謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「――ん~! いい天気!」

日曜日の朝七時。アラームもないのに、いつもと同じ時間に目を覚ますと窓を開ける。外からは冬を感じるひんやりとした空気が流れ込み、気持ちがシャキッとするようだ。そのまま空を見上げると、澄み切った青い空が穏やかに広がっていた。
昨日は智臣さんのアドバイス通り、仕事には触れずに過ごした。
体が求めるままに眠り、起きると下手なりに自分で食事を作りしっかり食べた。それから、最近すっかり手を抜いていた部屋の掃除もきちんとして、すっきりした気持ちで買い物へ出かけた。三年ここに住んでいるはずなのに、まったく知らない場所や店を発見して、いかに自分の視野が狭いか感じていた。

「今日の朝ごはん、何にしようかな?」

空に近かった冷蔵庫の中が今日はいっぱいだ。ちゃんと栄養バランスも考えて、野菜も肉も買ってある。
久しぶりに使う炊飯器で炊いたご飯は、昨日のうちに小分けして冷凍した。それを一つ、解凍するあいだに卵を焼き、レタスとミニトマトを添える。ご飯を茶碗に移して、インスタントの豚汁を入れるとテーブルについた。

(なんだ。やれば、できるじゃない)

たったこれだけの、簡単なことすらしなくなっていた。時間がもったいないなんて、自分に言い訳をしてやらなかっただけだと、改めて気づいた。
使った食器も片づけ、出かける用意を始める。
智臣さんとの待ち合わせは、八時半にここの最寄り駅。なぜ知っているのかと思ったけれど、すぐ納得した。面談のときに見ていたファイルに、住所くらい書いてあっただろうから。わざわざここまで来てもらうのは気が引けた。けれど、『車だから』と押し切られてしまった。
時間の少し前に駅に着くよう家を出る。平日は多くの人が行き交う道も、休日の朝ということもあり閑散としていた。

「――琴葉!」

駅前に着くと、そうそうに呼びかけられる。道路の端に停められた、白いスポーツタイプのSUV車の横で、智臣さんが手を振っていた。

「おはようございます」
「おはよう、琴葉」

スーツ姿しか見たことのなかった智臣さんは、今日はオフらしいカジュアルな格好だ。ブラックのスエットジャケットに白いシャツ。細身のパンツをさらりと着こなしていた。
改めて見ても、目を引く人だと思う。一緒に歩いていて大丈夫だろうかと、自分の格好を見た。

「お見合いの日のワンピースも似合っていたが、今日の服も似合ってる。休みの日はスカートなんだな」

不意に褒められ、顔が熱くなる。選んだのは、なんの変哲もない、オフホワイトのニットに、ボルドー色のロングプリーツスカートだというのに。ただ、こんな服装で会社に行くことがないだけだ。

「そんなに持ち上げられても、何も出せませんよ?」

照れ隠しのようにそう返すと、智臣さんは笑いながら助手席のドアを開けている。

「それは残念。さあ、乗って」
「では、失礼します」

私の冗談めかした言葉がよほど面白かったのか、智臣さんはまだ、くすくすと笑っていた。それに決まり悪い思いをしながら、私は車に乗り込んだ。
智臣さんは運転席側に回るとシートに乗り込む。そしてシートベルトをしながら、じっと私を見た。

「今日は顔色がいい。昨日はちゃんと休めたみたいだな」
「言われた通り、休みましたよ。今日はいつもより体が軽いです」
「そうか。なら、多少歩きまわっても大丈夫だな」

嬉しそうに口にしながらベルトを留め、智臣さんは車のエンジンをかける。
今から行くのは、美術館。もらい物のチケットがあるが、会期終了間近で今週しか行けそうにないから、と智臣さんに誘われたのだ。
ネットで調べてみると、絵画に疎い私でも名前を知る画家の絵が、何点か日本初公開らしく、かなり盛況のようだった。
美術館へ行くのは、学生時代ぶり。普段足を運ばない場所に、少しワクワクしていた。
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