謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

文字の大きさ
7 / 58

「どうして……私の名前を? もしかして、どちらかの病院の先生ですか?」

今まで仕事上、さまざまな病院に出入りしてきた。接点はなかったが、どこかで蒼波メディテックの社員だと知られていたのかもしれない。けれど、こんなに容姿の良い医者が本当にいるなら、どこかで噂になっているはずだ。クールな二重の切れ長の瞳に、筋の通った鼻、そして形の良い薄い唇。どこをとっても完璧だ。

「存じ上げず、申し訳ありません」

取引先を思い浮かべても思い当たる人物はいないが、とにかく頭を下げた。

「さすが、里子さんから聞いていたように、真面目な性格のようだ。僕は医者じゃないから謝らなくていい」
「里子さんって……お祖母ちゃん? まさか……」

少し楽しげな笑みを浮かべたその人を、ポカンと口を開けて見上げる。そんな間抜けな表情を見たからか、彼はクスリと笑みを漏らした。

「今日、君と会う約束になっている榛名はるな智臣ともおみ。よろしく」
「石田……琴葉です。よろしくお願いいたします」

驚愕したまま抑揚なく挨拶を述べる。まさかこんな迫力ある美形とお見合い、それも二人きりで食事するなんて、緊張で力が入る。でも反対に、もしかしたら本当はすでに相手がいるけれど、何らかの事情でこのお見合いを断りきれなかったのかもしれない。きっとそうだ。ならこちらも、仕事のように割り切ればいい。
榛名さんにエスコートされ、祖母に聞いていたレストランへ向かう。彼はこのホテルになじみがあるのか、レストランフロア直行のエレベーターへ迷うことなく向かっていた。
何度か訪れたことのあるフレンチレストラン。大きな窓の向こうには、秋の夜空を背景に、煌めく光が宝石のように散りばめられていた。
案内されたのは、その夜景を間近で眺められる窓際の良席。パーティションで区切られていて半個室のようになっている。店内の照明は夜景を邪魔しないよう半分落とされていて、テーブルの周りだけを照らすライトが彼との距離を否応なく意識させた。

「ドリンクは何がいい? 好みはあるか?」

渡されたドリンクメニューに視線を落とし、榛名さんは尋ねる。

「お任せしてもよろしいでしょうか」
「もちろん。最初はシャンパーニュにしよう。いいかい?」
「ええ。もちろん」

メニューを閉じると、彼はそばに控えていたスタッフにオーダーする。そつのない仕草は、普段からこういった高級店に慣れているのが見て取れた。

(お祖母ちゃんとは、どんな繋がりがあるんだろう?)

今まで彼らしき人のことなど聞いたことはない。彼の年齢的に祖母の友人の孫といったところだろうか。少し不可解な気持ちになりながら、彼から視線を外し、外の景色を眺めた。
しばらくすると、ソムリエがシャンパーニュを運んできて、細身のグラスに注いでくれた。淡い金色の液体の中で、小さな泡が踊っている。
榛名さんはそのグラスを掲げると、表情を緩ませ微笑んだ。

「では、琴葉さんとの出会いに」

まるでドラマのような、歯の浮きそうな台詞さえ自然に聞こえる。こんなことを言われる日が人生に訪れるなんて。緊張気味の引きつった笑顔でグラスを掲げた。
彼がグラスに口を付けるのを見てから、自分もそれに続く。緊張感で味など分からないかもしれないと思ったが、そこはやはり最高級な一杯。芳醇な香りが鼻をくすぐり、口に含むとキリっとした飲み口だがコクも感じられるものだった。

「……美味しい!」
「お気に召したようで、なによりだ」

小さく呟いたつもりが、彼の耳にも届いてしまったようだ。嬉しそうな声色で、彼に微笑みかけられた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい
恋愛
侯爵家の落ちこぼれ二女リンネは、唯一の取り柄である薬の調合を活かし、皇宮の薬師部屋で下っ端として働いていた。 そんなある日、近衛騎士団長リースハルトから直々の依頼で、自白剤を作ることになった。 しかし、極秘任務の筈なのに、リースハルトは切々と自分語りを始め、おかしなことに…? タイトルが気に入っていたので、2025年8月15日に公開した短編を、中編〜長編用に全編改稿します。 こちら単独でお読みいただけます。

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。