謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「――お疲れ様でした」

先頭を切って退出する社長、それに続く部長たちに一同で礼をして見送る。会議室のドアが閉まった音が合図かのように、みんなは頭を上げた。
会議は終わった。無事、というわけではない。修正指示はかなり多く、大幅に考え直さなければならない部分もある。展示会メンバーはみな苦々しい表情をしていた。

「じゃあ、各自、リテイク内容を確認したら再検討して来週水曜日までに共有して」
「はい」

伊東さんの言葉に関係のある社員は返事をする。
次に同じ会議の場が設けられるのはちょうど二週間後。けれど実際に使える時間は一週間というところだ。
会議室を片付けて部署に戻る。マーケティング・企画部の部屋はそう広くなく、中に入ると全体の様子はすぐ見渡せる。会議に参加していなかった社員たちは、どこか戸惑い気味に立ち尽くしていた。

「石田さん! 聞いたわよ! 新部長、うちに来るんだって?」

真っ先に私のもとに駆け寄ってきたのは、例のヘッドハンティングの噂を教えてくれた米川さんだ。そういえば、社長が会議の最初に『先ほど正式に発表された』と言っていた。

「そう……なんですよ。驚きました」
「異動の発表をメールで見て、驚いたわ。しかも、さっそく会議に出席してるって、パソコン入れ替えに来た総務部の人が言ってたから」

一番奥の景色の良い窓際にある部長席を見ると、パソコンが少し変わっていて、その周りはいつも以上にスッキリしているようだ。

(智臣さんと一緒に仕事することになるなんて……)

祖母も智臣さんも、そんなことはかけらも口にしなかった。もちろん二人に会ったのは、この人事異動が正式に発表される前だ。いくら会長の孫でも、ただの平社員の私に、うかつにそんなことは話せないだろう。でも先に会わせたのは、顔合わせの意味があったのかもしれない。
それにしても、智臣さんはいったい何者なのだろうか。この医療機器メーカーに精通しているけれど、この業界の出身というわけではなさそうだ。さっきの会議でも痛感したが、違う視点を見ていて、それが的を射ている。ただの祖母の知人というだけでない気がした。
なんとなく浮足立つ雰囲気が落ち着いてきたころ、前部長が智臣さんを伴って部屋に入ってくる。それを見て、自然とその場にいる社員たちが立ち上がる。部長たちは部長席の前に並び立った。

「みな、発表を見てくれていると思うが、このたびわたしは営業総括部長を拝命した。そして、新たに部長となるのは、この榛名くんだ」

なんとなく、周りの社員が息を飲んでいるのが伝わってくる。その整った容姿に若さ。誰だってこんな人が部長だと言われて、驚かないわけはない。
その部長よりはるかに年上の課長は一瞬、どこか落胆したような表情を見せていた。
智臣さんが軽く挨拶をしたあと、前部長は「では、あとは任せる」と智臣さんに告げ、そのまま退室していく。それを見届けたかと思うと、智臣さんが口を開いた。

「では急だが、これから全員の面談を行いたい。順番は問わない。ミーティングルームに来てくれ」
「いっ、今からですか? みな仕事が……」
「ほんの五分ほどだ。そんな時間も取れないほど忙しいのですか? 真田課長」

慌てたように口を挟んだ課長に、智臣さんは冷たく言い切る。課長は気圧されたように軽くのけ反り、「そんなことは……」と弱々しく答えた。

「では最初に伊東マネージャー。来てくれ。次の采配は任せる。課長は最後に入ってくれ」
「は、はい。承知しました」

課長が答えると、智臣さんは机の鍵を開けて中からファイルを取り出し、伊東さんと部署内にある個室へ向かっていった。
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