謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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智臣さんが着任し、五日目。今日は金曜日だ。
初日こそ智臣さんのことを遠巻きに見ていた社員たちだが、相談に的確な指示を出し、仕事も早い新部長に警戒を解いてきているようだ。
特に伊東さんは、会議で出た修正案を何度もすり合わせていた。

「いや~。榛名部長、まじで仕事できるわ」

昼休み、たまたまラウンジで居合わせた伊東さんと一緒に食事を取っていると、伊東さんはしみじみと言いだす。自分より年下であるはずの部長に、すでに心酔していると言っても過言じゃない様子だ。

「そう、なんですね」

当たり障りなく答える私を気にすることなく、伊東さんは興奮気味に続ける。

「修正案、かなり良いアドバイスもらったし、今度は社長もOKしてくれるだろう。それに、次の会議は、部長がこっちに付いてくれるから心強い」

水曜日に伊東さんから展示会メンバーに告げられた、次の会議での智臣さんの立ち位置。確かに自分自身が目を通したものに、会議で意見するのはおかしな話だ。それが今まで、当たり前に行われていた。

「石田さんは? 部長に相談しないの?」

無言でコンビニのおにぎりをかじる私に、伊東さんは不思議そうに尋ねる。部長に修正案の相談をしていないのは、私だけだ。

「まだ……固まってなくて」

うつむいたまま答える。それは本当のことで、あれからどんなに考えても案はまとまらない。坂田さんにもっと古い過去資料や、別の業種の展示会の資料を集めてもらったが、どんどんと泥沼にはまっている気がする。

「固まってないって、相談してみればいいのに。けど石田さん、自分でなんとかしたいタイプだよね」

明るい調子で言う伊東さんは、私を非難しているわけではないのは分かる。けれどそれは、決して褒められたことではない。今までそうやって乗り越えてきた。けれど、素直に誰かの力を借りたほうが良かったのではという場面もあった。でも、それができない自分の性格に嫌気がさす。

「ありがとうございます。週末に良い案浮かばなかったら、相談してみます」

そう言ってみたものの、まとめられるだろうか。
先に食べ終えた伊東さんが席を立ち一人になると、深いため息がもれた。
席に戻ると、いったん展示会のことは置いておいて、通常業務を片付け始める。いくら展示会の主担当といっても、それ以外に仕事も受け持っている。メールを確認しつつ、営業部から依頼された資料を作成していると、あっという間に時間が流れていた。

(もう、七時前か……)

さっき時計を見たときは、五時すぎだったはずなのに、時間が無いと思っているときほど早く過ぎていく気がする。
部内の社員も、もう半分も残っていない。今まで残業続きだった展示会メンバーは、もう修正案が出そろったのか、私以外誰も残っていなかった。
ふと見ると、課長は相変わらず残業中だ。けれど、以前より早く退社するようになったらしい。その代わりに、以前はほとんどこの時間空席だった部長の席に、智臣さんが座っている。
なんとなく、居心地の悪さを感じて仕事を切り上げる。
智臣さんとは、挨拶を交わすくらいで何も話していない。変に構えているのは私だけで、智臣さんはきっと何も感じていないだろう。
席を立つと、荷物を持つ。

「お先に失礼します」

その場にいる人に聞こえるよう声を掛けると、部屋を後にした。
重い足取りでエレベーターに乗り、エントランスに向かう。今週はとにかく気疲れした。美味しいお総菜でも買って帰ろう。そんなことを考えながら駅までの道を歩いていると、バッグの中からスマホが音を立てた。
慌ててスマホを取り出し、そこに表示された名前を見る。

「え?」

初めて画面に表示された『榛名智臣』の名前に戸惑いながら、仕事で何かあったのかと慌ててその電話を取った。

「お疲れ様です。石田です」
『お疲れ様』

電話越しで聞く智臣さんの声は、ゆったりとしている。それに、なんとなく楽しげにも聞こえた。

「あの。仕事で何かありましたか?」
『いや? 何もないよ』

そう答えた声は、明らかに笑っているように聞こえる。

『これからまっすぐ帰る? 良かったら、一緒に食事でもどうかと思って』

部長とは別人かと思うほど、甘ささえ感じる優しい声で、智臣さんは言った。
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