謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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4(智臣side)

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その翌年の三月。毎年行われる業界最大級の展示会に、例年通り足を運んだ。アストレア薬品も出展していて、来場した取引先などの関係者に挨拶することもあった。
それからもう一つ。蒼波メディテックのブースにも、足を運んでいた。取引先企業の一つではあったが、直接関わりがあるわけではない。けれど、里子さんとの話のネタにと思い、入社後初めて訪れた展示会から、必ず向かう場所だった。
今年は、今までと違う緊張感を抱きながら、そこへ向かった。

『琴葉、展示会のメンバーに選ばれて、張り切っているみたいなのよ』

里子さんにそう聞かされたのは、まだ夏の盛りだった。琴葉が無事に蒼波に就職したのは聞いていた。どこか嬉しそうに話す里子さんを見て、琴葉のことを羨ましく思った。俺がもし蒼波に入社していたら、こんなに喜んでくれたのだろうかと。
そんな里子さんは、きっと話は合うだろうからと、俺と琴葉が会う機会を設けようとしてくれたようだ。けれどそれは、断られてしまったらしい。

「あの子、なぜかお見合いだと勝手に思い込んじゃったらしいのよ。私が、お付き合いしている人がいるの? なんて聞いたあとだったからかしら」

残念そうに言いながら、里子さんはため息をつく。それに俺は、少しだけ笑みを浮かべて返した。

「まだ入社一年目です。そんな余裕もないんでしょう。俺もそうでしたから。それに……俺みたいな面白味のない男と、見合いする価値なんてありませんよ」

自虐的ともとれる言葉を吐くが、実際これは言われたことがある台詞だ。今まで交際してきた相手には、ほとんど同じようなことを言われて別れていた。それはそれで仕方ないと、冷めた気持ちで受け流し、相手を追うこともしなかった。

「智臣さんまでそんなことを言うのね。また機会は訪れるでしょうし、今はそっとしておくわ」

本当は、会ってみたいと思った。ずっと話だけは聞いていた琴葉が、どんな女性に成長したのだろうかと。きっと仕事に全力を尽くしているだろう琴葉と、話は合うだろう。いつかその日が来るのを、どこかで心待ちにしている自分がいた。
話しかけるつもりはなかった。ただ遠くでその姿が見られればいい。そんな気持ちで蒼波のブースへ向かっているときだった。

(琴……葉……?)

それは、別の企業のブース。少し閑散としたそのブースで、熱心にパネルを見つめる横顔が目に入った。距離はそこまで近くない。それなのに、まるで光の筋がそこへ通っているかのように、視線が吸い寄せられた。目の前を行き交う人など目に入らず、ただその横顔に釘付けになった。
最後に見せてもらった琴葉の写真は、高校の卒業式だった。学校の校門の前で、はにかんだような笑顔で母親と写っていた。それから数年経ち、すっかり大人の女性として成長しているのに、それでも俺には、それが間違いなく琴葉だと分かった。
飾り気のない長い黒髪を一つに束ね、シンプルなブラックスーツを着た琴葉は真剣なまなざしでパネルを見つめている。そして時おり、手に持つ手帳にペンを走らせていた。その姿は、里子さんから聞かされていた真面目な人物像と違わないものだった。
そのとき俺は、琴葉のことが心の底から羨ましいと思った。明るい光を掴むように目標へ進み続ける彼女と、後ろ暗い目的のために進むしかない自分。彼女の心の中は分からない。けれど、表情を見ていると充実しているのだと感じる。

(俺も……やっぱり)

俺は、新たに心に誓った。里子さんはもう社長ではなくなっていたが、それでも里子さんが大切にしてきたその会社に入りたい。
そのためには、もっと手土産になるような肩書が欲しい。その考えが、どこか歪んでいることに気づかず、俺はグラグラと崩壊し始めている道を進んでいた。
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