちを口にする。それが伝わったのか、祖母は優しく微笑んだ。けれどすぐに、その口角は思い切り上がる。まるでいたずらっ子のように。

「じゃあ早速だけど。今日のディナーは、その人とお願いするわね」

何を言われたのかすぐに呑み込めず、しばらく間をおいてから反応する。

「えっ? 今日って、今日? 今から?」
「そうよ。私、今から用事があってね。その人は都合がつくって言うからお願いしたの。大丈夫。そう堅苦しく考えなくて。お食事を楽しんでらっしゃいな」
「楽しんでって言われても……」

あまりにも急な話で、驚きを通り越して呆然とする。何の心の準備もできてないのに、いきなり会うなんてどうすればいいのか。けれど、会ってもいいといった手前、いまさらやめたと言いづらい。すっかり祖母の術中にはまった気分だった。
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