謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

文字の大きさ
8 / 58

「申し訳ありません。お恥ずかしいところをお見せしました」

あえて感情を入れず、硬い口調で返す。

「いいえ。今日はビジネスの場ではないですから、気楽に過ごしてください」

彼は私の考えを読み取ったように、柔らかな笑みを浮かべた。
こんな相手が私なんかに興味を持つとは思えないが、私はこれでも蒼波の血縁者。社内でそれを知るものはほとんどいないが、彼は知っている。その関係に興味がないとは思えない。あくまでも私は、このお見合いに二つ返事でやってきたわけではないと示しておきたい。

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが私の言動が元で、祖母に恥をかかせるわけにはいきませんので」

可愛げのない物言いをしてニッコリと微笑んで見せると、彼はフフッと小さく息を漏らして笑う。

「さすが。一筋縄ではいかないようだ」

どういう意味なのか分からない。彼がそう言ったとき、アミューズが運ばれてきて、尋ねるタイミングを失ってしまった。
目の前にサーブされたのは、季節感のある一皿。秋らしい、色鮮やかな野菜を使ったマリネ。そこに、きめ細かな泡でできた栗のポタージュが添えられている。一口サイズの小さな焼き菓子からはキノコとチーズの香ばしい匂いが立ち上り、シャンパンをもう一口誘った。
話すこともなく、お料理とお酒を堪能する。聞きたいことはあるけれど、こちらから何か尋ねて興味があると思わせたくない。
彼からも特に話を切り出すこともなく、しばらくは食器から出る小さな音だけ聞こえてきた。

「お食事は……口に合いませんか?」

表情を出さないようにしていたからか、榛名さんは不安そうに尋ねる。さすがにやりすぎたと顔を上げると首を振った。

「いいえ。あまりにも美味しいのでつい夢中になってしまって」
「そうですか。ならいいのですが。……この栗のポタージュ、なかなかですね。実は少し苦手意識があったのですが」

表情を和らげて、彼はそんなことを口にする。

「栗が苦手なんですか?」
「えぇ、実は。幼いころ……食べてはいけないと言われたのに、こっそりマロングラッセを食べてしまったんです。かなり洋酒のきいたその味に驚いてしまい、それから」

彼は昔の自分の話を楽しそうに語っている。幼いころのこととは言え、自分の失態を話すなんて意外だ。

「たしかに小さな頃だったらお酒の味には驚いてしまいますよね」
「そうですね。そういえばあれは、里子さんからのいただきものだったはずだ」

目尻を下げて懐かしいそうに祖母のことを話す榛名さんに少し驚く。そして、どんな関係なのかと興味を惹かれた。

「祖母とはそんな昔から交流が?」
「ええ。僕が生まれたときも、祝っていただいたと聞いています。」

さすがに祖母の交友関係まで把握していない。偶然外出先で出会い紹介されたことはあったが、わざわざ紹介されることもないし、一緒に住んでいるわけでもないから、時々話に聞く程度だった。

「存じ上げず申し訳ありません。詳しいことを何も聞いていなかったもので」
「謝るのはこちらのほうです。今日の話が出て、すぐに会わせて欲しいとお願いしたのは僕ですから」

いったいどんな意図が、と構えてしまう。やはり蒼波とさらなる縁を考えているのだろうかと、グラスを持つ指に力が入る。私の顔が強張ったのを悟られたのか、榛名さんはやんわりと私に告げた。

「里子さんのお孫さんにお会いしてみたかったんです。僕には異性の兄弟はいませんし、会ったこともないのに妹のような気持ちになったものです」
「妹……ですか?」
「ええ。勝手に申し訳ない」

妹のようだと聞いてホッとする。ならばこれはお見合いではないはずだ。そう思うと、一気に緊張感が解けた。

「そんな! 謝らないでください。私には兄弟がいないので、妹とおっしゃっていただいて光栄です」
「そう? だったらもっと打ち解けて話さない? 兄妹に敬語はおかしいだろう?」

目を細めたかと思うと、急に砕けた口調で話す榛名さんにドキリとする。でもこれは兄としての態度を取っているだけなのだろう。私は小さくうなずいた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

御曹司はただの同期のはずだったのに

日下奈緒
恋愛
営業成績トップを争う同期、桐谷玲奈と東條理人。 御曹司でありながら完璧に仕事をこなす理人に、玲奈は一度も勝てずにいた。 互いに意識しながらも、あくまで“ただの同期”として距離を保ってきた二人。 だがある夜、仕事帰りに偶然重なった時間が、その関係を変えてしまう。 「このまま帰す気ないんだけど」 冷静で感情を見せないはずの理人の一言に、玲奈の理性は揺らぎ始める。 触れた瞬間、崩れたのは距離だけではなかった――。 一夜の過ちで終わるはずだった。 なのに、あの夜から、彼の視線も、言葉も、すべてが変わっていく。 ただの同期のはずだったのに。 その関係は、もう戻れない。