謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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しばらくすると、メニューに付いているスープが運ばれてきた。
白い湯気が立ち上がる、両手のついた器の中身は、具だくさんのミネストローネだ。

「冷めないうちに食べよう」
「はい」

スプーンを手にすると、トマトの赤が食欲をそそるスープをすくって口に運んだ。
11月上旬と、晩秋にさしかかったこの時期、温かいスープが心に染みる。お腹の中がぽかぽかしていくのを感じた。

「美味しいです。温まりますね」
「だな。ここのミネストローネは初めてだけど、やはりどれを食べても美味い」

しみじみとしながら智臣さんはスプーンを動かしている。

「ここのお店の常連なんですか? お昼しか来たことがないって、おっしゃってましたけど」

私も同じように、とろけた野菜を食べ進めながら尋ねる。

「常連ってほどでもないが、前の仕事で近くに来ることがあったから時々な。家は離れてるし、そう頻繁には来られなかった。琴葉が付き合ってくれて嬉しいよ」

自分の予想とは、いろいろ違っていた。やっぱり自分の家の近くに私を呼ぶなんて、智臣さんはしないだろう。たまたま、私の家に近い場所にお気に入りの店があっただけのようだ。
けれど、前の仕事が気になる。これまでの経歴は、他の社員からも漏れ聞こえてこなかった。誰も聞いてないということだろうけど、それを踏み込んで聞く勇気はない。そこに触れることなく、私は答える。

「私も嬉しいです。こんな素敵なお店を教えてもらえて」

自分の住む駅はここから電車で十五分ほど。これなら会社の帰りに寄れそうだ。

「どういたしまして。これからはちゃんと食べたほうがいい。琴葉は痩せすぎだ。昼だってそんなに食べてないだろう?」

なにもかも見透かされているようで、ドキリとする。私の昼食が、いつも簡単な食事だと伊東さんにでも聞いたのだろう。そのうえで、帰ってもまともに自炊などせず、出来合いのもので済ませてしまっていることも察しているようだ。

「すみ……ません」

謝る必要などないのに、親からのお小言を受けているようで肩身が狭くなり、身を縮こまらせる。

「謝らなくていい。毎日あれだけ仕事に集中しているんだ。帰っても疲れ切ってて、食事の用意なんてする気力もないだろう? 僕もそうだったから分かるよ」
「智臣さんも?」

どこにも隙がなく、完璧に見える智臣さんに同じだと言われて驚く。だから余計に、私のことを気にしてくれたのかもしれない。けれど過去形で語るということは、今は違うということなのだろう。

「ああ。その時は身に染みて食事の大切さを知ったよ。だから琴葉も、できるだけ意識してちゃんと食事を取って欲しい。いつまでも無理がきくと思っていると、痛い目を見るぞ?」

口調は明るいけれど、自分に言い聞かせているようにも感じる。その、過去に経験しただろうことを教訓にして。

「これからはそうします。いつまでも若いと思ってちゃだめですよね」

最後はおどけたように返すと、智臣さんは安心したように微笑む。

「その調子だ。けど、琴葉が若くなかったら、僕はどうなるんだ?」

笑いながらそう口にする智臣さんに、今なら年齢を聞けるかもと考えがよぎる。

「あの、智臣さん――」

そこまで切り出したところで、じゅうじゅうと鉄板の焼ける音が近づいてきた。

「お待たせしました。チキンソテーのミックスグリルとチーズハンバーグです。お熱いのでお気を付けください」

目の前に置かれた鉄板の上にパチパチと小さな油がはね、白い煙が揺れている。私の選んだのはハンバーグで、メニューで見たより多いチーズがとろりと溶け出し、デミグラスソースと混ざり合い食欲をかきたてた。

「どうした?」

話が途中になったことを気にしてくれているのか、智臣さんに不思議そうに尋ねられた。

「いえ、なんでもないです。すごく美味しそう! 食べましょうか」

タイミングを失ってしまったことを残念に思いながら、私はフォークとナイフに手を伸ばした。
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