謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「それは、仕事上必要なことでしょうか」

自分を守るための言い訳でしかないと思いながらも、そう言わずにいられない。公私混同しないと、先に言い出したのは智臣さんのほうだ。なのに、そんな誘いをするなんて。
むっとして、素っ気ない態度を取ってしまう。例えば、残業していた他の社員も誘っているというなら話は別だが、そうではなさそうな気配だ。

『さすが、模範解答だな。だが今は、仕事は全く関係ない。僕がそうしたいから誘っただけだ。それに、もう退社しているから、今は完全にプライベート。それでもだめか?』

それは、ただの屁理屈というものではないだろうか。けれど今、智臣さんと良い関係を築けていないのは確かで、話をしたい気持ちはあった。

「承知しました。私は仕事のつもりでお付き合いします。それでも良ければ」
『分かった。それでもいいよ。待ち合わせ場所をメッセージで送るから、先に駅に向かってくれ。僕もすぐに追いかける』

歩きながら通話しているのか、時々息の切れる気配がする。私が会社から出て、すぐに退社したのかもしれない。

(まさか、私を待ってたとか?)

そんなうぬぼれた考えが浮かんで、慌てて首を振りそれを打ち消す。
私が彼の申し出を了承すると、いったん通話を終える。スマホを手にしながら歩き出すと、しばらくしてメッセージが届いた。
待ち合わせ場所は、私の家の最寄り駅より、数駅手前にある駅の改札口前。各駅停車しか止まらない小さな駅で、降りたことはなく馴染みはない。
いつも乗る快速電車に乗り、途中で各駅停車に乗り換える。四十五分ほどで到着すると、見慣れないホームへ降り、改札口へ進んだ。 八時過ぎと、そう遅くない時間ということもあってか、思っていたより降りる人は多い。改札を出ると、駅前に店らしきものは点在しているものの、明らかに住宅街という雰囲気だった。
こんなところへわざわざ来るなんて、よほど食事したい店があるのか。それとも……。

(まさか智臣さんの家で、なんてことないよね)

急に不安に襲われる。いくらなんでも、いきなりそんなことはしない――そう思いたい。それこそ、うぬぼれるのにも程がある。 そわそわしながら待っていると、背後に気配がした。

「待たせたな、琴葉」

振り返ると、今日見ていたのと同じスーツ姿の智臣さんが笑みを浮かべて立っていた。どうやら途中から同じ電車に乗っていたらしい。

「お、疲れ様、です」

これはあの、榛名部長だ。そう思うのに、会社では見せたことのない柔和な顔に、頭が混乱しそうだ。そんな私に気づかないふりをしているのか、智臣さんはいっそう口の端を引き上げた。

「お疲れ様。さあ、行こうか」
「はい……」

戸惑い気味の私を促し、智臣さんは歩き出す。一歩遅れて、私はその後を追った。
時々大きな背中を見ながら、その数歩後ろを歩く。特に話しかけられることもなく、私たちの靴音だけがやけに大きく聞こえた。 歩き始めて五分ほどで周りにマンションが並び始め、その先を進むと少し古めかしい戸建ての家が多くなってきた。

(いったいどこまで行くんだろう?)

そう思ったとき、智臣さんの足は止まり、こちらに振り返った。

「着いたよ」

見ると、個人宅だと思った家の軒先には小さく木の看板がぶら下がっていて、ガラス戸の向こうはお店らしい雰囲気だった。
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