謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

文字の大きさ
33 / 58

11

「いくら取引先のアストレア薬品だとは言え、簡単に場所を譲るなどありえない。それから、社長に報告する前に、レイアウトの変更案を作成しなければ意味がない。この件は僕が引き受ける。課長は業務に戻ってくれ」

感情のこもらない、淡々とした声で智臣さんが言い放つと、課長は持っていた受話器を置く。課長は一瞬、反発するような表情を見せたあと、仕方なく引き下がっていた。

「伊東マネージャー。全体の配置図は来ているのだろう? それと、今回配置されたブースの見取り図を印刷して、ミーティングルームへ。それから、石田さん」

椅子から立ち上がり、自席で様子を窺っていた私に、智臣さんは呼びかける。

「はい」
「決まっていたレイアウトの、詳細な図面を印刷して来てくれ。すぐに変更案を作成する」
「わかりました」

なんの感情も読み取れない、落ち着いた表情で智臣さんは的確に指示を送る。もしかすると、智臣さんと伊東さんの二人だけで変更案を作成してしまうかもしれない。そんなことを思ったが、担当者としての私の立場を尊重してくれたようだ。
すぐさま指示に従って、決まっていたレイアウトの図面を印刷する。それを持ち、先に部屋に入って行った伊東さんに続いた。
八人ほどしか入れない、ミーティングルームに入ると、奥側に智臣さん、その向かいに伊東さんが座っていた。私は伊東さんの隣席に座ると、すでに広げてあった図面の横に、持っていた図面を並べて置いた。

「こんなことが起きるなんて……。ちゃんと仮申し込みはできていたんです。なのに、変更を依頼してきたのはおたくの会社だろうと。そんなはずないのに……」

伊東さんは、まだ納得できないといった様子で悔しさを露わにしている。私もまだ、状況を飲み込むことができず、頭は真っ白だ。

「マネージャー。気持ちは理解できる。だが今はレイアウトを変更するのが先だ。社長のスケジュールは押さえている。タイムリミットは、午後5時半。それまでに、なんとしても形にするぞ」

激励するようなその言葉に、伊東さんはハッとして顔を上げる。智臣さんは、そんな伊東さんと、そして不安を隠しきれていないだろう私の顔を見てうなずいた。

「ですね。すみません、弱気になって」

伊東さんは気持ちを切り替えたのか、背筋を伸ばして返事をする。私も同じように、智臣さんに勇気づけられていた。
広げた図面を三人で確認する。全体のブース配置図を見ると、当初入るはずだったブースにはアストレア薬品の名が入り、その隣のブースには、ライバル企業でもある五ツ星医療器が入っていた。蒼波メディテックのブースは、そこから離れた場所になっている。三方向から入れるはずだった導線は二方向に変わり、ブースの形も変わってしまっている。

(こんなに……変わるなんて……)

改めて、伊東さんがこんなに焦っている気持ちが痛いほど理解できる。パッと見でも、簡単に変更できる内容ではなさそうだ。

「――では、こうしてはどうでしょうか」

来場者の流れを予想しながら、新しいブースの図面に直接書き込む。消せるインクのペンを使っていて、さっきから何度も書き換えながら配置を考えていた。

「そうなると、ここが詰まらないか?」

唸るように伊東さんが指を差す。ブースを頭の中で組み立て想像してみると、言われるとおりだ。なかなかすんなりと決まらない。こうし始めて、かれこれ一時間半が経った。まもなく午後5時。智臣さんが腕時計を確認する回数も増えていて、どこか焦っているのを感じた。
そのときふと、美術展の一番小さな展示室の様子を思い出す。

「こことここを、入れ替えましょう」

この案が否定されれば、もうあとはない。それでも言わなければ後悔する。そう思いながら、私は図面に書き込む。

「だが、それでは製品が見えない」

難しい表情で図面を眺めたまま、智臣さんは口にする。その指摘は、想定内。私は、ぐっと手を握ると、腹をくくって切り出した。

「それが、狙いです」

きっぱりと言い切る私を見て、智臣さんは目を見開く。そして、気を逸らすように回していたペンを止めた伊東さんと顔を見合わせた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい
恋愛
侯爵家の落ちこぼれ二女リンネは、唯一の取り柄である薬の調合を活かし、皇宮の薬師部屋で下っ端として働いていた。 そんなある日、近衛騎士団長リースハルトから直々の依頼で、自白剤を作ることになった。 しかし、極秘任務の筈なのに、リースハルトは切々と自分語りを始め、おかしなことに…? タイトルが気に入っていたので、2025年8月15日に公開した短編を、中編〜長編用に全編改稿します。 こちら単独でお読みいただけます。

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。