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「いくら取引先のアストレア薬品だとは言え、簡単に場所を譲るなどありえない。それから、社長に報告する前に、レイアウトの変更案を作成しなければ意味がない。この件は僕が引き受ける。課長は業務に戻ってくれ」
感情のこもらない、淡々とした声で智臣さんが言い放つと、課長は持っていた受話器を置く。課長は一瞬、反発するような表情を見せたあと、仕方なく引き下がっていた。
「伊東マネージャー。全体の配置図は来ているのだろう? それと、今回配置されたブースの見取り図を印刷して、ミーティングルームへ。それから、石田さん」
椅子から立ち上がり、自席で様子を窺っていた私に、智臣さんは呼びかける。
「はい」
「決まっていたレイアウトの、詳細な図面を印刷して来てくれ。すぐに変更案を作成する」
「わかりました」
なんの感情も読み取れない、落ち着いた表情で智臣さんは的確に指示を送る。もしかすると、智臣さんと伊東さんの二人だけで変更案を作成してしまうかもしれない。そんなことを思ったが、担当者としての私の立場を尊重してくれたようだ。
すぐさま指示に従って、決まっていたレイアウトの図面を印刷する。それを持ち、先に部屋に入って行った伊東さんに続いた。
八人ほどしか入れない、ミーティングルームに入ると、奥側に智臣さん、その向かいに伊東さんが座っていた。私は伊東さんの隣席に座ると、すでに広げてあった図面の横に、持っていた図面を並べて置いた。
「こんなことが起きるなんて……。ちゃんと仮申し込みはできていたんです。なのに、変更を依頼してきたのはおたくの会社だろうと。そんなはずないのに……」
伊東さんは、まだ納得できないといった様子で悔しさを露わにしている。私もまだ、状況を飲み込むことができず、頭は真っ白だ。
「マネージャー。気持ちは理解できる。だが今はレイアウトを変更するのが先だ。社長のスケジュールは押さえている。タイムリミットは、午後5時半。それまでに、なんとしても形にするぞ」
激励するようなその言葉に、伊東さんはハッとして顔を上げる。智臣さんは、そんな伊東さんと、そして不安を隠しきれていないだろう私の顔を見てうなずいた。
「ですね。すみません、弱気になって」
伊東さんは気持ちを切り替えたのか、背筋を伸ばして返事をする。私も同じように、智臣さんに勇気づけられていた。
広げた図面を三人で確認する。全体のブース配置図を見ると、当初入るはずだったブースにはアストレア薬品の名が入り、その隣のブースには、ライバル企業でもある五ツ星医療器が入っていた。蒼波メディテックのブースは、そこから離れた場所になっている。三方向から入れるはずだった導線は二方向に変わり、ブースの形も変わってしまっている。
(こんなに……変わるなんて……)
改めて、伊東さんがこんなに焦っている気持ちが痛いほど理解できる。パッと見でも、簡単に変更できる内容ではなさそうだ。
「――では、こうしてはどうでしょうか」
来場者の流れを予想しながら、新しいブースの図面に直接書き込む。消せるインクのペンを使っていて、さっきから何度も書き換えながら配置を考えていた。
「そうなると、ここが詰まらないか?」
唸るように伊東さんが指を差す。ブースを頭の中で組み立て想像してみると、言われるとおりだ。なかなかすんなりと決まらない。こうし始めて、かれこれ一時間半が経った。まもなく午後5時。智臣さんが腕時計を確認する回数も増えていて、どこか焦っているのを感じた。
そのときふと、美術展の一番小さな展示室の様子を思い出す。
「こことここを、入れ替えましょう」
この案が否定されれば、もうあとはない。それでも言わなければ後悔する。そう思いながら、私は図面に書き込む。
「だが、それでは製品が見えない」
難しい表情で図面を眺めたまま、智臣さんは口にする。その指摘は、想定内。私は、ぐっと手を握ると、腹をくくって切り出した。
「それが、狙いです」
きっぱりと言い切る私を見て、智臣さんは目を見開く。そして、気を逸らすように回していたペンを止めた伊東さんと顔を見合わせた。
感情のこもらない、淡々とした声で智臣さんが言い放つと、課長は持っていた受話器を置く。課長は一瞬、反発するような表情を見せたあと、仕方なく引き下がっていた。
「伊東マネージャー。全体の配置図は来ているのだろう? それと、今回配置されたブースの見取り図を印刷して、ミーティングルームへ。それから、石田さん」
椅子から立ち上がり、自席で様子を窺っていた私に、智臣さんは呼びかける。
「はい」
「決まっていたレイアウトの、詳細な図面を印刷して来てくれ。すぐに変更案を作成する」
「わかりました」
なんの感情も読み取れない、落ち着いた表情で智臣さんは的確に指示を送る。もしかすると、智臣さんと伊東さんの二人だけで変更案を作成してしまうかもしれない。そんなことを思ったが、担当者としての私の立場を尊重してくれたようだ。
すぐさま指示に従って、決まっていたレイアウトの図面を印刷する。それを持ち、先に部屋に入って行った伊東さんに続いた。
八人ほどしか入れない、ミーティングルームに入ると、奥側に智臣さん、その向かいに伊東さんが座っていた。私は伊東さんの隣席に座ると、すでに広げてあった図面の横に、持っていた図面を並べて置いた。
「こんなことが起きるなんて……。ちゃんと仮申し込みはできていたんです。なのに、変更を依頼してきたのはおたくの会社だろうと。そんなはずないのに……」
伊東さんは、まだ納得できないといった様子で悔しさを露わにしている。私もまだ、状況を飲み込むことができず、頭は真っ白だ。
「マネージャー。気持ちは理解できる。だが今はレイアウトを変更するのが先だ。社長のスケジュールは押さえている。タイムリミットは、午後5時半。それまでに、なんとしても形にするぞ」
激励するようなその言葉に、伊東さんはハッとして顔を上げる。智臣さんは、そんな伊東さんと、そして不安を隠しきれていないだろう私の顔を見てうなずいた。
「ですね。すみません、弱気になって」
伊東さんは気持ちを切り替えたのか、背筋を伸ばして返事をする。私も同じように、智臣さんに勇気づけられていた。
広げた図面を三人で確認する。全体のブース配置図を見ると、当初入るはずだったブースにはアストレア薬品の名が入り、その隣のブースには、ライバル企業でもある五ツ星医療器が入っていた。蒼波メディテックのブースは、そこから離れた場所になっている。三方向から入れるはずだった導線は二方向に変わり、ブースの形も変わってしまっている。
(こんなに……変わるなんて……)
改めて、伊東さんがこんなに焦っている気持ちが痛いほど理解できる。パッと見でも、簡単に変更できる内容ではなさそうだ。
「――では、こうしてはどうでしょうか」
来場者の流れを予想しながら、新しいブースの図面に直接書き込む。消せるインクのペンを使っていて、さっきから何度も書き換えながら配置を考えていた。
「そうなると、ここが詰まらないか?」
唸るように伊東さんが指を差す。ブースを頭の中で組み立て想像してみると、言われるとおりだ。なかなかすんなりと決まらない。こうし始めて、かれこれ一時間半が経った。まもなく午後5時。智臣さんが腕時計を確認する回数も増えていて、どこか焦っているのを感じた。
そのときふと、美術展の一番小さな展示室の様子を思い出す。
「こことここを、入れ替えましょう」
この案が否定されれば、もうあとはない。それでも言わなければ後悔する。そう思いながら、私は図面に書き込む。
「だが、それでは製品が見えない」
難しい表情で図面を眺めたまま、智臣さんは口にする。その指摘は、想定内。私は、ぐっと手を握ると、腹をくくって切り出した。
「それが、狙いです」
きっぱりと言い切る私を見て、智臣さんは目を見開く。そして、気を逸らすように回していたペンを止めた伊東さんと顔を見合わせた。
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